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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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284「お礼参り?(2)」

 蒼いドラゴンは、館の真上で小さく宙返りを披露すると、そのまま既に溜め込んでいたのであろう魔力を全放出するかのような派手な雷息ライトニングブレスを、敵ドラゴンの集団に浴びせかける。


 1体に対してのブレスは予期していたようだけど、向かって左側の3体が雷の投網に捉えられ、感電と高温で一瞬動きを奪われる。

 中には、白い煙を上げながら空でよろめいているドラゴンもいる。


 そこに館の城壁から太い炎の槍と光り輝く槍の束が投射され、それぞれ1体のドラゴンとその乗り手をまとめて串刺しにする。


 さらにそこに、館の城壁の四隅にある塔の上から、魔力がこもった太い槍のような矢が打ち込まれる。

 この館の警備をしている、大きな石弓を装備したゴーレムによる自動攻撃だ。


 残りの1体は、ブレスを吐いた蒼いドラゴンがそのまま襲いかかり、そのまま運動エネルギーを利用して地上に叩きつける。

 さらにちょっと見た限りでは、乗り手の方はそのまま相手の乗り手に切り掛かり、討ち取っていた。


「ユーリって、ああいう所ショウと似てるよね!」


「みたいだな。それより!」


「ウンっ! 行くよ!」


「オウっ! じゃ、行ってくる!」


「えっ? ……いや、そうじゃないって!」


 二人の気合いの言葉と共に、右側の残り2体のうち1体の背へとオレは飛び降りる。

 オレはその声に応えるべく、降り立つと同時にその背に乗っている人型の魔物を一刀のもとに斬り伏せる。


 急降下に入っていたおかげで、ヴァイスの背を軽く蹴った分だけ一気に加速がついていたので、騎手の悪魔は切れ味のいいオレの愛刀で真っ二つだ。


 その次の瞬間、ヴァイスが上から下へと通り過ぎた時、ボクっ娘が何か言っていたが、きっと喝采か応援だろう。


 ところが、その隣を飛んでいた敵のドラゴンライダーから「おのれ、魔人めっ!」という、投槍の一撃と罵声を頂いてしまったので、その槍を咄嗟に掴んでしまった。

 投げるのがもったいない、なかなかの逸品だ。


 なお、オレが乗り込んだ飛龍の乗り手は、乗り込まれるという攻撃を全く予期していなかったのか、ほとんど反応を見せることは無かった。


 切り裂かれた切り口から、魔物特有の不活性化した黒い靄のような魔力を撒き散らしつつ絶命。

 胸のあたりから上だけが、しばらく鞍にまたがっていたが、オレがちょうど見えた魔石をその魔物の心臓辺りから取り出すと、崩れるように地上に落ちていった。


 そしてオレに罵声と投槍を浴びせてきた人型の魔物は、オレに向けて「その顔忘れぬぞ!」と捨て台詞を残しつつ、反転してきたヴァイスが迫っているので慌てるように逃げていった。


(変なフラグ立ってなきゃいいけど)


