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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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266「配置変更(2)」

「西に移動?」


 会議を外で待っていたボクっ娘が首を傾げる。


「ここに居るよりいいだろ」


「気が滅入るもんな」


「でも西って、ボクらが全滅させたところだよね」


 会議参加組を出迎えた悠里は納得顔だけど、ボクっ娘は首を傾げる。

 文句は言われないが、戦いようもないと思えるからだろう。


「まあな。それに待機や予備じゃなくて遊撃な。博士を館に送り届けた後は、主戦場の外で好きにして良いっていう、ジン議員の配慮だよ。予備とかの名目で何もさせてもらえないより、ある程度好き勝手できる方がマシだろ」


「と言うわけで、よろしく頼むぞ」


「至らぬ元主人に成り代わり、道中宜しくお願い申し上げます」


 会議の後合流した、白衣姿のヒョロガリなレイ博士とロリッ娘猫耳メイドのスミレさんだ。

 レイ博士のテンションは至って低い。


「あれ、博士。ゴーレムの指揮はもういいのー?」


「ゴーレム達は、指揮用の魔法の指輪で命じれば動くようになっている。魔物どもには使えん細工もしてあるので、吾輩はもう用済みだ。それに錬金術師やゴーレム技師は、吾輩ほどではないが他にもいるしな」


