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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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251「前倒し(1)」

 そうして燃やすのがひと段落したので意外にしっかりした石造りの北砦に行くと、ハルカさんによる負傷兵の治癒がちょうど終わったところだった。

 もともと砦の兵士は30人ほどで、怪我人は全体の3分の1程いた。重度の負傷者もいなかったらしい。

 それに、以前より魔力総量が大きく増えているので、ハルカさん一人でも十分に癒せたようだ。

 ただ、さすがにちょっとおつかれ気味だ。


「お疲れー。儀式の治癒魔法は、オレ達が戻るまで待てなかったのか?」


「危険な状態の人はいなかったけど、ショウたちに魔力が残っているか分からないから、もう一気にしてしまったわ。そっちは上手くいったみたいね」


「ああ。後は、燃え広がるだけだ」


「シズさん、凄い魔法が使えるんですね。大きな魔法陣が4つも浮かんでたし、森が真っ赤に染まってましたね」


「あれが『煉獄』っていう、広域高温化の魔法だ」


「こないだもダンジョン焼き払ったし、最近よく使ってるよね」


 オレたちがのんびり話していると、ホランさんとガトウさんもやって来る。


「おう、嬢ちゃんもお疲れさん。突発事態だったが、これだけ叩けば逆にこの辺りの問題も大元から解決できったってもんだ」


「そうですね。ちょうど領主様、ルカ様の来訪の時で良かった」


「しかも、これが明日か明後日なら、俺達援軍でノヴァに向かってたかもしれねーからな。魔物どもも、いい時期に来てくれたもんだぜ」


 その会話で、ふと思った事が口に出た。


「これって偶然だったんでしょうか?」


「何がだ坊主?」


「魔物達にとって、オレ達が来るのは予想外だったのかなって」


「まあ、そうだろう。何しろ、昨日夕方近くに海の南方から飛んで来たんだ。見てるわけがない」


「仮に何かが飛来したのを遠くから見ていたとしても、ここの魔物連中がショウ様達の実力を知っているとは思えません。さらにいえば、これだけの規模。かなり前から準備していないと無理です」


「確かにそうですね。すいません素人考えでした。来た途端に魔物の襲撃があったのに呆気なく鎮定出来たから、何か落とし穴があるんじゃないかと勘ぐってしまっただけです」


 なんでも物語のように事が動くわけがない。

 世の中、現実世界だろうとこの異世界だろうと、偶然と必然の積み重なりなのだ。

 と思い直したところで、みんながオレに注目しているのに気づいた。


「注意深いのは悪い事じゃないと思うわ」


「ここまで一方的にケリがつくとは思わなかったもんなー」


 ハルカさん達だけでなく、意外にも悠里がオレの言葉に賛同してくれた。


「気になるなら、シーナの街に今から戻ってみるか? 情報ならあそこの方が集まっているだろう」


「ひとっ飛びもいらない距離だし、すぐに着くよ」


「それが宜しいでしょう。我らは、念のため北西砦と周辺部を見回りだけしておきます」


 シズさんとボクっ娘の言葉にガトウさんが首肯する。ついでに、後始末もしてくれるようだ。


「じゃあ、私も見回りに行ってくるな」


「俺たちはもうしばらくここにいて、夕方にはシーナに戻る」


「お願いね。じゃあ私たちは、報告を兼ねて先に戻りましょうか。ショウ、声をかけて」


「あ、ああ。じゃあ皆さん、それぞれよろしくお願いします!」


 ホランさんとガトウさんに後を任せて北砦を後にした。

 本当、この魔物の群れの襲撃はなんだったんだろう。本当に偶然だったんだろうか。

 その事が気になり続けていた。



 北砦からシーナの街に戻ってきたら、まだ昼の3時頃だった。


 そのせいか、ヴァイスでオレ達4人だけが戻ってくると、周囲に人だかりができていた。

 空から見た限りでは、飛行場に向かってくる人の数もかなりに上っている。


 飛行場の降り立つと、一番最初に駆け寄るというか軽く低空を飛翔して近寄ってきたのは、竜人のバートルさんだ。


「領主様、何が起きたのでしょうか? 北の森の方角の大規模な火事は一体?」


「心配ないですよ。魔物の巣食う森を焼き払っているだけだから。それに魔物の群れは無事鎮定して、こっちの損害は最小限です」


「竜士達と警備隊は、念のための偵察と北砦の後片付けをしています」


 オレの大雑把な説明にハルカさんが補足する。

 二人の言葉を聞いて、周囲の人だかりが安堵する。


「そうでしたか。大きな火炎が巻き起こったので何事かと思いました」


「心配かけました。一足早く報告の伝令を送れば良かったですね。以後気をつけます」


「とんでもありません。頭をお上げください。しかし、よくあの森が焼き払えましたね」


 バートルさんは、魔物の森が燃えた事に心底感心している。竜人の表情も、ここまで感情が大きいと流石に読み取りやすい。


「シズさんが『煉獄』の魔法を使えるから、それで魔物が行動する前に燃え上がらせることができたんですよ」


「なるほど、そうでしたか。お疲れでしょう、館に湯と食事を用意してあります」


「ありがとう、バートルさん。けど、日が暮れるまでは、みんなの帰りを待ってます」


「左様にございますか。それではせめて、日陰で軽食などお取りください」


 そう言って、手を飛行場の隣の城館の方を示す。


「そうですね。それじゃあ、待ちながら、出来れば明日にここを発てる戦力の事とか聞いていいですか?」


「かしこまりました」


 そうしてバートルさんなどが離れたので、ボクっ娘以外のオレたち3人は、とりあえず飛行場の脇に移動する。



「出発は明後日じゃないの?」


 「なに、日にち間違えてるの」とまでは言わないが、ワケを話せと瞳が告げていた。


「そうなんだけど、ちょっとノヴァの事が気になるから。ここもノヴァトキオの領土になるんだろ。しかも竜騎兵とか一杯いる。

 だとしたら、ノヴァに増援を送らせないように、ここの警備隊を足止めするために攻めてきたんじゃないかと思って」


 歩きながら問いかけてきたハルカさんの言葉にオレが返すと、少し意表を突かれたような表情を浮かべる。


「ここは空を飛んでも1日半から2日はかかる遠方よ。魔の大樹海の魔物達と連動しているとは思えないわ」


「ずっと前から準備してたとしたら?」


 そう言うと、彼女が少し考え込む。

 隣ではシズさんが、フフっと笑みを浮かべた。


「だとしたら、私達は魔物、いや悪魔達にとって、とんだジョーカーだっただろうな」


「突然現れて、ノヴァの北西の魔物の群を全滅させて、ここの警備隊を足止め出来るだけの魔物の群れも、あっと言う間に倒したって事になるものね」


「しかも、どこも悪魔どもが指揮しているのだからな。確かに色々準備していた可能性は高そうだ」


 シズさんが思考しつつ言葉を足していく。

 話しつつも、色々と考えているようだ。


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