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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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295「空からの殲滅戦(1)」

「ふぁ〜っ!」


 早朝、思わずあくびが漏れる。


 現実では普通の時間に寝たが、こちらでは多分深夜近くまでレイ博士、ボクっ娘とオタトークを楽しんだせいだ。

 しかしボクっ娘は、いつも通り夜明け前には起きている様で、習慣とかタフさだけではない差を感じさせられてしまう。

 今もクロに手伝われて朝の支度を急いでいるのだから、情けない限りだ。


「アラ、ちゃんと起きられたみたいね」


 部屋に入って来たのはハルカさんだ。

 起きた時すでに隣のベッドには居なかったのだけど、どうやらお風呂に入っていたらしい。

 上気した肌が少し色っぽい。


「ショウも着替える前にお風呂して来たら?」


「どうせ汚れるし、顔洗うくらいでいいよ」


「そ。クロ、しっかり領主らしくしておいてあげてね」


「ハイ、ハルカ様。お任せ下さい」


 クロが恭しく一礼して、衣服を腕にかけたり持ったりしてオレの側へとやって来る。


「クロもすっかり執事だな。もう、このままずっとオレに仕えてくれよ」


「もったいないお言葉。お役目なき間のみとなりますが、誠心誠意お仕えさせて頂く所存です」


 少しスルーしてはいけない言葉を口にした。


「お役目?」


「来訪される『客人』にお体をご用意するお役目に御座います」


「誰から命じられるの?」


 ハルカさんがかなり興味深げに問いかける。

 オレも凄く興味ある。もしかしたら、何かのヒントが得られるかもと期待させる言葉だからだ。


「誰では御座いません。以前も申し上げた通り、世界から命じられます」


「いつ?」


「不明です」


「されない場合もあるの?」


「私は約300年、命令を受けておりません。今現在、暫定的に命令権を有されているのはショウ様に御座います」


「それじゃあオレが命じたら、シズさんの時みたいに『客人』に肉体を与えられるって事か?」


「左様です」


 二人の質問にクロが明確に答えていく。

 こうしたやり取りは久しぶりで、クロを『魔女の亡霊』から解放して以来かもしれない。


「けど、『客人』がいつ来るかなんて、私達には分からないわよ」


「私がお知らせする事が可能です」


「マジかっ?!」

「ホントっ?!」


 問答の末、別々の言葉でハモってしまった。

 かなりの爆弾発言だ。

 それに、それならば問いただすべき事がある。


「それじゃあさ、今前兆夢を見ているヤツが居るんだけど、そいつに肉体を用意してそこに入れる事が出来るのか?」


「少々お待ちを……現状では認知範囲内に『客人』の存在を確認出来ませんので不可能です」


「どうやったら出来るの?」


「通常であれば、1日前に場所の知らせを受け取ります」


「どこから?」


「どこからかは不明です。いえ不明でした。また、シズ様の場合は、初めての例でした」


 会話が一段落したので、二人して緊張を解いて息を抜く。


「フーッ。何も分からないのも一緒だな」


 少し驚かされた。朝から緊張と脱力の両方を強いられたのは誤算だ。そんなオレに、クロはいつも通り恭しい礼をする。


「お役に立てず、誠に申し訳ありません」


「クロのせいじゃないだろ。まあ、何かあればすぐに知らせてくれ」


「畏まりました」


 オレとクロとの会話が終わると、ハルカさんも小さく溜息を一つつく。


「驚いた。朝から心臓に良くない話ね」


「だな。まあ当面は、タクミが来そうなら分かればいいんだけどな」


「そうね。……さあ、早く準備して。今日も忙しいわよ」


「おう!」




 早朝からちょっとしたハプニングはあったが、その日は一昨日ほど慌ただしくはなかった。

 早朝に中央砦からノヴァ空軍の翼龍が飛来し、伝言と先導をしてくれたので、すぐにも飛び立った。

 各飛龍の背には、今まで同様に獣人のみんなも乗っている。


 レイ博士の館の留守番は、レイ博士とスミレさん、それにドワーフのラルドさんだけだ。

 ノヴァの軍から連絡に来た伝令と先導役の翼龍のライダーの話では、魔物達はレイ博士の館を攻める以前の状態で、昨日のノヴァ空軍の偵察の時点で既に回れ右をしている。


 そして、なまじ大群なので統制が難しいらしく、森の中を一晩で動ける距離は限られているので、空からの追撃なら十分に叩けるとの事だった。

 だからレイ博士の館の防備を多少手薄にしても問題はなかった。



 翼龍に先導されつつ集合地点の上空へと差しかかると、その北の方、魔物が拠点としていた廃墟跡と中央砦の間の樹海は、いまだ轟々とした勢いで大きく楕円を描くように燃え広がり続けていた。しかもかなりの進行速度だ。

