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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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264「火竜公女(2)」

「私は、ノヴァトキオで竜騎兵たちを取りまとめている火竜公女と申します。この度の皆様の参陣、心より歓迎致します。共に、あまねく生物に仇なす魔物どもを吹き飛ばして差し上げましょう」


「こちらこそ、ご指導ご鞭撻の程お願い致します」


 竜人を代表してガトウさんが少しばかり堅苦しく返して、そのあとはそれなりに打ち解けて話も弾んだ。


 その後、獣人達も加わり、今後の空中からの地上支援について語り合った。

 普通の竜騎兵の近接戦と言えば低空すれすれを飛んで、馬上ランスよりも長い槍で敵を突いていくものだけど、エルブルス領の竜騎兵は竜自身も戦うのが珍しい。

 これはエルブルスでは、飛龍が自身も一人の戦士だと、当のドラゴン達が考えているからだ。


 また、弓矢、手槍はお互い使っているし、弓兵、槍兵を乗せもするが、魔法使いを乗せて魔法を浴びせかけるのは極僅かしかいない。やはり難易度が相当高いらしい。

 そういう点でも、オレ達はすぐにも有名になっていた。


 それに、そもそもハルカさんはノヴァではかなりの知名度らしく、今回の活躍でさらに名が広まったようだ。

 「あれって『煌姫コウキ』じゃね?」などという声も耳にした。


 あと、女性ばかりというオレ達の構成は、知名度向上にかなりの役割を果たしたのは間違い無いだろう。

 やはり軍隊というのは男所帯なので、女性は10人に1人もいない。

 市民軍だと戦闘職は皆無だし、『ダブル』でも2割に達していないほどだ。

 しかも、目立つ役職や位置にいる美人となるとなお希少だ。リンさんや火竜公女さんも凄く目立っている。


 そして何より、嫉妬の視線はハーケンでもあったが、ここでは絶対数も心理的な圧もハーケンの比ではない。しかもトゲトゲしさが、大きく増している。

 オレの事をほとんど相手にしないのが、その証拠の一つだろう。


 周りの呟き声などを聞く限り、オレが意識できないだけで、悠里も可愛い部類に入るらしい。

 オレにはお兄ちゃん属性とかないが、変な奴に目を光らせないといけないのだろうかと、少しばかり考えさせられてしまった。




「悠里ちゃん、凄く可愛いでしょう」


「そうだよ。ユーリめちゃ可愛いよ。どこに目つけてるの」


 そしてその夜、なるべく自然に質問してみると、やっぱり指摘された。多少は認識を改めるとしよう。


「可愛いなんて、そんな。みんなも凄く可愛い、いえ綺麗です」


「ありがとう。まあ兄妹なんて、こんなもんだよ」


「シズさん、お兄さん居るんですか?」


「居るよ。この夏は家にはいないけどね」


 オレ達に当てがわれた天幕の中で、就寝前に4人がオレを肴に女子トークしている。

 オレはホランさん達と一緒で良かったのだけど、オレとハルカさんが離れるのは彼ら的にNGだし、ノヴァの方針として女子は天幕という事になっている。


 それに悠里は、オレの妹だから辺境伯令嬢になるので他と一緒にできないし、そもそも天幕が足りてないという状況が重なった結果、この形に落ち着いた。

 

