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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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254「援軍派兵に向けて(2)」

「あ、あの、旗騎はガトウ隊長の方が相応しいですよね?」


「今日、ユーリは領主様を背に乗せていただろ。それにユーリは、領主様の妹君だとお聞きした。領主一族の者が領主を乗せ旗騎となるのは、一番自然だろう。それと、領主様との関係については、きちんと報告しておいてくれ」


「はい、ご免なさい」


「うむ。それでは旗騎は頼むぞ。いや、頼みますよ」


「分かりました」


 ここで訓練や実戦経験を積んでいただけあって、聞き分けがいい。あっちでも、部活の時はこんな感じなんだろうと思わせる。

 などと思いつつ、残りの疑問を口にする。


「旗騎はそれでいいとして、同乗者の残りの一人は?」


「治癒できるやつを一人引っ張っていく」


 オレへの問いにホランさんが最後にもう一つ指を折って数え、それで大体話は固まった。

 竜騎士8騎に『帝国軍』の特殊部隊に匹敵しそうな獣人達20名なら、十分に存在感を発揮できる戦力だろう。

 当人達の顔にも、その自信が溢れている。

 しかしバートルさんは、少し懸念とも言える表情を浮かべていた。


「領主様、ノヴァトキオが今回出す兵力をご存知ですか?」


「えーっと……」


「私から報告しよう」


 オレが覚えているわけないのを知っているのだろう、すかさずシズさんが言葉を挟んだ。

 そして淀みなくスラスラと立て板に水で、先日冒険者ギルドのリンさんが話していた数字を挙げていく。


「約3000の兵に百数十体のゴーレム付き。空には強い方の騎士達ばかりが30騎か。相変わらずの大盤振る舞いだな」


「魔の大樹海が相手だもの、ある意味当然よ」


「しかも、一回の局地戦で強い魔力持ちを700とか、普通の国だと比較にもならん大戦力だな」


 そう、この世界には『ダブル』達が設定したランク制で分けると、Cランク以上の魔力持ちは1000人に1人程度しかいない。

 その上、神殿と魔導師協会が属性の多い魔力持ちをスカウトしていくので、国に属する兵士向きの魔力持ちは、全体の4割程度と言われる。

 しかも、全員が騎士や軍人になるわけでもない。加えて、こっちの世界の人だと年齢で弾かれるので、さらに人口当たりの比率は下がる。


 ノヴァの場合、最大で3000〜4000人の高い魔力持ちを動員できると言われているので、ノヴァ以上の軍事力を持っているのはオクシデントでは『帝国』くらいだと言われるほどだ。

 大国のレ・ガリアやミッドラントですら、ノヴァと同程度だ。


「加えて岩巨人の小型が100体、中型も50体以上戦闘参加する」


「岩巨人か、そういえば樹海にも街中にもウジャウジャ居たよな。しかも、これで軍事力の一部なんだろ。とんだ軍事大国だぜ」


「ホラン、我らもその軍事大国の一翼だと諸国からは見られるんだぞ。そしてその中で、存在感を見せておかねばならない」


「面倒なこって。ま、それくらいの方がやり甲斐があるってもんだ」


 ホランさんの言葉で話も固まった感じがあるので、オレはハルカさんに机の下で軽く小突かれると、小さく頷いた後で周囲をゆっくりと見渡す。


「話は大体固まったと思います。向こうが指定した期日まで最大残り5日ありますが、明日朝に出発して2日後の午後にはノヴァトキオに入りたいと思ってます。出陣予定の皆さんは、準備をよろしくお願いします」


「領主様よお、初の遠征なんだから、もうちっと景気のいい一言頼むぜ」


 ホランさんが冗談めかして言う。

 表情も柔らかく笑顔なので、それにうなずき返し、多少なら戦記や軍記物も読んでいたので、パッと思いついた言葉を口にしてみた。


「それじゃあ、ノヴァの連中にエルブルス警備隊此処に在りと見せつけてやりましょう!」


「「おおっ!!」」


 背後の人たちを含めて、多くの人が鬨の声のように声をあげた。

 それで会議は終わり、それぞれが興奮気味に言葉を交わして広場を後にして、明日朝の準備のために動き始める。

 悠里はオレ達には加わらず、竜騎兵隊の集まりに向かった。

 もっともオレ達は、元々短期間での往復前提なので、あとはせいぜい英気を養うくらいだ。




「あー、なんか気疲れした。今日はもうゆっくり休みたいな」


 なぜか領主の部屋に4人集まっていて、それぞれ部屋の中でくつろぎ、オレはベッドにうつ伏せで倒れこむ。


「そうだねー」


「レナは、会議で何もしてないだろ。それとも戦いで疲れたか?」


「ぜーんぜん。今日はハルカさんが魔法でビシバシ落としてくれたから、楽ちんだったよ」


「側から見てると、戦闘機がミサイル撃ってるみたいだったもんなー」


「簡単じゃないのよ」


 ハルカさんが少しは苦労を察しろと表情で語っている。


「けど、クロが体を安定してくれてたんだろ」


「高速で飛びながら魔法を構築する事そのものが凄く大変なの。普通は空中でするもんじゃないのよ」


「それは同感だな。どうして竜騎兵に魔法使いを同乗させないのかを実感させられるよ」


 ハルカさんだけでなく、シズさんも少しウンザリ顔だ。

 魔法を使えない身としては、どういうものなのかが今ひとつ掴めない。

 その表情をハルカさんに読まれてしまった。


「あのね、普通魔法使う時は、身動きしたら集中が乱されて魔法の構築が失敗しやすいの」


「だが、慣れてくるか高位の魔法が使えるようになると、低位の魔法の構築は容易くなってくる」


「あと魔力総量が増えると、魔力そのもので不安定さをカバーできるわね」


「まあ、構築しやすさを徹底した『魔法の矢』やハルカの使う神官の防御魔法のような例外もあるが、他の魔法は馬に乗っていても簡単に使えるものではない」


「ましてや、空中で激しく動いてたら魔法どころじゃないわね」


 二人が交互に話を続けていく。

 それで空中での魔法がどれだけ大変かが伝わってくる。


「けど二人は出来てたってことは、それだけ二人の技量や魔力が高いってこと?」


「そうなるわね。今日も自分の魔力総量が増えたのを実感できたわ」


「そうだな」


 ハルカさんが広げた右手を見つめ、シズさんが尻尾を振って見せる。


「それじゃ、今日は随分疲れただろ。早く飯食って、さっさと寝よう」


「だね」


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