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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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133「浮遊都市(2)」

 島に近づくと、これまたファンタジーらしい空を飛ぶ船が浮かんでいるのが見えてくる。飛行場に向かっているからだ。

 一見ただの岩のような浮遊石を含んだ岩を利用した空飛ぶ船の数は10隻ほど。


 この世界の飛行船の特徴は、浮遊石の上に船や大きな馬車のような構造物を載せていることだろう。

 ちょうど、ヘリウムを詰めたオレたちの世界の飛行船と真逆の構造だ。


 そういえば、廃鉱山で手に取った浮遊石は妙に軽く感じたが、浮いているから軽いのではなく、軽石のような構造で実際軽いらしい。

 だから利用もしやすいそうだ。

 同時に、脆くて崩れやすい上に精錬加工も難しい。


 そしてプロペラはともかく動力が発明されていないので、船と同じ風を捉える帆で進むか、飛行生物が牽くことで移動できる仕掛けになっている。


 そして船よりも、大型飛行動物の方が数の上ではずっと多い。

 郵便や急ぎの客など軽くて急ぎの荷物は、大型飛行動物で運ぶからだ。


 大型飛行動物は、浮遊石と似た原理の蹄で空を浮くという空飛ぶ馬の「天馬」と羽の生えたペガサスッぽい「飛馬」、それに小型の飛行龍の翼龍がほとんどだ。

 あとは、巨鷲より一回りかそれ以上小さい巨鷹がいるくらいだ。

 大型船は鯨のようなドラゴンが牽くらしいが、ここにはいなかった。


 また、警備隊のところには、翼龍だけでなく飛龍や獅子鷲グリフォンのような戦闘に向いた騎乗用の大型飛行生物もいるらしいが、一般用の飛行場からは姿は見えない。


 そして飛行場に入る少し前に街の全貌が上から見えたのだけど、街は大きく二重構造をしていた。

 島の中心に大きく立派な建物が集中していて、城壁と石垣で囲まれている。


 そして城壁を囲むように島の中央の湖から引かれたかなりの幅の水堀が、満々と水をたたえている。

 水がこの街の権力にも結びついているので、本来は不要と思われる水堀が大きな建物ばかり中核の街を囲んでいる。

 また堀は、貯水の一部も兼ねていた。


 そして水堀の外に一般市民の街が広がっている。

 島の外壁に違法建築のようにしがみついているのは、一般市民区画の更に外側になる。外周は無税なので、貧しい人が危険を承知で住んでいるのだ。

 近づいてみると、木造で安普請の建築もたくさん見かけられる。


 それでも見た目でワクワクするのは、中心部の立派な街よりも外周のごちゃごちゃした町並みだ。

 とはいえ、そうした景色をじっくり眺める時間はなく、ヴァイスは先導されつつ飛行場へと降りたった。


 ヴァイスに続いて、ずっとついてきていた飛龍も問題なく舞い降りる。飛行中もそうだけど、とても従順でおとなしい。

 レナ曰く、よく慣らされているから、適性さえあればオレでも一ヶ月も訓練すれば乗れるようになるくらいだそうだ。


 そしてオレ達がヴァイスから荷物などを降ろしていると、空港施設と思われる建物の方から数人近づいてくる。

 服装は大きく二種類に分かれ、片方は軽くデジャブーを感じる動きをする男達がいた。片方は腕章で分かったがハーケンの役人で、もう片方は一見すると貴族と軍人、さらにその副官や付き人といったところだろう。


 その二組の人々がオレたちの前までくると、まずはハーケンの役人が定型通りの挨拶などをしてくる。

 もっとも、その辺はハルカさんとボクっ娘が対応して、手続きなどはつつがなく終わった。

 そしてそれを待っていた別の一団が前に一歩踏み出る。


「私はアトランディア『帝国』、ハーケン商館の商館長のカーリス・ナギルと申します」


「同じく、アトランディア『帝国』本国より派遣された、武官のオニール・ゴードと申す。また、皇帝陛下より騎龍将軍の位を拝命しております」


 細身の文官の方は額が広くいかにもエリートっぽいが、どこか生理的に受け付けない印象がする。横長の細い眼鏡でもかけたら似合いそうだ。

 そして商館というのはオレ達の世界での大使館に当たるが、この世界でどこかに商館を置いている国はすごく少ない。


 もう一人の丁寧な口調の武官は、頭に白いものが混じる中年のおっさんだ。

 一見スラリとしているが、服の下は筋肉がゴツそうだし動きが洗練されすぎている。お腹も出てないし、いまでも相当鍛えているのだろう。


 豊かで丁寧に揃えられた顎髭を生やしているが、見た目の細身と少しアンバランスな感じだ。

 もっとも、武官と言っても、町中なので防具は付けず腰に剣を佩っているだけだ。


 そして全体としてだけど、ウルズの騒動の間はあれほど秘密保持に動いていたのでこっちはかなり警戒していたし、その件で話しを付けたいと思っていたのに、少なくともこうして面と向かっている限り、オレ達を敵視するような雰囲気はまるでない。