 レイ博士は、会議の途中からずっとテンション低いままの理由を自ら口にする。


「ご自分で用済みとか言わないでください。余計に惨めになりますよ、元主人様」


「実際、奴らの目はそう語っていたではないか」


 スミレさんの毒舌は相変わらずのようだ。何のことはないやり取りだけど、少しホッとする。


「大変ですねレイ博士も」


「そう言ってくれるのは、自分らくらいだ。ハブられた者同士、吾輩の館でオタトークでもしながらやけ酒でも飲もうではないか」


「オタトークはともかく、オレ達は博士を送り届けた後も戦闘がありますよ」


「つれないのお。まあ、諸々が終わったら、吾輩の館を改めて訪ねるが良い。いつでも歓迎するぞ」


 そんな新顔登場を前に、悠里がスミレさんをガン見している。

 そして隙を見てオレを引っ張っていって、小声で問いかけてきた。「ねえ、あの娘、何あの格好? オタクにしてもダメすぎじゃん」と。


「スミレさんは、博士が作ったゴーレム。クロと同じで人じゃないんだよ」


「へーっ。てか、何でさん付け? それにあの格好」


「さん付けは何となく。あの格好は博士の趣味らしい」


「じゃあ、レイ博士がキモオタなんだ。キモっ!」


 「キモっ!」という声は博士にも聞こえたらしく、一瞬ビクッと反応して探るような視線を向けてきた。


「すいません。こいつ、オレの妹の悠里って言います。まあ、オレにもキモいとか言うので、大目に見てやってください」


「ご、ごめんなさい。それと、よろしくお願いします」


「こ、こちらこそ護衛よろしく。あ、あと、直にキツイ言葉は避けてくれると、ほんの少し嬉しいので、お願いできるかな」


「努力、します」


 そこでハルカさんが、手を「パン」と軽く叩いて全員の注目を集める。

 人を使った事もあるので、こういうところは手馴れている。


「じゃあ、挨拶はそれくらいにして、今日中にレイ博士の館まで向かいましょう。博士、誰の背に乗りますか?」


「わ、吾輩空は苦手なので、一番落ちにくいやつがいいのだが」


「じゃあヴァイスに乗って。普通の人も乗せ慣れてるから」


「スミレも一緒で良いのか?」


「ボク以外に4人まで乗れるから大丈夫。さ、早く」


「う、うむ、それではよろしくな」


 レイ博士はおっかなびっくりだったが、乗せてしまえばスミレさんに体を固定させてしまうと、後はいつも通りだった。

 そして護衛ということで、オレとハルカさんもヴァイスの背に乗ったが、特に何事もなくレイ博士の館に30分ほどの飛行で到着した。


 魔の大樹海外縁の中央の砦から空路で30分ほどの場所にあるが、ここにはレイ博士の屋敷と100体を超えるゴーレム達がいるので、ノヴァの軍隊は駐留していない。

 というか、館は実質無人だ。

 中央の砦とノヴァに向けてそれなりの道路も整備されてるし、中央の砦から比較的近いということもあるが、それでも無用心に思えてしまう。


 逆に東の砦は、空路で1時間以上かかるし魔物の脅威も西より強いという事で、かなりの数の軍隊が駐留しているそうだ。

 そんな違いを聞くと、なんだかレイ博士がひどく冷遇されているようにも思えてしまう。

 功労者というより成功者と見られているから、妬みや僻を受けて冷遇されているのかもしれない。


 ただ、ほとんど要塞と化しているレイ博士の館は、正直あまり近寄りたくはない雰囲気を濃厚に放っている。

 頑健な作りなのだけど、何か凶々しいとんがったデザインの建造物を中心にして随所にオタクっぽい。

 しかも、おっさんオタクが好きそうなデザインだ。


 館を囲む城自体は作業用のゴーレム達が今も拡張工事中で、中央砦より大きい上にずっと立派だ。

 もはや城と言っていい規模だ。

 その城を、100体ばかりの体長2メートルを超えるストーンゴーレム達が守っている。


 大きな弩を備えた塔にも、連射式の大きな弩を操るゴーレムが居たりと、厳重な防備を伺わせる。

 しかもゴーレム達のデザインは、どこかで見たことのある緑色の一つ目巨人なロボットに似ていた。


「うわーっ、オタクっぽーい!」


「そうであろう! オタクが最も大好きなロボットアニメをリスペクトしたデザインだからな」


「けど、オレらの世代って、昔のロボットアニメとか判らないんですよね」


「そうなのだよ。最近の『ダブル』のオタクにもウケが今ひとつでなあ」


 寂しげに語るおっさんオタクの姿がそこにはあった。

 まあ、ともかく、これで任務の一つは完了だ。


 そして今夜はここで泊まって、明日からは作戦終了まで遊撃戦という名目で自由に戦うことができる。

 そう思えば、昨日より気分は大分楽だ。



「意外に綺麗にしてあるな」


「非戦闘用の家庭用ゴーレムが沢山居るからな」


 言ったそばから、ぺったんこな円柱形のどこかで見たような機械っぽいゴーレムが、床掃除をしながら足元を通過していく。


「ここには今もお一人で?」


「た、たまに古い友人が遊びに来るぞ」


「ボッチなんだ」 


 大人な女性二人が無難な言葉をかけるも、悠里がまた言ってはいけないことをボソリと呟いてしまった。

 そして博士が自ら傷を広げていく。


「ぼ、ボッチではないぞ。今の吾輩にはスミレが居る」


「いや、けど、その娘ゴーレムなんですよね」


「ゴーレムだが、自我を持っている。だから知性体という意味で人と変わらん」


「エロい事も出来るもんねー」


 聞きつけたボクっ娘が特大の爆弾を投下する。

 凄く楽しそうだ。


「マジっ?! ゴーレムなんでしょ! てか、犯罪じゃん!」


「は、犯罪ではないぞ。だいいち、こっちで向こうの法律は通用せんぞ」


「それ屁理屈じゃん。うわっ、鳥肌立った! マジ、キッモッ!」


 早口でまくし立てる博士の言葉に、ボクっ娘のいらない一言を添える。そして悠里が喰いつく。

 そんな会話が、その後もしばらく続く。

 もう博士のメンタルゲージは、レイではなくゼロだ。


 それはともかく、諸々のゴーレム達に加えて、細かい作業や料理もこなせるスミレさんと実体化させたクロがいるので、意外に快適に過ごせそうだ。

 行くまでは、一人暮らしのむさ苦しい空間を想像していたが、館は相当広く調度も相応に整っているので、多少殺風景ながら古いホテルや旅館のようだ。


 オレ達以外にも、世話になる者が竜人と獣人が合わせて30名ほどいるが十分過ごせるほど広い。

 建物の中で眠れるだけでもポイント高い。

 その上、巨大な館と外周の城壁の間にある空間も一定規模の軍隊を受け入れる造りなので広く、ヴァイスやドラゴン達も翼を休めることができたので、ぶっちゃけ中央の砦よりも安心できる。


 おまけに、温泉旅館のような大きな風呂まである。

 流石に男女別ではないが、全員が交代で入ることもできた。

 そして交代で風呂に入りながら、ちょっとした城の広間のような大きなホールで、寛ぎつつ今後の方針を話し合う事にした。


 そうして、後から入ったオレが風呂から上がってくる頃には、家臣の幹部も全員フロを終えていた。というか、一緒に入っていた。

 竜人に獣人にドワーフと沢山の異種族と風呂に入るなんて、異世界ならではの醍醐味だ。


それに湯船にゆっくり浸かり頭もスッキリして、どうするのかも決まっていた。


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