221「ゴーレムマスター(2)」
「真面目な人たちもいるんだな」
まあ、ノヴァには役人とかもいる筈だから、そりゃ兵隊や軍人みたいな人たちもいるだろう。ハーケンの自警団だって、半分警察みたいなもんだった。
などと一人で納得していると、博士がやや怪訝な目で見てくる。
「自分ら、その『S』以上だろ。スミレは命令じゃない限り嘘をつかないから、真実であると吾輩は信じる。けど、都合1日足らずで上級悪魔を含む1000体の魔物の群れを一掃するとか、どこの勇者パーティーだって感じだぞ」
「勇者パーティーじゃないよ。ハルカさん中心だから、三蔵法師の一行みたいなもんだよ」
「三蔵法師ね。そういえば大巡礼を始めたんだったか。しかしそれなら、ノヴァに用はないだろ」
「大巡礼は、自由に動くための口実のようなものです。本当は別の目的がありました。それで別の目的の答えをレイ博士、あなたが持っているかもしれないんです」
「さっぱり分からん。ちゃんと順序立てて説明してくれ。もはや一つしかない命の恩人だし、出来ることなら何でもさせてもらうぞ」
「一つ? 二つでしょう」
ボクっ娘がもっとな言葉を口にする。そこで博士は、「しまったー」という表情を浮かべてしまった。
無駄に格好つけだけど、コミュ力低いんだろうと思わず同類を見る目で察してしまう。
けど、どうやら博士自身に何か秘密があるようだ。
口が滑ったと言いたげな博士の表情からも、秘密があるのは確定だ。そして全員の視線を受けて、渋々という感じで博士が口を開いた。
「……自分ら、他言無用を誓えるか?」
「我が名と神々に誓ってって言えばいいですか?」
ハルカさんの言葉に、博士胡散臭げな表情をする。
「『ダブル』同士でのその言葉、あんまり信用ならんな」
「では、ギブアンドテイクだ。こちらも他言無用の話というか相談がある」
シズさんの一言で、博士のただでさえ細い目が更に細くなる。まさに糸目だ。
そして小さく嘆息する。
「ギブアンドテイクねえ。吾輩としては、シズ君のその形に、魔導士の端くれとして興味があるが、その辺も聞かせてもらえるか?」
「聞きたいことに関わりがあるから、順番に話すよ」
「了解だ。で、吾輩から話せば良いのか?」
「そうだな。……クロ、キューブに戻ってくれないか?」
「畏まりました」
シズさんの命令で、クロの人型が崩れてキューブに戻りオレの手元へとやって来る。
それを見た博士は、糸目を大きく開いて驚いている。それにシズさんがニヤリと笑いかける。
「もうスミレの事は、ある程度知っている。これはそちらの秘密にはならないぞ」
「そ、そうだ、何故スミレが吾輩を元呼ばわりで、そっちの、えーっと名前は?」
「ショウです。自己紹介が遅れました」
「あ、うん、よろしく」
素は意外にちゃんとした印象を受ける。
そこからも、普段の言葉遣いなどが演技なのがよく分かる。
「ボクはレナ。シュツルム・リッター。ボクの相棒に会うんだったら、飛行場まで来てね」
「あ、ああ。そうか、君が話しに出ていた禁忌破りか」
「おっ、禁忌破りって厨二病みたいで格好良い!」
なんというか、オレとボクっ娘と話すと途端に尻込みしている。見るからにコミュ強、陽キャじゃないパターンの反応だ。
初対面には尻込みするタイプなのだろうか。そう思えば、さらに親近感が増しそうだ。
「はい、そうですね。……えーっと、ショウ君、スミレはどうも自分のことを新たな主人と言っているように思うのだが?」
ただ、ボクっ娘のアクティブすぎる反応には、若干引いているっぽい。
少し強引にオレへの話に戻す辺り、反応が少し露骨だ。
「ええ。魔力総量の多い人を主人認定するみたいです。で、この中ではオレが一番多いらしくて」
「吾輩もゴーレムを同行させて魔力は稼ぎまくって、街のたいていの連中には遅れは取らない積りだったんだがな。その件は納得だ。で、スミレを受け入れるのか?」
意外に冷静な言葉だけど、最後の言葉には少し警戒感が感じられた。
「オレにはもうクロが有りますし、ロリ属性もないですから」
「ショウ君には、あの良さは分からんか」
オレの言葉に安心したのか、格好をつけて小さく嘆息して遠い目をしながら言っても、ネタがダメすぎてキモオタにしか見えない。
しかし話は続くようだ。
「それでショウ君は、オタクじゃないのか?」
「ボクはオタクだよ」
「うむ。その出で立ちには、強い拘りを感じるぞ」
