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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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294「絵描きの就職斡旋(2)」

 その後、昼食も終えたのでそのまま学校に向かう。

 今日は『講演会』で話すことも多いので、オレとしても多少は気合を入れたいところだ。

 そして前回同様に玲奈と学校に向かい、文芸部室に向かっていると今日はこっちがタクミを見かけた。


「おーい、タクミー!」


「おーっす、ショウ。それに天沢さんも。今日も暑いな」


「こんにちは元宮君。ほんと、暑いね」


「それで進展あったか?」


「バイトの着替えの時話すよ。でも、そろそろって感じだ」


 タクミがニヤリと笑う。手応えがあるのだろう。

 玲奈がいるが、シズさんとの事を含めてタクミに話してあるので、ここで隠したりはしない。

 ただし、オレ達以外にはまだまだ内緒にしていた。


「そうか。けど、あと最低3日くらいは粘ってくれ」


「まだ取り込み中か?」


 言葉は少ないが、何かあるなら話せと目が言っていた。


「うん。今日、みんなにも話すけど、ノヴァで大事が起きてるんだ」


「専門サイトや掲示板で『魔物と戦争だーっ』て書き込み見たけど、マジなのか?」


「大マジ。魔将まで出てきたぞ」


「うっそ、マジか。他には?」


 途端にタクミのテンションが上がってきて、オレに肩を組む形で聞こうとする。


「悪魔とかは結構倒した。相手も強くて、こっちもかなりヤバかった。って、暑いって」


「ダメだよ。危険なことばっかりしてちゃあ」


「成り行きだから、仕方ないんだよ」


「向こうでは無敵のショウ様も、彼女には形無しだな」


「そ、そうだけど、そんなんじゃあ」


「お熱いのは、そっちみたいだな。じゃあ、後で聞かせてくれな!」


 タクミがからかいながら離れて、先に部室に向かう。

 オレと玲奈の邪魔を少しでもしない配慮だ。と言っても、数分も歩けば部室なんだけど。


 部室に入ると、かなりの人数がすでに来ていた。

 そして口々に、ノヴァの樹海外縁での戦争について聞いてくる。オレそっちのけで話し合っている人もいる。熱気は前回の比では無い。


 そうした人の輪の外に、前回初めて会った絵の上手い実は『ダブル』な山田さんもいた。

 そして、山田さんの近くにいた鈴木副部長が手招きする。

 山田さんはスケッチブックを片手で抱えている。


「こんにちは鈴木先輩、山田さん」


「おう。ご苦労さん。で、早速だが」


「うん。これを見て欲しい」


 山田さんがスケッチブックを差し出し、さらに二人がオレの両脇を固めてみんなからスケッチブックが他から見えないようにする。

 そして指定された場所を開くと、街の上空を通過する複数の飛龍と1体の巨鷲の姿が描かれていた。


 鉛筆描きだけど、相変わらず特徴をよく捉えている。

 間違いなくライムとヴァイス、ガトウさんの炎龍、それにエルブルスの飛龍たちだ。


「相変わらず上手いっすね。そうかー、街中から見たらこう見えたんですね」


「うん。街のみんなが騒ぐから咄嗟に空を見上げたら、見た事のある白いジャイアント・イーグルが目に飛び込んできてビックリしたよ!」


 山田さんは少し興奮気味だ。ついでに鈴木部長も喜色を浮かべる。


「月待らで間違い無いんだな」


「ええ、オレとオレんところの竜騎兵です」


「オレんところ? 何があった?!」


「あっ。えっと、後で順に話しますよ」


 食いつき具合が強いので、もともとの圧の強さもあって少し引く。相当関心が強そうだ。


「おう。また色々あったみたいだな。で、ノヴァの戦争に関わってきた、でいいのか?」


「関わるというか、かなり参加してきました。明日も追撃戦の予定です」


「追撃戦! ネットにその話はまだ上がってないぞ!」


 目が爛々としている。

 考えてみれば、幹部会議に参加したり最前線にいるので、オレの話はネットの普通の情報より早いのだろう。

 こちらで出回る情報に、少しは気にかけた方がよさそうだ。


「じ、じゃあ、それはオフレコで。明日の話ですから、みんなにも話さないようにします」


「そ、そうか。だが、後でいいんで、こっそり聞かせてくれ。気になるじゃないか」


 それにしても、鈴木副部長がいつになくグイグイくる。

 それはみんなも同じで、みいつも通り話していても、いつもより質問やツッコミが多かった。

 それも、一部のネット上でノヴァでの魔物との戦いの情報がかなり出回っているからだ。

 おかげで、みんなの勢いをなんとか抑えるのに、かなりの努力を割かなければならなかった。


 なお山田さんは、当人の希望でみんなには『ダブル』だとは身バレはせず、オレの話を聞いてイラストを起こしている人として正式に紹介された。

 ネット上にも絵をアップしている人はいるが、山田さんのは写実的というかリアル指向なので、みんなからの評判も上々だ。

 

