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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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130「聖女?(1)」

「ショウ、セックスしましょう!」


 神殿の一室に案内され部屋の扉が閉ざされた数瞬後、ハルカさんの様子が一変する。

 そして正気ではない感情の瞳がオレを捉え、両手で肩をガッシリとホールドする。

 戦闘時のように魔力で力を増していて、万力みたいな力強さだ。


 けど、突然の肉食系女子宣言、なわけない。

 様子は変だけど、別に発情しているようには見えない。大量の魔力を用いた後だから、考えられる事は一つだろう。


「ハイっ?! えっ? えっ? もしかして魔力酔いか?」


「だ、大丈夫、じゃないよね」


「落ち着けハルカ」


 突然のことに他の二人も目を丸くしている。

 けど、それぞれの言葉に、ハルカさんは全員を急ぎ見渡して再び断言する。


「私は正気よ。それより次に大きな神殿行くまでにセックスしなきゃ!」


「いや、やっぱりおかしいだろ」


「だ、だよね。草も生えないよ」


「おかしくないわよ。このままじゃ私、聖女にさせられちゃう。その前に処女捨てなきゃ!」


 凄い事を言い切った。しかもベクトル真逆な事を二つばかり。


「聖女?」


「処女?」


 唯一、シズさんが納得といった表情を浮かべる。


「……ああ、なるほど。深呼吸しろハルカ。確か聖女に処女性など関係ない筈だ。この世界に宗教はないんだぞ。聖女は乙女じゃなくてもいいんだ」


「はぁ。シズさんがいて助かりました。オレだけだったら、このまま押し倒されてました」


「それはそれでヘタレすぎだよ」


 シズさんの言葉で、ハルカさんはシズさんの顔をしばらく見つめた上で、徐々に瞳に正気が戻ってくる。

 そして自分が何を連呼していたか気づいて、顔を真っ赤にする。マンガで見るようなボフンって感じだ。


 そして顔を赤らめたまま、縋るようにシズさんに顔を向ける。けど依然として、両手はオレの肩をガッチリ掴んだままだ。


「ほ、本当?」


「聖人、聖女についてそこまで詳しくはないが、ノヴァにも聖人がいるが、あいつはこっちでも妻帯者だろ。しかも子だくさんだ」


「それに、確かハーレム作ってたわよね」


 彼女の口調は、自分の言葉にも縋りたいという感じだ。


「そうだ。ちょっとは冷静になれたか?」


「……なれた。けど、さっきの発言は忘れて。お願い」


 オレの肩を掴んだまま、耳まで真っ赤にして俯いていた。普段は凛々しくクールなので、こういう時は凄く可愛いい。


「オレはいつでもウェルカムだけど、予約されたくらいに思っとくよ」


「それ忘れないって事でしょ。忘れるようにしてあげましょうか」


 グッと頭を持ち上げ、その瞳がオレを鋭く射抜く。

 けど、いつもの迫力は全然ないし、まだ顔を赤らめたままだ。

 そうして数秒睨めっこになったけど、二人が助け舟を出してくれた。


「それで、どういう事なの?」


「だいたいは察しが付くがな」


 二人の言葉に、ハルカさんも説明の必要性を感じたようだ。


「さっきの魔法見たでしょ」


「派手にするって言ってたけど、見た事無いくらいキラキラしてたね」


「随分な大規模魔法だったな。あれだと術者側が数十人で行う規模だろ」


「そう、見えたわよね」


 そこで小さく挙手する。まだ肩を掴まれたままなので、大きくは挙げられないからだ。


「ハイ、何?」


「説明してください。さっぱり分かりません」


「ショウならそうだろうね。まあ、ボクも今ひとつ分かんないんだけど」


「私が説明しようか?」


「そうね、まだ私冷静じゃないかもだし、お願いできる」


 「任せろ」とシズさんが請け負うと、軽くオレの方に視線を向ける。真面目モードのシズさんは、頭良さそうなオーラ全開だ。


