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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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293「絵描きの就職斡旋(1)」

 あっちの世界、『アナザー・スカイ』のノヴァトキオ北方の魔の大樹海ではまだ戦闘は続いているが、こっちの世界、現実世界はいつも通りの平穏な日常だ。

 しかも今朝は、妹の悠里の襲来もなかったので静かな朝だった。


 一方でその日の『夢』の向こうでは、レイ博士の館に戻ってからも家臣の人達への説明と大まかな方針などを決める話し合いなどでかなり忙しかった。

 しかも夜は、レイ博士がオタトークをしたいと言い出したので、ボクっ娘と二人で現実世界を思わせる博士のオタク部屋でかなり遅くまで話に花が咲いてしまったりもした。


 しかし明日に響くと引き上げて眠れば、こうして平穏な現実世界が待っている。

 少し違和感を感じなくもないが、普通の夢だと思うことがないのは少し不思議な気もする。

 記憶があまりにも鮮明なせいだろう。



 起きるとすぐに、日課の『夢』の向こう側での記録をノートパソコンに書いていく。

 色々あったので書くことが多いが、慣れてきたこともあって主な点だけピックアップするだけなら、大した時間もかからなくなっている。


 それを場面場面を思い出しながら、時間の限りボリュームを付けていく。

 そしてそれがひと段落したら、今度は『講演会』で話す内容を紙のノートに箇条書きしていく。

 また、簡単な地図など説明に必要な分も描いていく。


 そしてひと段落したところで、今日の予定を確認する。

 今日は、夏休み最後の文芸部での『講演会』。興味を持っている部員を中心とした人たちに、『アナザー・スカイ』での出来事を話していく。

 これは昼から夕方までだ。


 しかし午前中はシズさんの家での勉強があり、夕方からはバイトが入っている。

 今日もスケジュールはガッツリだ。

 夏休みなのに休んでいる気はあまりしないが、『夢』を見ることで気分転換は十分過ぎるくらい出来ているので、今日も自分で立てた予定をこなしていく。



「おはよう御座います」


「今日もよろしくお願いします」


 挨拶しながら悠里と一緒に軽く頭を下げる。

 もう玲奈も来ていて、二人がオレ達を迎えてくれる。


「いらっしゃい、ショウ、悠里ちゃん」


「おはよう、レナ」


「あ、おはよう……御座います、玲奈さん」


「おはよう、ショウ君、悠里ちゃん」


 シズさんの家の隣にある、シズさんの家が神主を務める神社脇にある社務所へ行くと、もうシズさんと玲奈、天沢玲奈がいた。

 悠里はまだ、玲奈とボクっ娘の違いに少し慣れてない様子だ。


 シズさん、もしくはこちらのシズさんは、初対面がこちらだったので同じ対応をしているのだから、そろそろ慣れて欲しいものだ。


 なお、天沢玲奈は、向こうのボクっ娘とそっくりなのだけど、全てを地味にした感じだ。

 顔を髪で隠しているのは相変わらずだし、メガネもかけているので、あまり顔が見えていない。


 それでも、以前より髪が顔にかからなくなっている。これも、二重人格のボクっ娘と入れ変わった時の影響なのだろう。

 こちらでお付き合いを始めたばかりのオレとしては、少し嬉しい変化だ。

 明日のデートも、より楽しみになる。


 そうして挨拶もそこそこに始まった勉強は、3人いるので家庭教師と言うより塾の個別指導に近い。

 しかしシズさんはテキパキとこなしていくし、加えてこっちが出来るギリギリくらいで進めるので、付いていくのが大変だ。


 しかも玲奈に遅れを取るのは当然として、悠里も普通で出来ている感じなのでちょっと凹みそうになる。

 もっとも、始めてまだ10日程で何かが変わる訳もないので、シズさんの言う通り地道に淡々と積み上げていくしかない。


 ちなみにシズさんの言う勉強のコツは、短時間でも集中する事と、無理のない程度に毎日地道に積み上げていく事だそうだ。

 一見なんでもない事を言っているのだけど、シズさんほど才能のある人でもそうなのだから、大いに聞くべき助言だろう。


