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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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247「空からの殲滅戦(1)」

 戦いは、白い影の襲来で始まった。

 

 戦場ギリギリで、運んできた獣人の戦士達30名を降ろした飛龍達は、それぞれ安全な場所へ退避していった。

 普通のドラゴンは外観と比べると案外おとなしく、自衛とたまの食料調達以外であまり戦わないのだそうだ。

 襲われる事もごくごく希で、普段魔力を糧にしているから獲物を狩ったりする事も少ないのなら、ある意味当然なのかもしれない。


 戦場に駆り立てられるのは、人に飼われているか契約を交わしたドラゴンだけだ。見た目は厳ついが、どこか馬を思わせる。

 だからこそ人が使役できるのだろう。

 そして残る5騎がその例外だった。


 竜騎士5騎のうち、降下した獣人達を空から支援する3騎と、ブレスによる強力な地上への高い攻撃能力を有する2騎に分かれる。


 3騎の竜騎士の背には、地上支援のため弓兵と槍兵が乗っている。映画で見た古代の戦車みたいだ。

 前に遭遇した『帝国軍』はどれも一人乗りだったが、空中戦前提の場合は偵察以外で複数の乗る事自体が珍しいそうだ。

 逆に地上攻撃を念頭としている場合は、こうして地上を攻撃する人を複数載せる事が多いらしい。それでも魔法を使うのは難しいので、弓や槍が中心だ。


 地上攻撃を行ううち1騎は悠里の操る雷竜のライムで、もう1騎は竜騎兵の隊長が操る炎龍だ。

 炎龍は、口から魔力によって生み出された高温の炎を吐くことができる飛龍で、他の飛龍より魔力も多いし一回り大柄な体躯を有している。

 見た目は暗い紅色で、スマートな雷竜と違って体格は全体的にごつい印象があった。乗っているのは搭乗者のみで、オレ達のような便乗者はいない。


 対する雷龍のライムはドラゴンにしては細くしなやかで、蒼い鱗もあって小さな世界竜エルブルスを思わせた。

 また雷龍は厳密にはブレスではなく、膨大な量の放電を雷のように望んだ場所に放つことができる。


 全周に撒き散らすこともできるが、集中させると高温を伴ったり、電子レンジと同じ原理を及ぼす事が出来る。

 当然だけど、放電の熱で倒すのが中心で、相当の高温だそうだ。

 しかも感電だけか熱で倒してしまうかなどの選択が可能なので、炎龍よりも戦術の幅は広い。


 一方、竜騎兵と獣人の兵士達を前にした魔物の群れも、自分たちが襲撃している小さな北砦ではなく、新たな敵こそが先に倒すべき敵だと認識し、すぐにも陣形を変更してきた。

 魔物の群れなのに、なかなかに統制が取れている。


 つまり命令する立場の魔物がいて、訓練や指揮を行っているという証拠だ。

 しかも持っている武器ごとに一定程度の集団を作ったり、互いを補う組み合わせを取っていたりと、複雑な軍隊としての行動が取れてすらいるのだそうだ。


 しかもその数も侮れない。

 小さな北砦ををぐるりと囲んだ上に、こちらからの増援を想定した道の封鎖もしていたし、後方に予備部隊すら控えさせている。

 そしてそれらが、一斉にこちらに向かって動き始める。

 動きは迅速と見ていいだろう。


 それにこちらが竜騎兵を使っての反撃は、ある意味当たり前ながら想定済みだったようだ。

 上空から北砦を攻撃していた何かの人型の魔物が騎乗したグリフォン6頭が、2手に分かれて3騎ずつの編隊を組みつつ急速に接近しつつあった。


 地上では弓や投石具スリングを持った連中が、対空射撃の動きを取りつつもある。

 弓などで他を牽制している間に、3体で1騎の龍騎兵を相手取ろうという作戦らしい。


 ちなみにオレ達の現実世界では、エルブルス山のあるコーカサス山脈はグリフォンの故郷のようなものらしいが、この世界では全然関係ない。

 また、知性を持つ魔物がグリフォンを使う事が多いと言われるも、6騎という数はかなり多い方だそうだ。

 おかげで北砦は苦戦を強いられたみたいだ。


 けど、空中はグリフォンだけのものではない。

 白い影ことヴァイスが襲来したのはその時だった。



 突如上空から急降下してきたヴァイスは、急降下するまで敵に対して太陽を背にして敵の視界から隠れていた。

 しかも後から聞いたが、ハルカさんが施した簡単な幻術で空に溶け込んですらいた。

 だから出現は突然だったのだ。


 そして片方のグリフォン編隊のうち、先行する雷竜か炎龍に襲い掛かろうとしていたグリフォン3騎は、ヴァイスと交差する寸前に左右の二騎は乗り手共々無数の輝く槍の束に次々に射抜かれた。