 そして自然とシズさんが前に出て、他3名は生徒のように横並びに位置する。なんとなく教師と生徒の雰囲気だ。

 おかげで、ようやくハルカさんから解放された。いや、そのままでも良かったんだけど。


「神殿はオクシデント最大の組織で、オクシデントから浮遊大陸をまたいで一応は南北アメリカにまで広がっている。

 しかもオリエント、分かりやすく言うと中東より東側の大陸には、単一でこれほど巨大な組織は無い。インドは多少例外だが、あそこはカオスすぎる」


「そこから説明しなくてもいいわよ」


「ショウのためだ」


「なら仕方ないね」


 軽く流されたが、最初の頃にある程度ハルカさんから聞いている。

 けど、今のハルカさんはそれを簡単には思い出せないくらいの心理状態なのだろう。


「そして神殿は、総大神官グランドプリーストを頂点として巨大なピラミッド構造の階級社会を形成している。例外として神殿騎士団テンプルナイツ修道院モナスタリーがあるが、結局はこれらも組織の一部だ」


 ここで一旦話を切る。ここまでは理解できたかと、目で聞いて来る。

 そして小さく頷くと話を続けた。


「しかし本当の例外もある。それが神殿の外で活動する者達だ。各地を巡る神殿巡察官テンプルインスペクターが代表だろう。

 空士、伝書使も多くが神殿に属しているが、彼ら彼女らはそれこそ世界を飛び回るので制御ができず、一種のアンタッチャブルになっている。神殿は神話の影響でドラゴンは有せないので、空士、伝書使の価値が諸々の国々より格段に高いんだ。

 そしてそれら全ての上位というか全ての階級、役職の番外に位置するのが、聖人もしくは聖女だ」


 そこで全員の視線が、一度ハルカさんに向く。


「今、何人くらいいたっけ?」


「総大神官の側近にもいたりするけど、私が知る限りは8人。けど、生死不明や隠者になってる人もいるから、活動しているのはせいぜい5人ね」


「他の神官とかと何が違うんですか?」


「術者の能力、魔力量によってのみ認定されるという点だな。能力、魔力は、魔力総量を見定める魔導器によって真実が分かるからな。他は能力重視と言っても、コネや賄賂でも位を得る事はできる」


「私も早く巡察官にしてもらうため、寄付の形で賄賂積んだもの」


 ハルカさんが、ウンザリと言った口調で手をお金のマークにして軽く振っている。

 少なくとも聖人なり聖女には見えない仕草だ。


「聖人かどうかは、どうやって分かるんですか?」


「ハルカが大きな神殿と言っただろ。大きな神殿の大聖堂に行くと、神々に供物を捧げるという建前の金色の聖杯があるのだが、これが一種の魔力や能力の測定装置になっている。そうだな」


「ええ。本来は魔力持ちを探す魔導器で、神官じゃなくても魔力に反応するけど、神官の場合は覚えている魔法と魔法属性の関係でハードルがかなり低いらしいのよ」


「聖人が聖杯の近づくと必ず特徴のある反応を示すが、特に最初がそれはそれは派手だと聞いたが?」


「らしいわね。けど聖人は一世代に一人か二人だから、実際見た人はすごく少ないと思うわ」


「今のところ最も新しい聖人はノヴァの『聖魔』だ」


「セイマ?」


 新ワード登場だ。ノヴァに聖人か聖女がいて、その人の二つ名という事は分かる。

 しかしこの話は、ネット上では見た事が無かった。


「神聖の聖に悪魔の魔、セイントデビルだね。こっちの言葉で「サンクト・デモニウム」。昔『ダブル』が大暴れしてた頃、ボクらは悪魔や魔人扱いするところが多かったらしいから、魔の文字がついたらしいよ」


「それでハルカさんの今の魔力なり能力が、ハルカさんの見立てだと聖人と同じってことか?」


「『聖魔』の儀式魔法を見た事あるんだけど、そんままだったのよ」


「オレ達の魔力を使ったせいとかはない?」


「あれは魔法を主導した者にしか出せないの」


「なるほど。で、なんであんなにテンパッてたんだ?」


 ようやく今回の話の核心だ。

 あそこまで焦る理由は何なんだろうか。凄く気になるのは誰も同じだ。


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