表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

160/402

278「悪魔の殲滅(2)」

「高貴にして光輝なる神々の王よ、我が前に立ち塞がりし愚か者共に鉄槌を! 行け、光槍陣!」


 ゼノがオレへの総攻撃を命じようと腕を振り下ろそうとした刹那、凛とした魔法の詠唱が遠くから響いてきた。

 その魔法を紡ぐ言葉にゼノの手がピクリと止まり、別の命令を発しようとした瞬間、魔法の構築が終わるよりも早く、オレの確信を上回る事態が起きた。


 右後ろから、地表を舐めるように圧力すら持つ強い雷の波が襲来して、魔物の半数ほどを向こう50メートルばかり包み込んでいったのだ。

 範囲から外れていたオレ達が身につける鉄製品が帯電するほどの威力だ。


 そしてその次の瞬間、ハルカさんが構築を終えた『光槍陣』の光る槍が魔物の群れに降り注ぐ。

 雷のブレスの一瞬遅れに15本の光の槍が後方から殺到し、魔力の反応が強いものから順に射抜いていく。


 悪魔ゼノも雷撃咆哮ライトニングブレスの水平放射の余波を受けていたのと、攻撃自体に気を取られていたため避けることが出来ず、光の槍を2本もまともに受ける。

 他の魔物達については言うまでもない。大抵は串刺しだ。

 ブレスと合わせて、目の前の魔物の3分の2程度が打ち倒されていた。


「ライムっ! よしっ、私も!」


 ライムの咆哮で一転して元気を取り戻した悠里が、輝く魔法の手槍が突き刺さった獣が色々混ざった不格好な下級悪魔に、龍の骨から生み出された痛そうな剣を一閃して鮮やかにとどめを刺す。