力強い「うむ」だ。『ダブル』のオタク率は高いというが、同志は意外に少なくて肩身は狭いのかもしれない。
ボクっ娘も、言葉に応えて博士ににっこりサムズアップしてる。
オタクという共通言語は、陰キャもコミュ力高められるアイテムだ。
「博士のオタルック・アンド・白衣もね」
「であろう。しかもこの白衣は強固な防具にもなっているんだぞ。で、自分は?」
「あー、一応オタクですけど、そこまでディープじゃないです。スミレさん、属性盛りすぎですよ」
「クロ君も大概だと思うが? えっ? 自分、もしかしてそっちの趣味? 流石に引くんだが」
「クロは勝手にあの姿になっただけです。それとオレは健全です」
「健全ではないだろ。ハーレムパーティー作ってる時点で」
めっちゃ羨ましそうに、オタクからも指摘された。結構ショックだ。
すれ違いざまにそう見られるくらいは許容できるが、「雰囲気が違うことくらい分かれよ、この陰キャめ」と言いたくなる。あくまで心の中で、だけど。
「そう見えますか、レイ博士?」
ハルカさんが強い笑顔で問いかけるが、笑顔に迫力がありすぎてオレでも怖い。
博士も一瞬で顔色が変わっている。
「ち、違うのか? いや、ハルカ君がそう言ってくるという事は違うんだろう。うん、分かった。で、真相は?」
後退しつつも興味があることへの追求を止めないのは性分なのだろう。
それとも何か別の理由があるんだろうか?
「私がショウとお付合いしています」
「私達は旅の仲間だ。その辺も多少は話すよ」
ハルカさんのオレにとって嬉しい返答にシズさんのフォローが入るが、博士の口と目が大きく見開いている。糸目だけど。
そして数秒固まったた後、突然立ち上がるとオレの首根っこを掴んで、部屋の片隅へと連れていく。
腕を振り払う事もできたが、ここは素直に従うのが男というものだろう。
なんだか事情が察せたし。
「し、ショウ君、どうやってハルカ君を口説いた?」
「話せば長いので、この場ではちょっと」
「そ、そうだな。だが昔のハルカ君は、女子としかパーティー組まないからレズ疑惑すらあったんだぞ」
「ハルカさん、有名なんですか?」
「そりゃ優秀だし、あれだけ可愛いいんだ、当然だろう。『ダブル』は元より多少見てくれが良くなると言うが、元が良くないと意味ないし……と話が逸れた。で、三行で言うと?」
「ハルカさんに拾われて、
一緒に旅やら冒険して、
命は結構張りました」
「二人とも丸聞こえよ。それとショウ、それ以上はプライベート。話さないでね」
「リョーカイ。オレも話す気ないよ。スンマセンね、博士」
オレの言葉にハルカさんの肯定と取れる言葉が重なり、明らかにがっくりきている。一回くらいは、ハルカさんに告るかアプローチくらいしてるのかもしれない。
しかし、意外にめげてないというか、席に戻りながらも強く問いかけてくる。
「それで、シズ君とはどうなんだ? 数年ぶりにノヴァに戻ってきたら狐獣人になってるし。男、もとい自分と一緒だし。それにあのボクっ娘とか、俺、オタクな可愛い彼女欲しかったんだ。スミレは格好だけ合わせてくれたけど、全然オタトークしてくれないし! あーもう、クソ羨ましいなあ! 俺もハーレムパーティー作りたかったっての!」
めっちゃ早口だ。それに一人称を吾輩とすら言わなくなって、キャラ付けが崩れてる。
そんなキレられても、はた迷惑だし、話が済んだら距離を置こうと思ってしまう。
けど、一回絶叫までいくと、すぐに爽やかな顔に戻っていた。これは一種の賢者モードなのかもしれない。
「あー、スッキリした。ウン、ありがとうショウ君。さ、話の続きをしようか。で、何の話だっけ?」
その言葉を受けたが、さすがに全員が一度記憶を遡っている。脱線しすぎた。
そして最初に話の分岐点まで戻ったのはシズさんだ。さすが某国立法科。
「発端は、レイ博士の『一つしかない命の恩人』だな。で、他言無用でお互いの秘密なり相談事を話す事になった筈だが?」
「お〜、そうだった、そうだった。で、吾輩から話すんだったな。……ゴホン、実はな吾輩『完全異世界召喚』状態なのだよ」
「えっ、それって……」
「そう。吾輩、もうこっちでしか生きとらんのだ。ビビッたろ」
意外にあっけらかんと口にしたが、リアルでもう死んでるとか爆弾発言だ。
特にオレ達、いやハルカさんにとって。
そして異常に緊張というか真剣な空気に、博士が固まっていた。
「あ、アレ? 驚かしすぎた?」





