268「抜け駆け(2)」
なお、博士との密談は、日本風のサウナに入っている時のことだった。
「もっと魔石があれば、派手に魔法使えるのにな」
「あるぞ」
「あるんですか?」
「うむ。ここはゴーレムを起動させる工房でもあるから、ノヴァが集めた魔石が吐いて捨てる程ある。でなければ、ここまで厳重に防備したりせん」
「なるほど。けど、なんでこんな危険な場所に工房と博士の館が?」
「西の抑えという役目が第一だな。それにゴーレム達の目的地は魔の大樹海だし、あと大樹海に近いほど魔石の魔力充填が早いからだ。決して吾輩が、ノヴァの連中と関係が思わしくないからではないからな」
(思わしくないんだ)と思うが、正直それはどうでもいい。
それより新しいアイデアも浮かんできたし、聞きたいことも増えた。
「ということは、起動前のゴーレムもあるんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。まだお披露目しておらんが、とっておきがあるぞ」
「けど、ゴーレムは足が遅いから、今回の戦いには間に合いませんね」
ウルズの地下の巨大ゴーレムが頭をよぎる。
あれは規格外の大きさで格段に歩みが遅かったが、ゴーレムとは基本動きが遅いものだ。
「そんなもの、一晩中歩かせれば問題も半減だ」
「じゃあ、今から戦場に間に合いますか?」
「明日の昼からでも、主戦場の後方くらいなら行けるのではないかな?」
少し何か考える表情を浮かべる。頭の中で、距離と速度を計算しているみたいだ。
「起動は何時できます?」
「うむ。明日朝から準備すれば、遅くとも昼までには」
「じゃあ、場所を選べば連れ込めそうですね」
「うむ。新型は多少足も速いからな。それで自分、何を企んでいる?」
レイ博士が今までのドヤ顔の連続から、興味深げな視線になっている。
「ちょっとした思いつきですが、相談に乗ってくれますか?」
「その言葉を待っていた! と言いたいところだが、一度水風呂に入らんか。そろそろ限界だ」
話に夢中で、確かにのぼせ気味だ。
「あ、すいません。それじゃ、水風呂の後で仕切り直ししましょう」
「おう、任せるが良い。陽キャ共に目に物見せてくれようぞ! ううっ、限界だ」
そんなやり取りがあり、真面目な話をしている時は頼りになるが、一度自分の世界に入ってしまうとただの陰キャになってしまう。
仕方ないのでレイ博士を横に置いて、説明を始めることにした。
そうして広間でみんなに作戦を披露した後、その日は疲れを取るために早めに就寝した。
多数のゴーレムが常時館を守っているので、夜の番は緊急連絡に備えるのも兼ねて家臣の人達だけが2人ずつ交代で行うだけだ。
レイ博士は、探査魔法も周囲に張ってあるので不要だと言ったが、家臣の皆んなが流石にゴーレムと魔法だけでは不安がったからだ。
この辺りは意識の違いなのだろう。
そして翌日、その日は丸一日を偵察と準備に費やした。
ボクっ娘、悠里、ガトウさんと竜騎兵の皆さんは、2から3騎で組んで方々に散っていく。
オレ達の作戦を行う予定地、魔物の策源地、そして両軍が対峙している森の極の辺り。
偵察では、奥地に向かったボクっ娘、悠里のペアが、ライダー付きの翼竜やグリフォンなどのインターセプトも受けたが、力の差が違いすぎたので撃墜スコアを稼いだだけに終わったと言っていた。
なお、前に聞いたことのあるボクっ娘のエース(撃墜王)というのは飛龍を倒した数で、翼竜やグリフォンはまた別のカウントになる。
天馬や飛馬など比較的弱い空飛ぶ魔物を全て含めると、ボクっ娘の撃墜スコアは三桁を超えるそうだ。
博士がブツブツと言っていたのだけど、確かに白い悪魔というニックネームも相応しく思える。
それだけ倒しても、ボクっ娘自身の魔力があまり増えていないのは、倒した魔物の魔力のかなりはヴァイスに行くのと、空中戦なので倒した敵の魔力を取り込みにくい事が原因しているらしい。
話が逸れたが、空中から偵察している間に、残った者たちは明日の準備に精を出す。
そして博士の館にあるものを用意する者と、周辺の偵察をする者、買い物に向かう者に分かれる。
獣人たちの半数ほどは、館で石でできたゴーレム馬が引くやたらと速度の出る大型の馬車を数台借り受けて、ノヴァの街に行って必要な物を買いに行った。
空から行けばすぐだけど、それなりの量を持ち帰らないといけないし、空からだと目立ちすぎるので陸路での買い出しとなった。
残り半数は、博士の館の少し先に広がる魔の大樹海の切れ目の辺りの偵察と、魔物がいた場合の掃討を行う。
余裕があれば、少し森の中にも入る予定だった。
またオレとハルカさんは、竜騎兵1組に分乗して、一度ノヴァの軍の本陣に赴いて、戦場の状況確認とこちらが遊撃戦をする予定の場所の偵察をしていることを伝える。
ノヴァの空軍も頻繁に偵察しているが、魔物の軍勢は少し奥に入った樹海の深いところで、依然として体勢を立て直している最中とのことだった。
館に残ったシズさんは、キューブなゴーレム達とレイ博士の館にある魔石を明日使えるようにする準備と、博士の指示でゴーレムの最終組あげと出撃の準備を手伝った。
そして昼食を挟んで午後のお茶の時間ももう直ぐと言う頃、ようやくゴーレム達の起動の準備が整った。