 胴を一閃する時、一緒に体内の中核にある魔石も半分に切り裂いていた。

 狙ってしたのなら大したものだ。


 同時にオレも、体を限界まで絞ってダークエルフっぽい細身の下級悪魔を、かざしてきた細い剣ごと上から下まで縦一線に切り裂く。

 頭蓋骨とか背骨があっても、真っ二つにできるものらしい、と妙に感心するほど綺麗に真っ二つに切り裂いた。

 こちらも強い魔力の反応に従って斬ったので、魔石も真っ二つだ。


 そしてそこに白い影が通り過ぎる。

 魔法の矢と共に突進していくのは、言うまでもなくハルカさんだ。

 光槍陣を2本受け、まだ状況が飲み込めないと言いたげな顔のゼノの体に魔法の矢が次々と突き刺さる。


 すでに光の槍を受けていたせいか、先日のように魔法の矢を魔力の幕のようなもので防いだりはしなかった。

 加えて、最初に出会った時のように動きにキレがない。

 朝からの連戦で魔力を消耗しているのも影響しているのだろう。

 悪魔の力も、無尽蔵ではないらしい。


 さらにそこに、ハルカさんの持つミスリルの剣が輝きながらゼノの胸を貫く。

 しかもそれで終わりではなく、体重をかけてぐっと押し込んだ後にグリッと剣を回し、さらに刀身に魔力を注ぐ念の入りようで、普通ならこれで完全な止めだ。


 しかし、ハルカさんは一切油断しておらず、その手を避けつつもゼノの体を足蹴にして剣を抜き去り、さらに飛び退いて防御姿勢を固める。


 そこで念のため、オレも細身の奴を倒した次の太刀で、やや横合いからゼノへ追い打ちを仕掛ける。

 下から斬り上げた形だけど、胸を袈裟斬りにして腕を一本頂戴した。肩からざっくりなのでやり過ぎ感はあるが、先日の借りはこれで返せただろう。

 ハルカさんの動きも、オレの動きを見越した上でだ。


 けどそれでも止めとはならず、黒い血まみれになったゼノが残った腕を大きく振り回す。

 口からも泡を吹いているのに、絶叫とも言える雄叫びをあげ元気いっぱいだ。

 やはり悪魔は、体内の魔石を砕かないとダメらしい。


 しかし、ゼノは暴れるように無茶苦茶に剣を振り回しつつ後退していてそれ以上の一撃を浴びせられなかった。

 それに尋常でない様子から、何をしでかすか分からないとオレの本能が告げていた。

 ゼノの体からの魔力の放出も、ハーケンで化け物となった連中と少し似ている。


 ハルカさんは、魔法で止めをさすべきか思案しているようだ。光槍撃なら、動きを止めるには十分な打撃になるだろう。

 そこにオレと悠里が、ハルカさんの魔法構築の際の援護を兼ねて左右に並ぶ。


「一人で全部倒す気だったの?」


「時間を稼げば来てくれるって信じてた」


「それなら、もう少しお喋りを楽しんでなさいよ。ヒヤヒヤさせないで」


 次の間合いを計る間、少し余裕が出て来た事もあって無駄口を叩きあう。


「あ、あの、」


「ライムなら大丈夫。体が大きいから、傷を塞ぐのに手間取っただけよ。あと、側にはクロを付けてあるから、雑魚なら問題ないわ」


「ありがとうございます!」


「お礼は後にした方が良さそうだぞ」


 オレ自身が口にしたように、まだゼノは力尽きていなかった。

 暴れるのを止めるも、よく聞き取れない怨嗟の呻き声と共に、魔力の靄が漏れて全身を覆いつつある。

 穴だらけの体の各所は、ハーケンで見た化け物となった奴のように魔力で傷を塞ぎつつあった。

 自己再生とか自己修復という奴だろう。たたっ斬った腕も新たに生えつつある。

 人どころか生き物ですらない。確かに魔物の類だ。


 追い打ちをかけたいところだけど、どんな手を繰り出してくるか見当がつかないので迂闊に手も出せない。

 吹き出す魔力の澱みは、危険だと本能が伝えている。

 魔力相殺を思いっきり込めて切り裂くなどで倒せればいいが、その確信すら持てない不気味さがあった。


「あれだけして倒せないなんて」


「魔力相殺で倒せるかな?」


「不確定なことは出来るだけ避けた方がいいわ。範囲魔法で焼き払うか圧し潰すのが一番よ」


 思わず頷くが、確かにその通りだ。

 となると、次の一手だ。


「それなら、魔物もほぼ一掃できたし、一旦ライムのところまで下がるか?」


「出来ればそうしたいけど、目を離していいものかしら?」


「なんかヤバそうですよね」


 言っている間にも、ゼノの体の穴が空いたところから魔力が吹き出して、今まで二、三度見てきた魔力のスライム状のようなものになっている。

 倒せないのに傷つけすぎたせいで、自己再生能力が暴走でもしたのか、それとも自我を無くして体の形が保てなくなったのかもしれない。


 しかもそれだけでなく、触手のようになった魔力の何かは、地面を素早く這いずって次々にオレ達が倒した魔物に絡み付いていく。

 しかもまだ生きている魔物も、容赦なくというか分け隔てなく捉えていく。


「ヤバイぞこれ。逃げよう!」


「ライムで逃げましょう」


「ライム、飛べるんですか!」


「飛ぶくらいならね」


 そう言いつつ、すぐにも後退を開始する。

 近づくとライムが首をこちらに向け、悠里に向けて嬉しそうに小さく啼く。

 そして3人がライムの乗り込んだ時点で、ハルカさんがゼノの方を一度見てから声をかけて来た。


「まだ大丈夫そうね。少し待ってくれる。また空で落ちたら事だから、この命知らずに空いた穴を少し塞いでおくから」


「はい! 私、見張っておきます」


 そう言うと悠里はその場で立ち上がり、ゼノたちの方へ鋭い視線を向ける。

 見張りには、その場に残っていたクロも加わる。というか、測定装置としても優秀なクロだけで良い気もする。

 その間ハルカさんが、オレに治癒の魔法を施す。


「偉大なる神々の御手よ、彼の者の深き傷を癒し給え」


 そう言って呪文が完成すると、体が温かいもので包まれ、特に負傷しているところにその温かみが染み込むように伝わる。


「まだですか。そろそろヤバそうです!」


「ユーリ様のおっしゃる通りです」


「もう一回くらい治癒したいけど、取り敢えず大丈夫でしょう。相変わらず頑丈な体ね。悠里ちゃん、飛んで」


「ハイッ。ライム!」


 そう言うとライムに跨り直し、すぐさまライムを飛びたたさせる。

 しかし飛び立ったタイミングはギリギリだ。

 下を見ると、魔力でできた触手のようなものが、ライムの側まで伸びてきてたし、ライムが飛び立つとさらに追いかけてきてすらいた。


 フィクションだとよくある展開だけど、こういう事もあるんだと他人事のように感心しそうになる。

 それに振り切ったと油断しないのがオレ達だ。

 ハルカさんが素早くマジックミサイルを、迫ってくる魔物の触手中心に叩き込むのを忘れない。


 けど、敵はさらに一枚上手らしく、太くなった触手が何本もすごい勢いで伸びてくる。

 一方のライムは、負傷を魔法で癒したとはいえ、全力発揮はままならない。悠里が魔力を注ぎ込んでも、どれだけ頑張っても、いつもより鈍い動きしかできない。

 仕方ないので、魔力相殺で切り裂こうと中腰を上げたところで、前席のハルカさんがグッとオレの肩を掴む。


「勝手に無茶しない。大丈夫、仲間を信じて。ライムが派手にブレスを吐いたから、遠くても戦闘には気づいている筈よ」


「けど、触手が」


「あれくらい、魔法でなんとかしてみるわ。支えて」


 そうしてハルカさんが魔法を構築するべく精神集中を開始する。

 けど、簡単便利なマジックミサイルで防ぎきれないのは、今見たとおりだ。だから、恐らく光槍撃なりを準備しているのだろうが、間に合いそうにない。


 悠里もライムも必死だけど、ライムが病み上がりでは悠里がライムに魔力を送り込んでも空回り状態のようだ。


 これはいよいよ、魔力相殺にかけるしかないかもと、体を動かしかけた時だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