表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/402

242「竜騎士ユーリ(2)」

「さて、何から、どこから話そうか」


「夜はまだ浅いとはいえ、今夜は全員の話を長々するわけにもいかないわよね。

 ねえショウ、ユーリちゃんがショウのまとめたノートを読んでるなら、ショウが話して。補足はそれぞれがしていくから。こっちの話はそれでいいかしら?」


「あ、はい、構いません。じゃあ、こいつ、じゃなくてお兄ちゃんの話が終わったら、私のこっちでの事をお話しします」


 ハルカさんの穏やかな言葉と笑顔を前にして、悠里がすっかり大人しくなっている。

 この辺りは格の違いだろうと思うが、ハルカさんもシズさん同様に女子に人気があるタイプなので、悠里もその例外じゃないのかもしれない。

 ともかく、悠里が大人しい間に話を進めることする。


 ここでは文芸部での独演会の経験が活かされ、なかなか上手く話せたと思う。

 オレ自身の経緯とか経緯は「あとでノート見せてやる」と言ってすっ飛ばして、それぞれに許可を取りつつ、彼女たちが抱えている、もしくは抱えていた事を出来るだけ短く、出来るだけ分かりやすく説明していく。

 そしてその時々に、それぞれが自分自身の言葉を添える事で補足する。


 話自体は整理して話しても、重い話である事に変わりはなかった。

 そしてもともと感情過多な傾向がある悠里は、部屋に来た時から感情が高ぶっていた事もあって一喜一憂状態で、話した内容によってはボロボロと涙を流している。

 思わず、オレって話術の才能があるんじゃないかと勘違いしそうになってしまうレベルだ。



「ヴァ、ワタヂ、ヴィンダをデヅダウー!!」


 最後には何言っているのか分からないくらいに号泣して、ベッドに横並びで座っていた3人を全員抱き抱えてしまった。

 感情が乱高下しているから、それが爆発してしまったんだろう。

 まとめて抱きつかれた3人ともが困り顔だ。


「私はショウやみんなに解決してもらっているんだがな」


「ボクも山は越えてると思うよ」


「じゃあじゃあ、ハルカさん!」


「あのね……は、ハイ!」


 3人を抱えた悠里のせいで、真ん中で縮こまっているハルカさんにグッと視線が据える。何かを言おうとしたハルカさんが、完全に悠里の勢いに飲まれているのは少し面白い。


「私、絶対にハルカさんを蘇らせてみせるから!」


「あ、ありがとう」


「うん! オイっ、クソ兄貴!」


「あーハイハイ、分かってるって。それに、それ、オレがする事だからな」


「うっさい! 私もするの! 付いてくからね!」


「と言ってますが、いいですか?」


 言い出したら聞かないという性格ではなかったと思うけど、一度言い出した以上は簡単に曲げることはないだろうから、同行の許可を取らざるをえない。

 そんな諦めにも似たオレの気持ちは、依然としてギュッと抱きかかえられたままの3人にも伝わっていた。


「雷龍の使い手なら大歓迎だよ」


「悠里ちゃんがいいんなら、私に断る理由はないな」


「私もよ。けど、ユーリちゃん、本当にいいの? 危険な事があるかもしれないのよ」


「全然平気です。稽古も一杯つけてもらってたし、この辺りで魔物は退治しまくってましたから、あの娘抜きでも私結構強いですよ」


「なら、頼りにさせてもらうわね」


「ハイッ! あのクソより頼りにして下さい!」


 いつも通りの妹様のオレへのお言葉だけど、ハルカさんの表情がごく僅かに動いたのをオレは見逃さなかった。


(こう言うところは、優等生というか真面目だよな)