 と一瞬思ったけど、それよりも現状の方が問題だ。


「さて、オレに操れるのかな? なあ、頼むから地面に降りてくれないか?」


 騎手を失い制御をなくしたドラゴンだけど、一見そのまま真っ直ぐ飛行を続けている。

 騎手の新たな命令が無い為だ。

 こういうところは、馬と似てる。


 さらに手綱を取って声をかけてみるも反応はない。

 似たような事をしばらく続けても無反応だった。

 仕方なく下を見るも、飛び降りるにはちょっと高そうだ。死にはしないと思えるも、怪我くらいは覚悟が要りそうだ。


「無茶苦茶するなあ。それで、その子は元気?!」


 少しばかり途方にくれそうになったところに、敵の追撃を諦めたのかヴァイスとレナがやってきて平行飛行に入る。


「無傷だけど、オレの言う事はきいてくれないみたいだ」


「当たり前でしょ。ちょっとそっちに飛び移るから、受け止めて」


「おう、どんと来い」


「来いじゃないでしょ。ヴァイス、後お願いね」


 ヴァイスが小さく鳴くと同時に、少し上に位置していたヴァイスからボクっ娘がこっちの背に飛び降りてくる。

 受け止めてと言ったが、さすが空の眷属。軽業はお手の物で、飛び降りてきたボクっ娘の手を軽く取るだけだった。


「ありがと。それにしても、本当無茶するね」


「こういう事じゃなかったのか?」


「すれ違いざまに斬ってくれればよかっただけだって。それより席代わって。あと魔法使うから、ちょっと支えてくれる。流石に空でのテイムは初めてだから」


「あ、ああ。任せる」


「任された。とは言え、悪魔が操っていた子のテイムは初めてだから、失敗したら飛び降りるよ」


「その時はお姫様抱っこして飛び降りてやるよ」


「そういう事はハルカさんにしてよ。もしくはもう一人の天沢さんにね」


 ボクっ娘が口にしたのは、オレのこっちとあっち、『アナザー・スカイ』と現実世界それぞれでお付き合いしている女の子の事だ。

 そしてボクっ娘はそんな軽口をしつつも、すぐにも魔法を構築していく。魔法陣が2つ浮かび自身とドラゴンの体を淡く包む。


 その間オレは、ボクっ娘が魔法で精神集中している間に姿勢を崩したり落ちたりしないように体を支える。

 さらに余っている思考と視線で、周囲の状況を確認する。


 すでに敵の竜騎兵ドラグーンはいなくなっていた。

 悠里も無理して追いかけるようなことはせずに、今は館で二人を乗せている。

 最初に落とした乗り手の悪魔を探すためだろう。


 出来ればそれに参加したいと思ってたら、ボクっ娘の魔法が終了した。そして魔法が収まると、ボクっ娘が振り向いてニカッといつもの笑みを浮かべる。


「ちょっと構えちゃったけど、テイムには人も悪魔も差はないみたい。簡単にテイムできたよ」


「じゃあ」


「うん。この子は今はボクの言うことを聞いてくれるよ。悠里たちを手伝おうっか」


「取りこぼしはいいのか?」


 オレが敵が逃げた方を向くと、ボクっ娘もそちらに顔を向ける。


「逃げ足が速くてね。それにショウも気になったし」


「そりゃ悪かったな。じゃあ、ユーリ達を手伝うか」


「地上に降りた魔物もいるし、手は多い方がいいよね」


 言いながら、オレもボクっ娘も、その視線をみんなが戦っている方に向ける。


「ああ。行こう」


「あいよっ、お客さん」


 そうして蒼いドラゴンのいる場所まで飛んでみたが、事は終わった後だった。



「今頃来ても遅いっての。てか、無茶苦茶するな」


 地表に降りたら、開口一番で妹の悠里に罵倒された。

 蒼い竜の乗り手の悠里は、かなりがっちりとしたドラゴンの鱗で作った鎧を着込んでいる。

 背丈は160センチ程度と平均くらいで、少し青みがかったセミロングの髪をしている。

 みんなは可愛いと言ってくれるが、妹なせいかオレには今ひとつ分からない。


 それに少し前まで主にオレへの反抗期が強くてほとんど会話も無かったので、色々とまだ分かり辛いところがある。

 しかし今では、こうして比較的普通に話もする。

 しかも今の妹様の発言は的確だったらしく、ハルカさんもシズさんも苦笑気味。流石に今しがたの自分の行いが無茶だったと理解せずにはいられなかった。


「まあ、そう言うな。おかげで悪魔が操っていた飛龍を生け捕りにできたんだから」


「それはレナのお陰で、お、に、い、ちゃ、んの手柄じゃないから」


「生け捕ってくれたお陰だよ。それに悪魔が操っていた飛龍のテイムって、貴重な体験もできたしね」


 ボクっ娘までがフォローしてくれるのは、流石にオレも苦笑せざるをえない。


「ま、まあ、気をつけるよ」


「そうしなさい、この無鉄砲玉」


 ポカリと絶妙な痛さ、痛みを感じない筈のこの身に痛みを感じるギリギリでオレの頭を指で小突くのはハルカさんだ。


「楽に撃退できたから、結果オーライだろう。それより、ショウの生け捕った飛龍に乗っていたのが、こいつらの指揮官らしいぞ」


「それが分かったって事は、まさか悪魔を生け捕りに?」


「いいや。地上に落ちた下級悪魔を倒す時に、それらしい言葉を口にしていただけだ。もうこの通りだがな」


 と、黒いものがまだ少しこびりついている魔石を手に取って見せる。

 そう、オレも敵の体内から取り出したが、魔物には魔力を蓄積できる魔石が存在していて、強い魔物ほど大きな魔石が体内に存在する。

 しかもランクの高い魔物ほど、充填型である可能性が高く、そうした魔石は高値で取引される。

 つられてオレも、同じように手に入れたばかりの魔石を取り出して見せる。


「こいつが一番ねえ」


「実感ない?」


 ハルカさんの言葉に頷く。ついでに、評価もしておいてやろう。


「飛び移りざまに一太刀だし、向こうはとんど反応出来てなかったから、てっきり下級悪魔かと思ってた」


「それだけ非常識な攻撃だったって事ね」


 うん。呆れられてしまった。

 これだけの身体能力があるのに、なんでみんなは空中戦しないのかと、こっちが聞きたいくらいなのに。

 まあ、今はそれはいい。


「あ、けど、そいつと一緒に飛んでた奴から、罵声を浴びせられたよ」


「なんて?」


「オレの顔忘れないってさ。あれも下級の悪魔だろうな」


「それは御愁傷様。けど、本当無茶しすぎないでね」


 質問してきたハルカさんは、相変わらず手厳しいところがあるがちゃんと心配もしてくれる。

 そして彼女の常識と良識が、今のオレの多くの部分を形作ってくれているのだから心して聞くべきだ。


「イエス、マム。以後、心します」


「そう言って守ったことないでしょう」


 軽く睨みつけてくるが、心配しての事だ。


「まあ、イチャつくのは後にして、他の落ちた悪魔と飛龍を助けるか止めを刺そうよ。悪魔は再生するかもだし、落ちた龍が息も絶え絶えとかだったら可哀想だよ」


「だな。最後まで手を抜かないで行こう」


「だがそれも、急いだ方がいいだろうな。皆もそろそろ戻る時間だ」


 シズさんの言葉に反応して見上げた空には、友好の合図の翼を振るドラゴン達が戻りつつあった。


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