287「悪魔達の陰謀(1)」
「それは本当か?」
シズさんが重く静かに口を開いた。
それにオレは首を縦に振る。
「間違いありません。オレと悠里の前で、悪魔ゼノが口にしました」
「……そうか」
短く答えるとともに瞳を閉じて、少し顔を上に向ける。
何かを堪え、そして冷静になろうとしているんだろう。
下げた両手は固く握り締められ、さらに小刻みに震えている。
ノール王国は、シズさんにとって第二の故郷のような場所だったのだから、色々な感情が込み上げてくるのは当然だ。
しかしシズさんは自らの想いを抑え切り、顔を正面に戻して瞳を開け、そして大きく息を吐き出す。
まるで色々な感情も一緒に吐き出すような長い吐息だ。
「フーッ。……悪魔どもが滅びた我が国を利用しようとした、と考えるのが今は妥当なところだな」
そう言った後で、もう表情と雰囲気も平静になっていた。
流石の胆力だ。
「私、朝にこの話は先にショウから聞いたけど同じ意見よ」
「それにその言葉だけじゃあ、不確定要素が多すぎるね」
「あの時のヤツの話って、シズさんに関係があったんですね」
全員がそれぞれの考えや想いから複雑な表情をしている。
けど全員と言っても、今は5人だけ。
オレ達の個人的な情報整理と共有をと思って、今は領主の部屋で話し合いをしている。
部屋には、オレ、ハルカさん、シズさん、ボクっ娘、悠里がいる。悠里はどうしようかと思ったが、旅に同行すると言っているので加えることになった。
レイ博士も加わりたそうにしたが、面倒ごとを背負って旅に同行してもらうかもと釘を刺したら、なんだか申し訳なさそうに辞退してくれた。
勿論だけどクロとアイも、静かに部屋の脇で控えている。
そうしていると、キューブ型の魔導器を核としたゴーレムではなく執事と護衛の騎士にしか見えない。
そして今、色々と話した後で、最後に出たゼノがペラペラと喋った内容について、こうして全員が深刻な顔を突き合わせている。
悪魔ゼノが戦う前に口にした、オレ達が北の地を魔界化する計画を初期段階で阻止した事。
より具体的には、ノール王国の『魔女の亡霊』を滅ぼしてあの地を浄化した事と、北と大陸の連絡を寸断する為に進めていたハーケンの破壊計画を阻止した事の二つを、悪魔達が計画として進めていたという事になる。
単にそれだけならともかく、ノール王国が滅びた後に出現した『魔女の亡霊』が、シズさんを乗っ取って亡者のような姿で暴走したという事が、オレ達の感情を複雑なものにしていた。
しかし、これを伝えた以上、オレには言いたいこと、言っておくべきことがあった。
「悪魔が色々陰謀や策略を巡らせていたなら、それを確かめたいと思うんだけど、ダメかな」
「ショウは、ノール王国が滅びた戦争自体にも、魔物どもが絡んでいた可能性がある、と言いたいんだな」
シズさんもそう思ったからこそ、あれほど感情を抑えるのに苦労したのだ。
それは分かっているが、分かっているだけに捨て置けない。
「魔物の言葉を出されると、神官としてダメとは言えないのよね」
「でも、今から樹海の奥地に突撃とかダメだからね」
「私はシズさんのためなら、なんでもお手伝いします」
それぞれが意思表明してくれた。その顔に否定的な表情はない。
しかし問題だらけなので、次の言葉が継げなかった。そうするとハルカさんが、少し苦笑してから口を開いた。
「ダメとは言わないけど、レナの言う通り今すぐじゃなくていいわよね。シズ?」
「私としては終わった事だから、これ以上触れなくても構わないんだがな」
「嘘はダメだよ、シズさん」
「そうです。スッキリしないとって思います」
「という年少組の言葉もあるし、段階を踏んでいきましょう」
「どうするんだ?」
オレの言葉に、ハルカさんがオレの額をピンと撥ねる。
「ゼノが私と居た時にペラペラ喋った事がヒントよ。ちょっとは、そのオツムで考えてみなさい」
「えっと、魔物達がノヴァへの攻撃で時間をかけて色々と準備をしていた事と関係があるのか?」
「そうよ。他には?」
両手を挙げて降参の姿勢を示す。オレにはそれ以上は分からない。関連があるのかどうかすら分からない。
そうするとハルカさんが、この場にいる全員を見てから再び口を開く。
「最初に『今回だけで』って言ったわ」
「だからノール王国やハーケンも、ってことになるんだね」
「そうよ。それと北の件とノヴァの件は、どっちも魔物達が起こしたって事ね」
「そこまでは分かるけど」
「その後ゼノは、丁寧に逆算した日数を言いながら、私達が戦った事を順番に言ってくれたわけだけど、あれって緻密に計画していた裏返しの言葉でしょう。今日の竜騎兵で、多分確定だと思うの」
オレには全然見えてこないが、ハルカさんの言葉にシズさんが回答に辿り着いた表情を見せた。
「私達が奴らのスケジュールを崩したのか」
「うん、そう思う」
「あのー、もう少し分かりやすく説明して欲しい、かな」
ボクっ娘が小さく挙手しつつ口を開き、その横で悠里がウンウンと頷いている。
オレも全く同意見だ。
それに回答に至ったシズさんが、少し苦笑をした後答えてくれた。
「全ては、レイ博士達の行動を先制した奴らの行動が、今回の戦いの具体的な発端になる。
本来、奴らの計画通りだと、ゴーレム達を活動停止させるだけでなく、ノヴァの西の守りを崩していた筈だ。
そしてそれに慌てふためくノヴァの軍を、今朝の偵察隊の後に来る援軍なり本隊なりを加えた上で総攻撃する予定だったんだろう」
「ああ、なるほど」
く、悔しい。先にボクっ娘が理解した。
幸い悠里はまだだけど、お兄ちゃんの沽券にかけて先に回答に辿り着きたいところだけど、まだ話が見えてこない。
だから分かる限りを口にしてみた。
「えーっと、オレ達が魔物どもの計画を片っ端から蹴倒していった、って感じでいいんですか?」
「蹴倒す、か。いい表現だな。完成目前のドミノを崩されたようなものだろうから、連中は怒り心頭だったろうな。
そりゃあ、戦争に負けて逃げる途中でも、見かければ襲い掛かりたくもなるだろう」
「そうよね。逆の立場だったらって、思いそうになるわね」
オレの言葉に、シズさんとハルカさんが苦笑している。
良かった。当たりを引いたらしい。とはいえ、まだよく分からない。
幸い、まだ頭の上で沢山のクエスチョンマークがダンスしている悠里に、シズさんが顔を向けて分かりやすく解説しようと試みてくれた。