 もう彼らの中では、済んだ事でしかないのだろうかと思える。


 そんな疑問を頂きつつ、加えて相手の様子を値踏みしながら、社会的身分を持つハルカさんとボクっ娘が挨拶する。

 オレとシズさんは、あくまでハルカさんのお共で、公の場で発言できる立場じゃないことを身分差で伝えておく。


 そして挨拶が済んだ直後、実直な武人といった雰囲気のゴードさんが、突然膝をついて礼をとった。


「まずは、皆様に深く感謝を申し上げる」


 これには全員が驚いた。責められる事はあっても、感謝される理由がこれっぽっちもないからだ。


「我々は飛龍をお届けにきただけです。ゴード将軍、顔をお上げ下さい」


 突然だったし、社交辞令からも外れていようだ。

 そのことはハルカさんの慌てた感じと、もう名前も忘れそうなエリート官僚な商館長が一瞬見せた目付きでも察することができた。

 しかし武人のおっさんは、意を曲げる様子はない。


「この場にて詳細をお伝えすることはできぬが、私めの感謝をどうかお受けとり下さい」


「分かりました。神々に仕える者として、騎龍将軍オニール・ゴード、あなたの感謝を神殿巡察官ルカがお受けします」


「誠にかたじけない」


 武人の重々しい言葉でようやく場も収まり、とりあえず伝えてあった飛龍の引き渡しを行う。

 エリート官僚が仕切り直した。


「主を失っていた飛龍の保護並びに連れてきてくださった事、『帝国』を代表してお礼申し上げます」


「いえ、当然の事です。それよりも引き渡しは明日の予定。今日お出迎えまでいただけるとは思いませんでした」


「神殿巡察官と疾風の騎士が、善意で保護した飛龍を連れて来てくだされたので参じました。勇み足となったのでしたら、謝罪させていただきます」


「その必要はございません。我々も早くお渡しできて安堵しております」


「それは何よりでございます。それで謝礼の件ですが、本日これより我が国の商館にお越しいただけますでしょうか。

 また、我が国の感謝の気持ちとして、ささやかながら食事とひと夜の休息をご提供させていただきたく存じますが、いかがでございましょうか」


「神殿にひと夜の宿をと考えておりましたが、『帝国』のご厚意に甘えさせていただきたく思います」


 ハルカさんとエリート官僚の、面倒くさそうなやり取りがその後もしばらく続いたが、オレたちは『帝国』のお世話にならざるをえなかった。


 後で聞いたが、礼儀として断れないのだそうだ。

 神殿に泊まるろうと思っていたと口にしたのは、こっちの都合を考えてないという意思表示の嫌味らしい。


 しかしこれが三流の陰謀劇なら、オレたちは寝静まったあたりで一網打尽にされて暗殺か拉致監禁というところだけど、よほど頭のネジが外れた相手でもない限り、オクシデントではあり得ない。

 それくらい神殿の威光は強いし、神殿巡察官や疾風の騎士は社会的に尊敬される存在だ。

 とは言えオレ達は、『帝国』兵とやりあった上にお宝も奪った事になるのだから、客人扱いには疑いの目を向けてしまう。


 豪華な馬車で案内された先は、城壁の内側のさらに街の中心近くの一等地にある5階建ての石と煉瓦で作られた立派で豪華な建造物。

 街中なので広い庭付きのお屋敷などではないが、どこか19世紀くらいの洋風ホテルを思わせる。中も期待を裏切らず、オレの語彙では表せないほど豪華な内装で、『帝国』の豊かさ、国力を見せつけていた。

 廊下にまで、足が沈むほど分厚いカーペットが敷かれている。


 そして当てがわれた来客用の居間で軽く一服したあとで、食事の用意ができたと使いのものがやってきた。

 廊下にすら分厚い絨毯が敷いてある豪華なお屋敷のような商館なので、さらに豪華な食堂に案内されても、感情が麻痺していて感動したくても出来なくなっていた。

 毒殺の危険については考えなくていいと言うハルカさん、シズさんの話で安心していたのもあるが、オレとしてはそれ以前の問題だった。


 しかも感情が麻痺していたせいで、この世界に来て一番豪華な料理もロクに味が感じられなかった。

 この世界どころか、生まれて初めての生演奏の音楽付きの食事とか贅沢すぎるのに残念な限りだ。


 なお、食器の使い方など食事マナーは、オレ達の世界のフルコースの時とあまり変わりない。

 その事はアクセルさんの屋敷で体験した時に教わっていたので、ここでも恥をかかずに済んだので少しだけホッとした。


 なお、相手との話し相手は、もっぱらハルカさんの役割だけど、こういう場では実に堂に入っている。

 それでもカバーしきれないところは、シズさんが耳打ちしたり、さりげなくフォローしていた。

 ボクっ娘は、我関せずで聞かれたことに適当に答えつつマイペースで食事していた。



 そして食後、もっと気軽に話せるラウンジかリビングのような部屋に移動しての歓談となる。

 だが歓談というには、少し緊張感があった。

 例え相応の社会的地位のある者を招いたとはいえ、ただ飛龍を返しに来ただけで、これほど歓迎される筈がない。

 移動中の廊下でちょっと聞いただけで、それ以上はオレには分からなかったが、緊張感は十分に伝わってきていた。


 そしてこちらの若さの露呈で、ついにこちらから切り出すことになる。

 口火を切るのは、今まで主に話してきたハルカさんだ。


「誠に無礼かつ単刀直入で申し訳ないのですが、そろそろ本題に入っていただけませんか? このところ寝不足ですので、あまり長いお話しにはお付き合い出来そうにないのです」


というわけで、冒頭(61話)になります。

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