135「アイテム引き取り(2)」
会話の終了と共に一旦オレたちは部屋を出て、運び込まれているオレ達の荷物へと案内された。
荷物は全て商館の地階の倉庫に厳重に保管されていた。
水樽まで保管するのはちょっと笑いそうになるが、こういう措置も互いの信用の為に必要だし、国が神官というより神殿を欺いたりしないという政治的なポーズらしい。
けど、その樽のうち2つの中に、オレたちの目的のものが入れてあった。
ヴァイスの足に括りつけて4つ持ち込んだ樽のうち2つの蓋を開くと、緩衝材のおがくずの中に布や布袋に包まれたマジックアイテムが無数におさめられている。
この街に入るにあたり、念のため普段オレたちが身につけている武具の多くも入れてあるので、かなりの量だ。
「相変わらず、こっちの予想外の事してくれるわね」
「だが、合理的判断とも言えるな」
「市場で売り払って足がつくって事は、まずないだろうしねー」
「そんなに非常識なのか?」
「図々しいと言うか、何と言うか。相手が誠実そうな将軍で良かったと思うわ。他の人だったら、最低でも表面上怒ってくるでしょうね」
一応『帝国』の役人が同席しているのでコソコソ話しだけど、やっぱりオレは不用意に発言しない方がいいみたいだ。
とはいえ、この世界の国同士や支配階層の公式、非公式のルール、慣例、習慣を知っている『ダブル』は少数派らしい。
ハルカさんやシズさんの方が少し特殊なのだ。
とはいえ、今この時は『帝国』の人との話し合いなので、開き直るわけにもいかない。
もとから自分達の装備だったもの、遺跡で見つけた魔石、倒したドラゴンから取った龍石は除外した諸々を、用意してもらったワゴンに載せていく。
約20人分を7人で分配したうえに、オレたちが多めにもらっているので、改めて並べてみると相当な数になる。
また別のワゴンには、今までのオレたちの装備、遺跡で見つけた魔石、そしてドラゴンから得た龍石を入れた魔力を遮断する魔法の袋を載せておく。
その作業をしているさなか、小さな小箱が包みからこぼれ出ると浮き上がっていく。
それをボクっ娘の視線が追っていく。
「それは?」
「おっと。鑑定や換金できる機会が無かったからな」
袋から出て上に向かい始めたので、慌て手に取る。
そしてオレの手の中のものに視線が集まる。
「まだ持ってたのね」
「で、浮遊石か?」
「分かりません。何だと思います?」
「貸してみろ」
そう言うとシズさんは、手に取った小箱を一通り観察すると、『帝国』役人に断って鑑定の魔法をかける。
そしてその上で、魔法による箱の解錠を試みる。
そうしたところを見ていると、シズさんはいかにもな魔法使いだ。
しかし小さな魔法陣が1つ浮かんだ最初の魔法は効果がなく、シズさんが少し考えた後で自身を囲む大きな魔法陣が3つも浮かぶ魔法陣を展開して解錠を試みた。
その魔法の解錠はうまくいったようで、なにか「カチッ」という音が小箱から小さく響いてきた。
そしてシズさんが、さらに幾つかの魔法を使った後に慎重に開くと、箱の上蓋にへばりつくようにエメラルド色のドロップ状の半透明の石が見えてくる。
そしてそれをシズさんが慎重に手にすると、にわかに光り出す。
すると何もしていないのに、シズさんがゆっくりと浮かび始めてしまう。
しかも浮いているのはシズさんだけではない。シズさんの側にあった全てのものが浮かんでいる。
ちょっとファンタジーっぽい情景だ。
どういう原理で浮くんだろう。
「……魔力吸収型の浮遊結晶か……相当古いな。……この魔法陣は何だ?」
「シズ、調べるのは後にして」
「あ、ああ、済まない。だが興味深そうな品だ。ちゃんとした場所での鑑定をするべきだろうな」
そう言うと手を離して箱に仕舞うと、浮かんでいたシズさんの浮力がとたんに消えて、スタッと床に降り立つ。
「驚かせたな役人殿。さて、参ろうか」