 そしてバイトの時間も迫る頃、鈴木部長に打ち合わせとして、向こうでの明日の予定をかいつまんで話した後、山田さんに声をかけた。



「山田さん、ちょっと打ち合わせが」


 視線で二人っきりで話したいと回りに伝えると、部室の片隅で二人っきりになる事ができた。

 そして少し小声で話しかける。


「あの、向こうでも会えませんか?」


「えっ? いや、僕なんかが、ショウ君と向こうで会っても仕方ないだろ」


 オレの提案は相当意外だったようだ。

 しかしオレにも、オレなりの考えがある。


「紹介したい人が居るんです。ただ、ノヴァの郊外に住んでるから、オレ達がノヴァにいるうちに飛行場に迎えに行ければと思ってるんですが」


「誰?」


「レイ博士です。ゴーレム作ってる」


「名前くらいなら聞いた事が。でも、どうして?」


「こっちの知識や図面を絵で見たい的な事を言ってたので」


「仕事の話、かな?」


「はい。あと、あの人オタクだけど、同じ話題を話せる人が少なそうだから」


 オレの言葉に山田さんが苦笑する。


「僕の絵はアニメ絵じゃないから、受けないと思うよ」


「それなら仕事だけでもいいんです。山田さんのスキルは、もっと色々広げたらと思います。

 それにレイ博士は、魔法大学とか偉い『賢者』に知り合いは多いらしいから、そこからまた紹介とかしてもらえると思うんです」


「なるほど、仕事の幅を広げると言うなら、僕としては願ったり適ったりってヤツだ。ショウ君の都合で連れて行ってくれ」


「それじゃあ、日時はスマホで連絡します」


「うん、よろしく頼む。いや、頼みます」


「こちらこそ。それじゃあ、また」



 山田さんから離れて戻ると、タクミが待ち構えていた。

 少し探るような雰囲気を放っている。


「山田さんと何話してたんだ?」


「絵の打ち合わせに決まってるだろ。色々聞かれてた」


「あ、そうか。けど、聞いただけで、よくあれだけ描けるよな」


「お疲れ様」


 一緒にバイトに行くので、山田さんから離れるとすぐにもタクミが寄って来た。

 玲奈もすぐあとに来てくれるが、玲奈はバイト先の前で分かれるしかないのが辛いところだ。

 しかし玲奈には伝える事が有る。


「レナ、明日だけど、どこで待ち合わせする?」


「ショウ君の方の駅でいいよ」


「それはオレが甲斐性なさすぎだろ。レナの方の駅の改札にしよう。急行も止まるし」


「う、うん、じゃあそれで」


「なあ、野暮を承知で言うけど、そういうのは後で電話かメッセージで良くないか?」


「直接話して決めるからいいんだろ」


 タクミの突っ込みに、正面から切り返してやる。

 そうするとタクミも諦め笑顔だ。


「ハイハイ、お邪魔虫ですいませんね」


「あ、あの、ごめんなさい」


「天沢さんが謝る事じゃないよ」


「うん。ありがとう。あ、そうだ、シズさんから元宮君に伝言あるの」


「お、なになに?」


 それまでとは打って変わった食いつき具合だ。


「前兆夢の段階で魔法の幅を増やしたかったら、違う魔法を使うように意識したらいいって」


「魔法かあ」


 タクミが少し遠くを見るような口調で呟く。何か不満でもあるんだろうか。


「タクミは何が使えそう?」


「多分風の魔法」


「風ってことは気圧操作だな」


「科学用語っぽく言われるとファンタジー感ゼロだな。風の魔法でいいだろ」


「けど、四大元素とか四大精霊なんてないし、あの世界の魔法ってちょっと科学っぽいぞ」


「そういう噂だな。ところで、シズさんは何使えるんだ?」


 自分の事よりも、他人の事の方が興味深げだ。

 ちょっとタクミらしくない気がする。


「タクミ風に言うならメインは炎。温度操作だから、多少なら氷もいけるらしい」


「大爆発するやつは?」


「あれこそ科学と魔法の融合みたいな魔法だぞ。化学の実験で使いそうな薬品使うし、水素や酸素が出てくるし」


「そういうところは、ちょっと夢がないなあ」


 やはり少し不満そうだ。つまり、思っていた程幻想的でない事がご不満なのだろう。


「前兆夢の段階で幻滅してたら、あっちでやってけないぞ。ゲームと違って、飯も食えばクソもする。あっ」


 玲奈が一緒なのに、お下品な事を口にしてしまった。

 とりあえず玲奈に頭を下げるが、あまり気にした風ではない。少し苦笑気味だけど、そういう耐性はあるみたいだ。


「き、気にしないでいいよ。それで元宮君は、そろそろ前兆夢が終わりそうなの?」


「あ、うん。もう周囲の風景はかなりリアルだ。それに夢自体がどんどん長くなっているし、戦ったり以外の事もしてるな」


「馬に乗ったりとか?」


 手綱を握るような仕草をすると、タクミがウンウンと頷く。


「そう。飛行生物は流石にないけどな」


「飛行職は、前兆夢の最初から飛んでるらしいぞ」


「いいよなあ。空飛ぶのは」


「あっちに行けば、嫌ってほど空の旅になるぞ」


「それはそれで楽しみだな」


 今までと違って今ひとつ乗りが悪い。というか押しが弱いのは、リアルな戦闘とか不安もあるのだろう。


「だろ。それに、突然放り出されたオレと比べたらイージーモードだぞ」


「そりゃあ、ショウがハードモードなだけだろ」


 返しの言葉は、オレの気持ちを察してかいつものタクミに戻っていた。


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