 そして最初に火をつけた辺りは、すでに燃えるものがなくなって鎮火していて、黒い空間が広がっている。


 それを尻目に見つつさらに進むと、先導された先に多数の飛行物体が別方向から飛来するところだった。

 タイミング的に、ちょうど良かったらしい。

 そうして一同に会したが、数十騎もの巨大な空の眷属が飛ぶ様は壮観の一言に尽きる。

 思わず、ボーッと眺めてしまうほどだ。


 そうすると、先導する翼龍が近づいて来て、大振りの仕草でオレだけ下に降下するように伝えてきた。

 下とは、魔物どもが少し前まで使って都市跡の廃墟だ。

 そこはある程度開けた場所があるので、数体の飛龍なら降りる事も出来そうだった。

 妙な魔力の気配はないし蛻の殻なので、危険性もなさそうだ。


 伝令に応えると、みんなを残してオレの乗っている悠里のライムだけで地上へと降下する。

 オレより先に、大柄の巨鷲の天鷲は神殿跡の石造りの壁へと器用に降り立っていた。

 それに対抗するように、炎龍のテスタロッサも石造りの建物跡の屋根の縁に降り立つ。


「私も! ライムあそこに降りるよ!」


 悠里が一度唇をなめると、ライムを操って2体の近くの石造りの建物跡の上へと降り立った。

 二人と違って多少危なっかしいところはあったが、恥をかくほどの無様も見せずに、そして意外に器用に太い石造りの壁の上に降り立つ。


 そして三体が向かい合い、作戦会議が始まる。

 ライムの背にはハルカさんも乗っているが、他の二人はそれぞれ自身しか乗っていなかった。

 となると、話すのはオレだけの方が良さそうだ。ハルカさんに顔を向けると、そうだと目で伝えている。

 当然だけど悠里も黙りを決め込んでいる。


「みなさん、おはよう御座います」


「うむ、おはよう辺境伯。今日は良い一日になりそうだな!」


「おはよう少年。それに皆さんも」


 空軍元帥は、朝からテンション高めだ。

 それに比べて、火竜公女は少し眠たげな印象を受ける。シズさんもだけど、火に関わる人は低血圧なんだろうか。


「早速ですけど、作戦はどうされますか?」


「まずは魔物の本軍を叩く」


「そんな簡単に叩かれてくれますかね?」


「それなんだがな、魔物どもの統制が予想以上に乱れているのだ」


「戦いに備えて隊列などは維持しているけれど、まるて指揮官不在って感じだって偵察が言ってましたわ」


 少し困惑している感じだけど、二人の意見が同じということは間違いないのだろう。

 しかし解せない。


「こっちを油断させようとしているのでしょうか?」


「それも考えたわ。でも、魔物にはデメリットしかないのよね」


「フンっ。叩いてくれと言っているんだ。存分に叩いてやれば良いだろう」


 空軍元帥の言葉に、火竜公女さんが優雅に肩を竦める。

 敵の事情など、この際どうでもいいのは確かだ。

 そして全員気を取り直す。


「で、具体的には?」


「私のドラゴン達が三方から魔物を追い立てますので、辺境伯は西から追い立てて下さる? それと後ろからでいいので、そちらの炎龍が一撃して下さるかしら?」


 両腕を使って説明するが、小柄な人なので動きが少しカワイイ。


「分かりました」


「それと辺境伯、レナ大尉をしばらく貸してくれ。囲み込む前に空の掃除をしておきたい。竜騎兵はそれまでこの辺りで待機だ」


「分かりました。それで東の魔物の軍団は?」


 オレが東の方に顔を向けると、二人も似た様に東を向く。

 そして、それほど関心は強くなさそうだ。


「その後に叩きますわ。数も本軍より少ないし、逃げ道は本隊より遠いですから」


「なるほど。大まかには以上でしょうか?」


「そうだな。あとは、プレスした後に残敵掃討するくらいだ。では、空での戦いは早さが第一だ。早速取りかかろうではないか」


「分かりました。じゃあ、レナに伝えてきます」


「うむ。期待していると伝えてくれ」


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