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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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225「『ダブル』のお偉いさん(2)」

「こちらこそ。で、最後は、確かレナ君じゃなかったな?」


「よく知ってるね」


「お役目上、空軍のエースを知らないわけいかないからね」


 ボクっ娘は以前からエース、撃墜王として名が知られていたという事を初めて知った。だけど、最近その空中戦に付き合っているので、実力者として知られているのも当然だろうとしか思わない。

 けどボクっ娘の方は、ジン議員が知っていたことを多少は意外に感じているようだ。


「ジンさんは軍の人なの?」


「まあ、そんなところだ。評議会は人手不足だからね。だからルカ君にも、戻って来て欲しいところなんだ」


「その辺はこれから話すから、それで判断して」


 ジン議員の探るような言葉をハルカさんがピシャリと遮るが、態度から見るとジン議員にとっては想定内みたいだ。


「了解した。それで、どこから話を聞けばいいのかな?」


「そもそもそっちが聞きたいのは、そこのオタクがやろうとした事の経緯と結果でしょう?」


 そこのオタクと言われたレイ博士は、テーブルの隅っこの席で縮こまっている。本当にジン議員が苦手のようだ。

 確かに、あの涼しげな目で睨まれたら、オレも何も言えなくなりそうだ。


「その積りだったんだが、ルカ君の様子やお仲間を見た印象として、できれば多少の事は聞いておきたいかなと。大巡礼を始めたという噂も、もう届いているよ」


「早っ! ていうか、空の早便だとそろそろ届くわよね」


「旧ノール王国やアースガルズでの活躍もね」


「どんな感じで届いてる?」


 ハルカさんの探るような声の調子から、変な噂や報告になっていないか気になっているのだろう。オレもそうだ。


「そうだな、『亡国に蔓延った魔女の亡霊を浄化した、アースガルズの勇者アクセルとその一行』という話は、神殿の情報網でも伝わっているな。神殿の情報だから、ルカ君の活躍がかなり目立つ形でね」