 今までよりさらに悠里が増えたことで、オレの場違い感が増しているので、なるべく隅っこに居ようと思ってしまう。

 まあ、しばらく女子トークが続くも、さすがに今はそれどころじゃないので徐々に真面目な話に移行してくれたので、オレ的にはホッと一安心だ。



「それにしても、今日は少し目立ちすぎたねー」


「存在感を示すのは目的の一つだったが、街の上空を通過したのは今から思うとやり過ぎになってしまったな」


「『ダブル』の一部は嫉妬深いものね。少し忘れてたわ」


 ハルカさんが心底ウンザリげに口にする。

 だから一応、考えていた事を提案してみる。


「報奨を辞退してもダメなのか?」


「報奨より手柄、金より名誉が基本よ。目立ってなんぼ。マウント取るのは何より大事、よ。何しろ、現実世界でのストレス発散の場所って考えている人が多いもの」


「自己顕示欲とか承認欲求は高いよねー。空軍の団結強いのも、嫉妬と羨望の的だからだし」


「そういうもんなんだ。私、自由に飛べれば、他はわりとどうでもいいんだけど」


「飛行職の人は、ユーリと同じような人が多いよ。ボクも同じ気持ち」


「だよねー。飛んでたら、モヤモヤとか吹き飛ぶじゃん」


 鷲と龍の違いがあるとはいえ、空を飛ぶ者同士すっかり意気投合している。


「とはいえ、飛行職は全体の2%もいたらいい方だからな」


「で、普通の『ダブル』は、手柄と名誉はどうやって求めるんだ? こんな戦争みたいな事は滅多にないだろ」


「その辺は本当にゲームと同じよ」


「フフフッ。そうだな。だから普通は、冒険に出て魔物、モンスターと戦うわけだ」


「基本、マウント取りたがるよね。その辺はあっちのネット上と同じだよ」


 ハルカさんはやはりウンザリげだ。シズさんどころかボクっ娘まで苦笑している。

 ハルカさんに純粋培養されたようなオレ、エルブルスで鍛えられてきた悠里には、あまり分からない事だ。

 3人もそれは分かっているようで、軌道修正を試みてくれた。


「マウントを取るのは、倒したモンスター、手に入れたアイテム、稼いだ金額、自らの強さ、使える魔法、まあ何でも構わないな。

 その挙句、倒した魔物をある程度だけど自動カウントしてくれる魔導器を発明したほどだからな」


「ただAランクの強い人とSランクは面倒を押し付けらやすいから、強さを隠す人も多いけどね」


「で、オレ達は、横入りな上に一番手柄だから嫉妬されるわけか」


「そうね。火竜公女が挨拶に来たのも、直接話すことで少しでもお仲間さん達の気持ちを和らげるのが目的ね」


「そういうのにウンザリした者は、ノヴァを離れるか、冒険者的な事を止めるか、最悪ドロップアウトだな」


 そこで基本的な疑問というか、今まで何度も思ってきたことが頭をよぎる。

 そしてそれは、とりあえず当面の戦闘で注意するべき事ではないかと思えた。


「シズさんやハルカさんみたいに、こっちの人達の中に入っていく人はやっぱり少ないのか?」


 オレの言葉にハルカさんとシズさんが、少し考える仕草をする。


「商売する人を入れても、全体の1割もいないんじゃない? ノヴァを離れても各地の冒険者ギルドを拠点にする人が殆どだし」


「特に以前の私のように、どこかの国に仕えるという話は、噂ですら片手で数えるほどだな」


「こっちの国からスカウトとかはないんですか?」


「あるよ。だが縛られる事を嫌う人が殆どだから、『ダブル』の側から断るのが普通だ。逆に、傭兵や短期バイトは多いがな」


「なんか分かります。面倒ですもんねー」


 悠里の言葉が、恐らく『ダブル』の感想の最大公約数だろう。

 せっかく異世界に来られたのだから、好き勝手にしたいと思うのが人情だ。


 そうした中で、ノヴァの評議会とか冒険者ギルドをまとめている人たちは立派だ。

 例えそれが自分達のコミュニティーを多少でも気持ち良く保つ為だとしても、数千人が属する組織を運営して、さらには擬似的とはいえ国を運営するのは生半可な事で出来るものではない筈だ。


「明日は、もう少しジン議員やリンさんの意見を聞いて、どう行動するか決めた方がいいのかもかもな」


 思わずそんな言葉がこぼれた。

 ハルカさんとシズさんも、微苦笑で肯定的だ。


「あら、分かってきたみたいね。人が集まるところでは、歩み寄りと摺り合わせが大切だって」


「何となくね。あと、ハルカさんが実質一人で旅をしてた理由も少し分かった気がする」


「そう? けど、実際行動にしない事をお勧めするわ」


「そうなのか?」


「やっぱり寂しいもの。でなきゃ、ショウを拾って餌付けなんてしてないわよ」


 実に実感のこもった声色だ。もっとも、言葉の途中で悪戯っぽい表情になったので、それも一瞬だった。


「なるほどね」


「何がなるほどなの?」


 少し怪訝な視線だ。ここは速攻補足するべきだろう。


「オレは運が良かったんだって思い直したところ」


「運で片付けないで」


「それはもっと嬉しいかな」


「あのさあ、イチャイチャするなら二人きりの時にしてよね」


 オレを小突くどころか、蹴りかけてきながらの悠里の一言には、ハルカさんと苦笑いするしかなかったが、異世界に来たところで世のしがらみからは逃れられない事を、改めて痛感させられる思いだった。


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