 地道に積み上げるのは、こっちもあっちも変わりない。

 それだけに、向こうでの急に強くなっている事とのギャップに戸惑いを覚えているのだろうか。



「何か考え事?」


 シズさんちでの昼食後、隣に座っている玲奈がオレの顔を覗き込んでくる。

 距離が以前より近いのはオレに対してだけか、玲奈のコミュ力が上がったのか、どちらだろうか。

 机を挟んだ対面では、シズさんと悠里が主に悠里が迫る感じで楽しげに話している。


「普通は、こうして地道に勉強なり稽古するしかないんだよなあって」


「普通じゃないのは?」


 レナが小首を傾げる。


「向こうでのオレの強さ。技量が全然追いつかないんだよな」


「怖い化け物まっ二つなのに?」


「それくらい他の人でも出来るよ」


「いやいや、アレは無理だし」


 即座に机の対岸から突っ込みが入った。当然悠里だ。

 シズさんは小さく苦笑するだけだ。


「また戦ってるの?」


「ノヴァが魔物の群れに襲われてて、その助っ人中」


「大変なんだね」


「……ねえ、玲奈さん、その、入れ替わったりは無理なんだよね」


 玲奈を見ていた悠里がフイに問いかけた。

 相変わらず悠里は、半ば天然でグイグイと食い込んでいく。こういうところは、まだまだ子どもっぽいと言っていいのだろう。

 しかし玲奈もシズさんも、もう慣れている。


「うん。ちょっと前に一回あったっきりだし、もう繋がりというか、そんな感じも薄れてるから難しいと思うよ」


「そっか。けど、このまま完全に二人に分かれたら、その時にクロに別の体用意してもらえばいいんだよね」


「どうだろうな。私は向こうで体を作ってもらったが、いまだに今ひとつ実感に欠けるからな」


 シズさんが、なんとなく頭の上に手をあてる。ちょうど向こうだと狐耳がある辺りだ。

 そしてそれを見て、悠里が「あっ」と小さな声をあげる。


「けどさ、クロにもう一つ体を用意してもらうと、玲奈さんは何の獣人になるんだろ。狐、猫?」


「その時までのお楽しみだな」


 シズさんも楽しそうに笑みを浮かべる。

 ウン、この笑みはガチだ。


「た、楽しみにしないで下さい!」


「お兄ちゃんは、何がいい?」


「そうだな……って、変な事聞くなよ」


 危うく乗せられるところだった。妹様は、「チッ」って表情を陰で浮かべている。

 だから仕返しではないが、一言を釘を刺しておく。


「それと、クロの事は絶対に話すなよ。他のキューブの事も」


「分かってる。ていうか、向こうでの話し相手はみんな以外の『ダブル』はいないし、こっちで知ってる人もここのみんなだけだっての」


「他の人が居るところでポロリもなしだからな」


「しつこいなあ。ねえ、シズさん」


「まだ分からない事の方が多いから、慎重に越した事はないと思うよ」


「はーい。てかさ、普段慎重というか臆病っぽいのに、何であんな無茶できんの? マジ分かんないんだけど」


 悠里の躾は、シズさんかハルカさんが一番だ。

 ただしオレへの容赦なさに変化はなさそうだ。

 それに悠里は、イノセンスなだけあってか、時折いいところを突いてくる。


「自然と動けているだけかな。意識してしたらロクなことないし」


「あっそ。けど、何からしいな」


 何か言っている様で何も言っていない悠里の、オレへの評価は相変わらず低そうだ。

 昨日お礼を言われた事とオレ自体への評価は違うのは当然だけど、多少の上方修正があってもいいんじゃないかと思いたいところだ。

 そんなオレ達を玲奈とシズさんは、仲がいいねとでも言いたげに見ているが、そうじゃないと言ったほうがいいかもしれない。


 と思ったところで電話だ。

 「ちょっと失礼」とシズさんがすぐにも立ち上がり、そしてスマホの画面を確認するもその場では取らず、部屋の外へ出てから電話に応対している。


 扉も閉じたのでほとんど聞こえないが、「はい、ご無沙汰しています」とか「その件は」「分かりました」「失礼します」など事務的で断片的な言葉をつなぎ合わせると、何となく目上の人などとの会話だろうと察しがついたが、戻って来ても当然何かを聞いたりはしない。


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