 そして真ん中の少し大柄な1騎も1本の輝く槍を受けてよろけたところに、ヴァイスの爪が襲いかかって、ライダー共々バッサリ切り裂かれジ・エンドだ。


 巨鷲とグリフォンでは体格差に大きな違いがあるとはいえ、まるで小鳥でも狩るようだ。

 もっとも、切り裂いただけで掴まないところは、野生の猛禽類と違っている。


 それに切り裂かれた騎乗していた人型の魔物だけど、どうやら下級の悪魔らしかった。

 けど攻撃自体が奇襲な上に、ハルカさんの光る槍をもろに受け、さらにヴァイスの大きな爪を食らってはどうにもならない。

 半分に切り裂かれた人型が、漏れ出す魔力の煙を残しながら落下していった。

 バラバラになっては、流石に再生も無理だろう。


 オレが知りうるグリフォンは相当強い魔物だったが、この世界でのグリフォンそっくりの獅子鷲の強さは、飛行できる大型動物、魔物の中では真ん中くらい。

 空中戦だと巨鷲、飛龍、巨鷹の次にグリフォンこと獅子鷲がくる。その下に翼竜、天馬、飛馬などがいる。

 ただし、飛龍の中でもブレスを吐く個体は、巨鷲に匹敵するとされる。


 他にも、大型種として希少種の大型龍と雲鯨うんげいと呼ばれる龍の亜種とされる空飛ぶ巨大な魔物もいるが、雲鯨はドラゴンの中でも大人しい性質で戦闘力は巨体で頑丈という以外は低い。

 大型竜や世界竜、さらにはオクシデント以外にいるという他の大型の飛行生物は、強さの格付けでは例外や番外になる。


 とにかく巨鷲のヴァイスにとって、グリフォンはかなり格下だった。

 しかも乗り手が熟練している上に大量の魔力を供給しているので、戦闘力の差は歴然だ。

 その上強力な魔法まで放ってくるとなると、実際の状況が雄弁に物語る通りもはや一方的だった。


 しかもヴァイスは、そのまま一度通過したが、そのまま攻撃行動を続ける。

 機敏な機動で小さく宙返りすると、返す刀と言える表現が似合う動きで、一気に別の3騎、地上支援のために低空に降りていた3騎の竜騎兵を狙おうとしていたグリフォン隊に襲いかかった。


 残るグリフォン隊もヴァイスに対応しようとして、なかなかの小回りを効かせて目標を変更した。

 けど、頭を抑えられた上に速度が違うので、アタフタしているようにしか見えなかった。

 実際、奇襲攻撃を受けて混乱しているのだろう。


(それにしても、ヴァイスはあんなに激しく動いているのに、ハルカさん大丈夫かな?)


 目を回したり、吐き気を催していたら目も当てられないので、ボクっ娘も少しは配慮してやれと思ってしまう。


 しかもここでも、接触前にハルカさんが放ったマジックミサイル7発が、交差する寸前に3騎を乗り手共々次々に居抜き、深い手傷を負わせる。

 そして次の瞬間に、3騎のうち1騎をヴァイスが爪で切り裂いた。

 どうやらオレの懸念は杞憂だった。

 ハルカさんは、魔法を放てるくらいには元気なようだ。


 もっとも敵は、こちらの小さな懸念を察知することすらできなかっただろう。

 先手を取られ初撃で1騎を欠いた残りのグリフォン隊は、ヴァイスの次の短い宙返りの後の逆かさ落としを受けて、そのまままた1騎が鋭すぎる爪に切り裂かれてしまう。

 ライダーは無傷のようだったが、あの高度から落ちたら、飛べるか余程の魔力を持たない限り助からないだろう。


 そして落ちていくのは、魔法が使える上位のゴブリンのようだった。

 その魔物は、ヴァイスが宙返りしている時にマジックミサイルを2発放ってきたが、うまくはいかなかった。

 ヴァイスの圧倒的な機動力と速度を前に、自動命中が売り物の魔法の矢は、射程距離の外に逃れたヴァイスの後方で虚しく光を失っていた。

 そういえば、宙返りの速度はかなり早いように思えた。


 そして、あっという間に残り1騎となったグリフォンとそのライダーは、たまらず逃走を図ろうとしたが出来るわけがなかった。

 グリフォンの体の半分が巨大な鷲とはいえ、さらに巨大な鷲であり空中機動に特化している巨鷲に速度で勝てるはずもない。

 逃げる際の武器は小回りの良さくらいだけど、呆気なく追いつかれて交差したとろで掴まれ、地表に着地する形で潰されて終わりだった。

 この間、僅か3分といった感じだ。


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