「それはハーケンでも聞いたわ。もう冷や汗ものよ。鵜呑みにしないでね」


「謙遜しなくてもいいよ。上級神殿巡察官になったんだろ、おめでとう。これで『ダブル』とノヴァ大神殿では、タカシ君に次いで事実上のナンバー2の階位だ」


 やはり情報が早い。ハーケンで話した事は、もう全部伝わっていると見ていいだろう。


「その上は、実質的に聖人しかないものね。ホント、何してたの?」


「成り行きで、魔物は飽きるほど相手にしたかしら?」


「そこまで魔力を集めて回らなくてもいいでしょうに。で、本当の強さはどんなものなの?」


 リンと名乗った知的な女性が、興味津々でハルカさんに問いかける。前のめりで腰が少し浮いているので、かなり興味があるのは動きからも丸分かりだ。

 外見と違って、感情が表に出やすい性格のようだ。それとも、見かけより実年齢は若いのかもしれない。


 それに対して、本当は魔力総量が聖女なり聖人に達しているハルカさんは、顔に勘弁してくれと書いてある。

 それを察したジン議員がたしなめるほどだ。


「リン君、詮索しないのがマナーじゃないかな」


「そうだけど、ジンも気になるでしょ」


「そうだね。では、魔法で調べるのも無粋なので、よければ皆さんの魔力封じの指輪を外して頂けないだろうか」


「外したくらいで、正確に分かりませんよね」


「その通り。でも目安にはなるよ」


 ジン議員はたしなめたのではなく、誘導していたのだ。

 オレの牽制にも笑顔で返してくるあたり、何か別の思惑があるのではと勘ぐってしまう。

 ジン議員の言葉に対して4人がそれぞれ短く目配せするが、反対はないようだ。だからほぼ一斉に指輪を外す。


 けど、指輪を外したのは、来訪者の2人も同じだった。つられて、博士まで同じ指輪を外している。

 だから7人が同じ指輪を外すことになった。

 そしてその部屋に、濃厚な魔力の気配が広がっていく。

 思わず全員が、部屋の中をうかがってしまうほどだ。


「……これは凄い」


「ハルカ、ホントに何してきたの? 最後に会ってから1年も経ってないわよね」


 二人とも驚いているが、演技でないならこれは素の驚きだ。


「詳しくは言えないんだけど、『魔女の亡霊』との戦いは本当に死ぬかと思ったほど大変だったわ」


「お二人としては、公平を期するというポーズで自分達も外すことで、能力差を見せつけ無言の威圧しようとした、と言ったところかな?」


「見抜かれてましたか。しかし、圧倒されたのはこちらだった。いや、参ったな」


「ボクだけ、ホントに格が違うね」


「レナはヴァイスとセットなのに贅沢だぞ。ヴァイスと一緒だと、こっちは手も足も出ないのに」


「まあ空の上だしねー」


 来客とそれに応じる二人に比べて、ボクっ娘とオレの少し間の抜けた会話で、周囲の空気も少し和らいだようだ。

 ボクっ娘はともかく、オレにはそういう意図はなかったけど。


「しかし百聞は一見に如かずだな。色々伺おうと考えていたが、答えのおおよそは聞いたようなものだね」


「そうね。西の魔物の集団が拠点ごと全滅したって話が今朝方飛び込んできたけど、やったのはハルカ達ね」


「そ、そうなのだが、吾輩に協力してくれた『ダブル』達は、吾輩が悪魔どもに攫われた後にハルカ君達が助太刀に来る前に全滅していたのだ」


 ここで言わねばと思ったのか、博士が小声で報告を始めようとする。

 ただ、そういうタイミングなのかは少し疑問だ。

 オレなら、もう少し違うタイミングで話したと思う。

 今ひとつ話し慣れていない人らしい。


「やはり全滅でしたか。確か7人ですが、全員ですか?」


「間違いございません。一昨日の夕刻、我らが葬り、ルカ様が簡易葬までされております。回収した遺品も、別室に保管してございます」


 リンさんの質問に、スミレが淡々と事実を答える。冒険者ギルドに属しているなら、一番確認したい事だろう。


「そう。面倒かけたわねハルカ」


「当然でしょう」


「念のため聞くが、間に合いはしなかったものだろうか?」


「それ、どういう意味?」


 ハルカさんの目がスゥーっと細くなる。ちょー怖い。

 ジン議員の表情も厳しい感じだけど、ハルカさんの表情を受けて、すぐに破顔する。


「いや済まない。失礼な事を言った事は謝罪する。だが、まだ我々は経緯を聞いていないのでね。つい言い過ぎた」


 そう言って軽く頭を下げる。

 分かっていて言ったのは察せたが、オレには出来ない芸当だ。


「そうだったわね。……これでも私達、一昨日の朝にアクアレジーナを飛び立って、樹海の上を飛んで1日でノヴァ郊外まできたのよ」


「1日で? なんて強行軍しているのよ」


 やっぱりそうだった。

 ボクっ娘はなんでもないように話すが、飛行職の移動力の話は信じてはいけないらしい。

 シズさんまでが諦め顔をしている。


「空路は微妙な揺れ具合で酔えたわよ」


「そんなに揺れないよねー、ショウ」


「いや、揺れはあった。あれを丸半日は、耐性ないと辛いと思うぞ」


 そう言って手をごく小さくヒラヒラ左右に振る。

 そうしたら、ボクっ娘ではなくハルカさんとシズさんが、少しいやーな表情を一瞬浮かべていた。


「そうだったんだな。本当に失礼な事を言って済まなかった」


「いいえ、こちらこそごめんなさい。けど私達も、もう少し早く到着できていればとは思ったわ」


「色々偶然の結果だ。ハルカがレイ博士の屋敷の事を偶然思い出さなかったら、何も知らず、気づかずにノヴァまで飛んでいたしな」


 レイ博士が、シズさんの言葉に愕然とした表情を浮かべる。

 さらにちょっと裏切られた的な表情が物悲しい。


「そうだったのか? 吾輩を訪問しようとしたのではないのか?」


「たまたま手前で降りたら、近くだって思い出したのよ」


「たまたまってのは、酔ったからだからね」


「レナ、それ以上言わないで」


「いや、それ言ったも同然だろ」


 それぞれのツッコミで、来客二人に不名誉が暴露されたようなものだけど、来客二人は大人なので何事もなかったかのように話を進めてくれた。


「なるほど。偶然レイ博士宅に向かおうとしてその途中で戦闘を発見し、そして救出したと。けどレイ博士宅と魔物どものアジトは、それなりに離れていただろう」


「そうよ。順に話すわね」


 と、そこからは、主にハルカさんとシズさんが、順に博士救出の話を続ける事となった。


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