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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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250「警備隊の皆さん(2)」

 突然現れた高い魔力持ちの獣人なので、ホランさんはシズさんにかなり興味を持っているようだ。

 問いかける眼差しも、かなりの圧がある。獣人は種族は問わないが、出自、どこの出身かは拘るのだそうだ。

 しかしシズさんは、それを涼しく受け流す。


「三百年ばかり隠居していたので、知人縁者は皆無の根無し草だ。出自は意味がなくなっているよ。今は、少し前にルカ様とショウ様に命を救われたので、恩義を返すため旅に同行している次第だ」


「三百年か。確かにその尾の数と魔力なら納得だ。獣人じゃなきゃ、妖人になっていたところだな」


「遠い昔、憧れた頃もあったんだがな」


「そりゃ、俺達にゃあ無理な注文ってやつだ」


 そう言ってまた豪快に笑う。

 これで、それ以上問う気も無くしたようだ。見た目通り、さっぱりした人柄のようだ。

 そこに、オレがホランさんが笑うのを見ていたら、ガトウさんが少し興味深げな視線を向けてきた。

 最初は少し分かりにくかったが、こうして接していると表情もなんとなく読み取れるようになってきた。


「領主ショウ様、つかぬ事をお伺いしますが、我らやホラン達に自然と接触しておられるが、シズ殿の他に人以外の知人などおられるでしょうか?」


「いいえ、竜人は昨日バートルさんと話したのが初めてです。正直言うと、表情はまだ分かりにくいですね。けど、皆さんから見れば、人も自分たちとちょっと違う種族でしょう。お互いに、見た目や特徴が少し違うってだけだと思います」


 本当にそう思った。

 見た目が違うことに戸惑わないと言えば嘘になるが、見た目が少し違うだけで特に違和感は感じなかった。

 見た目はともかく、中身はお互いただの人だ。


 異世界だからという固定観念的なものがあるのかもしれないが、こうして話して笑い合えるのだから、特に分け隔てするのは何か違うと思えた。

 その思いは、ガトウさんにも伝わったようだ。

 側でやり取りを聞いていたハルカさんたちも、好意的に目を細めてくれている。


「違いない。いや、つまらない事をお聞きしてしまい申し訳ありません。領主ショウ様」


「とんでもないです。あと、長い呼び方は面倒でしょう。ショウだけでいいですよ」


「それではお言葉に甘え、皆の前以外ではそう呼ばせていただきます。ショウ様」


 横でホランさんが、胸の前で腕を組んでウンウンと深く頷いてる。


「流石、嬢ちゃんが連れてきただけあるな。領主が偏見あったり堅っ苦しい奴ならどうしようかと思ったが、安心してケツを任せられそうだ」


「そういう時は、出来るだけ横に、いや前に出ますよ。領主って言っても、勉強とかできないんで」


「そりゃ頼もしい。それに坊主が本当に坊主の年なら、領主の事なんざおいおい学べばいいだろ。それよりだ、落ち着いたら手合わせしてくれ」


 言葉の最後に、巨大な狼の顔がぐっと迫る。近くで見るとかなりの迫力で、気圧されてしまいそうになる。


「構いませんが、手加減してくださいね」


「それは無理な相談だ。地龍を一撃で倒したって聞いたぞ。そんな相手に手加減してたら、こっちが怪我しちまう」


「もう聞いてるんですか? 地龍は上から頭を突けばいいだけだから、強い人より余程相手しやすいですよ」


「そ、そうか? あの巨体だから、足や尾がかすっただけでも柔な奴なら終いだってのに、坊主は恐れを知らないな」


 なんと、ホランさんに引かれてしまった。

 「アハハ」と誤魔化し笑いをしつつ、今後地龍はデカイだけという認識は改めようと考えを改める。


「だから手綱を握るのに苦労してるのよ」


「ガッハハハっ! こんな奴の手綱を握れるのは、嬢ちゃんくらいだな」


 ハルカさんの返しに、ホランさんが楽しげに笑っている。

 どうにも獣な人に猛獣扱いされているようで解せないが、冗談ということにして、こっちも笑顔を浮かべておく。


「さあ、自己紹介と雑談はこれくらいにして、北砦の修復と魔物の後始末をしてしまいましょう。負傷者を集めて、まとめて癒すわ」


「合点承知だ。お前ら聞いての通りだ。とりかかっぞ!」


 二人の合図で後片付けが始まる。

 ボクっ娘と竜騎兵は、念のため周囲の偵察を実施。シズさんは、戦場になった場所のさらに先にある森を焼き払う準備に入る。


 オレは、シズさんの護衛という名の魔力タンク役だ。

 怪我人は少ないようなので、シズさんは魔石を大量に預かってきている。

 また、獣人達は火矢を準備し、2騎のブレスを吐ける竜騎兵は、『煉獄』の発動後に予備に残していておいた炎と雷の吐息を披露する予定だ。


 


「黒く深き闇よ、紅く激しき炎よ、漆黒にして紅蓮の園を我が前にもたらせ。『煉獄』」


30分ほどで準備が整ったので、シズさんの魔法が解き放たれる。ウルズの時より規模が少し小さいが、それでも十分な規模が高温の地獄へと変化する。

 そして森の澱んだ魔力にも、魔法の影響が波及しているのが見た目でも分かった。炎を押しつぶすどころか、魔法の影響自体が拡大していくイメージだ。


 そしてそこに、ドラゴンたちの吐息がまかれ、火矢が射掛けられ、それらが通常の何倍もの威力を発揮して、一瞬にして木々を燃え盛らせていく。

 まるで焚き火に着火剤を放り込んだような燃え具合で、この時期南から北へと強く吹く風に乗って火勢が一気に広がっていく。

 まるで早送り映像を見ているようだ。


「かーっ! 流石よく燃えるなあ! てか、なんて魔力だ!」


「風向きもいいようだな」


 シズさんのところに、ホランさんが呑気な足取りでやってきた。

 魔物の気配すらないということだろう。

 オレも魔物の気配は感じていないし、魔法やドラゴンにビビって、森に潜んでいた奴がいたとしても逃げていったと考えるべきだろうか。


「おうよ。この時期は南から北にしか吹かないし、雨の降らない季節ときてる。初手でこれだけ派手に燃えれば、三日三晩で済まねーぞ。魔物どもは、腐った森ごと丸焼けだぜ!」


「魔物はこっちに逃げ出して来ますかね」


「こっちには来ねーだろ。元が動物なら、本能的に風下に逃げる。それにオツムのいい連中が十分に残ってたら、ここを真っ先に攻撃しに来てるだろ」


「じゃあ後は、念のためここで待機、でいいでしょうか」


「魔法自体は、後数分で終わる。魔物が来ないなら、もう少し安全な場所に下がるべきだろう」


「まっ、北砦に待機すればいいだろ。ホレ、龍と鷲も戻ってきた。あの暢気な飛び方は、何もいない証拠だ」


 ホランさんの言う通り、雑多な魔物の群れはいたが風下に逃げ出しているとの事だ。

 しかも普通の動物のほとんども魔物化しているみたいだから、焼き払って正解だった。

 これで海沿いの僅かな平地は、しばらくすれば人の手によって開発が進められていくことになるのだろう。


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