言葉とは裏腹に何事もなかったかのように済まし顔のシズさんに呆気に取られた役人に案内されつつ、何かの交渉ごとを行う感じの別の部屋に案内される。
部屋にはおっさんの他にエリート官僚もいたし、他に数名いかにも軍人、魔法使いと言った出で立ちの人もいる。
交渉は、おっさんではなくエリート官僚がするみたいだ。
「これが全てそうですか?」
「はい。しかし、手に入れたうち3割程は他の者が取得したので、この場にはありません」
「そちらは構いません。それで3つに分類しているのは、何か理由でも?」
「こちらは市場で売却予定だった武具。こちらは我々が使おうと考えている武具。あと私どもの手前に置いているのは、我々が元から持っていた武具などです」
「つまり、こちらだけ買い取ればよろしいという事でしょうか?」
「それではあなた方が納得し難いでしょうし、わだかまりも残るでしょうから、こちらも全てお引き取りください。
ただ、私たちが一度は身に付け使っているので、何かしらの問題があったらと考え、分けて置きました」
「なるほど、分かりました。それにしてもこのカーリス・ナギル、ルカ殿と皆様の深いお心遣いに感服致しました」
それで話が進むかと思ったが、おっさんが一歩前に出てきた。
「待たれよ。こちらの品々は、ルカ殿たちがそのまま持つべきだ。好意を無にするようで誠に申し訳ないが、今回のような事がそもそも稀だ。全て返されては、むしろ戦いの中で倒れた者達が浮かばれまい」
「しかし、神殿巡察官殿の好意を無にする方が問題では?」
「かもしれん。だが、私は新たな主に使っていただくべきだと思う。これほどの力量を持つ若者達を見る事は、『帝国』でも滅多に無い。これも神々の導きではないだろうか」
なんだか年長者にいい感じな事を言われているが、オレ自身は能力と実力が釣り合っていないと思っているので、きまりが悪いだけだった。
しかし、少なくとも表面上そう思っているのはオレだけで、3人はおっさんの言葉を正面から受け止めているようだ。
『帝国』の人たちも、おっさんがそう言うならいいんじゃねって雰囲気だ。
「分かりましたオニール卿。ルカ殿たちもそれで構いませんか? ただ、そちらの武具の検分だけはさせていただいてもよろしいでしょうか」
「もちろん構いません。また、こちら側の中に、大切な遺品などがあるのでしたら申し出てください。その品に関しては、お返し致したく思います」
「重ねてのご配慮痛み入ります」
それだけ言うと、エリート官僚は鑑定魔法が使える部下を使ってマジックアイテムの検分を始める。
部下たちは淡々と検分をしていたが、幾つかのアイテムを調べている時、わずかに表情が変化していた。
だからオレは、他の3人に軽く目線を向けるが、ハルカさんが小さく首を横に振るだけだった。
そして30分ばかり経っただろうか、返す分も含めて一通り検分が終わった。
「お待たせいたしました。こちら側で、特に返却していただきたい武具、魔導器はございませんでした。
それにこちらの大剣と大弓、炎の杖は、我が『帝国』でも最高級の逸品にございます。例えこの場で返して頂きたくとも、この程度の規模の商館で保管している財では、対価をお支払いできなかったでしょう」
流石に驚きの発言だ。これほどの商館なら、大金を保管した金庫の一つや二つあるだろう。
つまり、アイテム1つで城や屋敷でも買えるほどなのではないだろうか。
呆気にとられていると、さらにエリート官僚が畳み掛けてきた。
「それらを皆様が所持されることに我が『帝国』は、今後一切異議を唱えないとお約束いたしましょう。後ほど、公式の書面にもさせていただきます。
ただその代りと言っては何ですが、できる範囲で構いませんので、ウルズの王宮、そしてその地下で何があったのか、お話いただくことはできないでしょうか」





