253「援軍派兵に向けて(1)」
中央に円卓上に並べられたテーブルに、オレ達と領地と警備隊の幹部の人が座り、外周を警備隊を中心に諸々の人たちが囲んで思い思いに聞いていた。
そしてオレの手元には、エルブルス領のすべての戦力が記されていた。
個々人の情報を踏まえれば、あとで勉強したことも踏まえて復習しておこうと思うくらいには情報が多い。
・竜騎兵隊
・竜騎兵(4名) ※ブレスを吐ける大柄の飛龍
・竜騎兵(13名) ※普通の飛龍
総数17名という数は、人口規模から見れば異常なほど多い。
普通、人の国だと人口15〜20万人に対して1騎くらいだ。
ただしエルブルス領では騎士=竜騎兵でもあるので、騎士の数として見れば強さを別にすれば逆に少ない。
そして少ない分を、獣人が補っている。獣人達の方が、普通の騎士団的な役割だ。
竜騎兵隊は全騎が本領に駐屯。常に3分の1が、即座に動けるようにローテーションを組んでいる。
1日あればさらに3分の1が出動できる。
今日5騎が即座に動いたのは、そういうわけでもあったのだ。
しかしここには、飛龍の格下の翼竜の乗り手はいない。翼竜は沢山住んでいるが、飛龍共々乗り手なしだ。
しかし数自体は半端ない数がいるし、偵察や連絡などはある程度勝手にしてくれるので、戦力に数えてもいいかもしれない。
そして戦力は竜騎兵だけじゃない。
・警備隊(比率)
・竜人:50 ・獣人:150 ・矮人:70 ・他 :30
総数は大雑把に300名。しかも竜人は全員魔力持ちで、他の種族の魔力持ちはDランク程度を含めると約半数が該当する。
魔力持ちは、とても高い割合になる。
人の魔力持ちは100人に1人と言われるし、普通の人の国だと人口1万人に対して、魔力持ちの兵士は4、50名もいれば良いほうだから、龍人抜きで三倍近い数になる。
しかもここは魔物との戦いばかりなので、魔力の多い人の比率が高い。
加えて獣人は、人よりも戦闘力が高い。
なお、竜人は全員が魔力持ちなのは、そうでなければ空を飛ぶことが叶わないからだ。この辺りは、普通のドラゴンと同じだ。
しかもこの地には、総数2000人もの竜人が住んでいるので、本当の防衛戦になるととんでもない戦力を有していることになる。
女子供と老人を抜いて500人の竜人、空飛ぶ魔力持ちの戦力価値は、もともとの肉体の頑健さも合わせれば大国の騎士団にすら匹敵するそうだ。
しかも戦闘には参加しなくても、魔法を学んで使える竜人が他に500人もいることになる。
このうち3割、約150名が何らかの治癒魔法の使い手なので、エルブルス領とその周辺では竜人の治癒魔法使いだらけで普通の医療が殆ど必要ない。
そのせいで学問や技術としての医療程度が低く、世界竜エルブルスの虫歯の治療ができなかったというオチがある。
何事も極端なのは考えものだということだ。
警備隊は本領と、国境に当たる北砦、北西砦を主に守り、交代で警備任務に就いている。
本領と世界竜の住む山の辺りにかけては竜人が守るが、竜人は強さで言えば最低でもBランク。その上、人型や馬代わりの小型種以外の普通のドラゴンたちが出張ってくるから、手を出すバカは魔物でもいないそうだ。
しかし『龍殺しの称号』や『世界竜のお宝』を狙う別のバカが居るので、それへの対処も警備隊の任務になり、兵士の数が多い理由になっている。
この時代の兵士は、警察の役割も持っているからだ。
それ以前に、竜人を抜いて250名という数自体が、平時の兵士の数としては多い方になる。
これは周辺に魔物が多いためだ。
多いのは、ホランさんが言ったように、周辺の獣人達が魔物の領域の開拓を目論んでいて、義勇兵や傭兵のような形でエルブルス領にいるためでもある。
そして、この台所事情の中から、ノヴァに援軍を出さないといけない。
書面に目線を下げながら、思わず愚痴ってしまう。
「ちょっと見たくらいじゃあ、どうしていいのか分からないな」
「まあそうでしょうね。けど、何にせよ竜騎兵の一隊を出すのが精一杯よ。最初からそのつもりだったし」
「私、絶対にハルカさんに付いて行きますよ」
悠里が士気旺盛なのは結構だけど、他の家臣の皆さんも士気旺盛のようだ。
竜人のガトウさんが小さく挙手した。
「今日、北砦一帯の魔物を殲滅しましたが、どうも北西方面の連中も合流した上だったようです。北西方面を少し調べたところ、異常なほど澱んだ魔力の気配が低下していました。
魔物の森を焼き払っている事も加えると、北の安全は十分以上に確保できたかと思われますので、十分な援軍を出すことが可能です」
「というわけで、俺も行くぞ。何しろ、魔物の森が焼けきるまで仕事がなくなっちまったからな」
ホランさんが怖そうな歯を見せ、ニカリと強く笑う。
そしてしばらく、ハルカさんとガトウさん、ホランさんの行くいかないのやりとりが続く。
詳しい事情をまだ知らないオレが、何かを言える状況ではない。
そしてその議論が落ち着くのを待ってから、ようやく言葉を挟み込む。
「それじゃあ、具体的に誰が参加しますか?」
「今日、討伐に出た者たち中心でよろしいかと。領主様やルカ様たちとの連携も取りやすいでしょう」
「そこまで連れていけないわ。警備隊の参加も最低限にしてね。あくまで形だけの助太刀なんだから」
「しかし、エルブルスの存在感を見せるまたとない好機です。出せる限り出すべきですよ、ルカ様」
ハルカさんの遠慮に対して、ガトウさんがイケイケだ。
ホランさんも我が意を得たりと強く頷く。
「何にせよ、乗り手のない飛龍は外に出せんから、俺たちは竜騎兵の背に乗れるだけになる。だから数は出して欲しいぜ」
「さっきも話した通り、領内の警備を最低限として私とユーリを含め出せるのは8騎だ」
このガトウさんの言葉で、ほぼ決定となった。
バートルさんも最初から積極的なので、ハルカさんも妥協せざるを得ないという表情になる。
それを見てホランさんが発言した。
「兵糧などは?」
「道中1泊の野営分だけで十分よ。あとはノヴァに出させるわ。あそこには備蓄が一杯ある筈だから」
「となると、鷲の背は論外でユーリは領主様の旗騎にするから除外。1騎当たり騎手以外に俺達が3人ずつ乗るとして、7騎で21名か。じゃあ、20名選抜しよう」
「えっ? 私が旗騎なんですか!」
ホランさんの言葉に、悠里が素っ頓狂な声を挙げる。
それに注目が集まり、顔を赤くするまでがセットですといった感じだったが。