「ありがとう。けど、一つだけいいかしら?」


「ハイ、何ですか?」


「兄妹の事には何も言わないけど、これから私たち旅の仲間になるでしょう。だから、二人の時以外でいいから、あまり汚い言葉遣いはしないでほしいの。ダメかしら」


「全然ダメじゃないです。これからは、お兄ちゃんて呼びます」


「無理に全部変えなくてもいいと思うけど、やっぱり汚い言葉は使わないでね」


「はい!」


 なんだか、悠里がハルカさんに感化されすぎないか、少し心配になってくる情景とやりとりだ。

 それに隣のシズさんはというと、自分の重荷が一つ降りたとでも言いたげな表情が少しばかり垣間見れるのは、気のせいじゃないだろう。

 まあ何にせよ、これからの旅はさらに賑やかになりそうだ。


 と、オチを付けている場合じゃない。


「なあ、いい加減鎧姿で抱き抱えるの止めたらどうだ。それと、一応悠里も話してくれるか?」


 オレの言葉に、悠里はやっと3人を抱き抱えるのを止めて、そそくさと椅子へと戻る。


「アッ、ごめんなさい。えっと、話すって言っても、大した事ないんだけど」


「そうなのか。あ、そうだ、こいつ5月初旬に前兆夢見始めて、5月末にこっちに来たらしいんだけど、どうもそれにオレが巻き込まれたみたいなんだ」


「そうなんだ」


「強い龍を従えた竜騎兵の『ダブル』なら、誰かを巻き込んだとしても納得がいくな」


 不意のオレの言葉に、全員がなるほどーという表情を一度浮かべる。


「でも、出現場所が全然違うのはどうしてだろうね?」


「巻き込まれたから、弾かれて遠くに飛ばされたんじゃないかしら? 殆どオクシデントの端と端だし」


 ハルカさんが納得しそうな仮説を提唱する。みんなもなるほどーな表情を浮かべている。


「確かにそうなのかもな。それで悠里ちゃん、ここでは何を?」


「目が覚めたら相棒のライムが居て、しばらくは二人で飛んでました」


「前飼ってた猫の名前と同じにしたんだな」


「いいだろ、別に」


「悪いって言ってないだろ」


 そう、以前飼っていた猫の名前がライムだ。

 悠里は大層可愛がっていたが、年もあってこの冬を越えららずに病気で死んでしまった。

 その時悠里はワンワン泣きじゃくって、その後しばらくすごく落ち込んでいたのをよく覚えている。

 悠里が情緒不安定になって、オレへの風当たりが強まった原因の一つだ。

 オレは、ライムとあんまり仲良くなかったから。


「逆に、いいと思うぞ。そのドラゴンも納得してるんだろ」


「うん。あの娘も、話した上で気に入ってくれた」


 はにかんだような笑顔を浮かべる。オレに向けてではないだろうが、オレには子供の頃以降は見せない顔だ。


「相棒は女の子?」


 相棒のことなので、ボクっ娘も興味津々のようだ。


「うん。そっちも?」


「うん。あとで紹介するね」


「あ、こっちもするする。けど疾風の騎士って、相棒と話せるんでしょ。いいなー」


「召喚師の力でね。竜騎兵でも召喚師の魔法覚えたら、多分いけるよ」


「マジ? じゃ、じゃあさ、教えてよ魔法」


 今度は、グッとボクっ娘に顔を近づける。

 イノセンス度合いでは悠里が一枚上手で、ボクっ娘がやや受け身だ。


「いいけど、あっちじゃ受験でしょ。結構面倒だけど、大丈夫?」


「平気平気。こっちであっちの勉強するとか、ボーナスステージみたいなもんじゃん」


「言い得て妙だな。じゃあ、基礎は私が教えよう。丁度ショウにも教え初めたところだ」


「ハイ、お願いします、シズさん!」


 なんだか、すっかり打ち解けている。

 部屋にやって来た頃のとげとげしさは、もうどこにも見られない。まあ、仲が悪いより全然いいけど。


「何、見てんだよ、このオタク!」


「別に。それで、ずっとこの辺りにいたのか?」


 オレへの態度が変わらないのも、むしろ安心するくらいだ。


「うん、そう。こっちの竜騎兵や獣人の人たちに戦い方を教えてもらって、7月くらいからは魔物退治によく行ってる。

 あと、ノヴァトキオには2回お使いの付き添いで行った。あとは、ここの海沿いにある街とか村くらいかな?」


「魔物退治かあ。この辺りの全体の戦闘回数は多いの?」


 ハルカさんが少し眉を寄せる。確かに領主としては無視できない言葉だ。


「ハイ。警備隊は北の方に毎日出てます」


「じゃあ、魔物が活性化しているのかしら。私が離れた頃は落ち着いてたのよね」


「だと思います。警備隊のみんなも似たような事を言ってます」


「そっか。ノヴァの鎮定が終わったら、今度はこっちの鎮定を頼んでみようかしら」


 そう言ってハルカさんが腕を組んで考え込む。


「必要ないと思いますよ。ここの警備隊、強いですから」


 そう言って胸を張る。甲冑姿なので、意外に堂に入っている。


「けど、魔物も多いでしょう。油断大敵は一番戒めないとね」


「はい、そうですね」


 やっぱり悠里は、すっかりハルカさんに感化されてしまっている。

 返答している時など、明らかに声のトーンや調子が違っている。

 ハルカさんはいつも通り振る舞っているだけだけど、何か琴線に触れるものがあるんだろう。


 それはともかく、悠里には特に話すほどの話もないようで、オレもなんかどうでもよくなってきた。

 それに、その後も特に大きな話題もなかったので、あとは親睦を深めた。ただ、その後は意外に長く、女子は会話が尽きないものだと呆れるほどだ。

 けどそれも深夜にはお開きとなり、明日に備える事とした。



「じゃあ、ノヴァの援軍に参加してもらった後にここの所属から外れて、私たちと一緒って事でいい?」


「はい、それでお願いします」


「私が言うのもあれだが、旅だと色々不便なこともあるぞ」


「大丈夫です。それに私も色んなところを見てみたいですから」


「翼があるのに行かないなんて、勿体ないもんね」


「うん。私も前々からそう思ってた」


 部屋に来た時とは、ほんと別人のようだ。

 ただ、オレにとっては、妹の相手はこれで終わりじゃないだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