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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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220「ゴーレムマスター(1)」

 ほぼ終っていた朝食を置いて、急ぎ彼が寝かされている部屋へと向かう。

 助けたレイ博士とやらが眠っているのは、食堂と同じ2階の客間に当たる部屋だ。


 「コンコン」と日本人風のノックと共に、とりあえずレイ博士と顔見知りのハルカさんを先頭にして入る。

 本来はスミレさんが先頭に入ればいいのだろうが、新たな主人様が先と急かされ、さらにオレがハルカさんに譲った形だ。


 部屋は広くベッドは二つ置かれている。

 調度品もそれなりにあり、絨毯が敷かれているなど、立派な客間だ。

 ただ、念のための用心で雨戸は固く閉めて、魔法で部屋自体の封もしてある。だから恒久的な魔法の明かりが薄く灯っているだけなので、かなり暗い。


 そしてベッドの一つに求める人がいるのかと思ったが、部屋に設えられている二つのベッドはどちらも無人だ。

 その代わり、窓の近くの部屋の隅っこに不自然な毛布の塊があった。

 というか、誰かが毛布を頭からかぶっていた。

 しかも小刻みに震えている。

 マンガみたいな人だ。


「わ、吾輩をどうするつもりだ。こ、このように厚遇を装っても、わ、吾輩は決して首を縦には振らんぞ!」


 部屋に入るなりの言葉だけど、毛布をかぶっているせいでくぐもって聞こえる。

 どもりもなく面と向かって胸を張って言えば少しは様になるのに、全く締まらない状態だ。


 全員思わず半目状態で眺めてしまう。

 それに、しどろもどろに言っている様はちょっと面白いので、しばらく眺めていたいとすら思えてしまう。


「元主人様、そのような醜態を皆様にお見せするのはお止めください。元主人様を助けた新たな主人様と、そのお仲間の皆様をお連れ致しました」


 まるでみんなの意を汲んだような、スミレさんの見事な口撃だ。言葉自体は真っ当な事を言っているのに、全然そうは聞こえない。


「う、嘘だ、吾輩のスミレの声真似までするとは、さすが悪魔、卑怯この上ないな!」


「声真似ではありません。どうぞ、毛布から顔を出してください。それと、その情けないお姿をお止めください」


「情けないことなどない。これは貴様ら悪魔に屈しない方策だ。今構築している吾輩の魔法で、貴様らを粉砕してくれる!」


「ゴーレムしか作れない人が、何をおっしゃっているんですか。元主人様の御才能は、ゴーレムを作ることと動かすことだけでしょうに」


「う、うるさい。吾輩のゴーレム兵団に日々蹂躙されているくせに!」


「そうやって調子に乗って討伐にノコノコついて行くから、飛んで火に入る夏の虫とばかりに痛い目を見るのです。少しは身の程を弁えてください」


 スミレさんが、マジックアイテムの知性体とは思えぬ容赦ない言葉を間髪入れず次々に浴びせていく。

 いつもこんな調子なのだろうかと思うと、新たな主人になるのは全力で断ろうと、さらなる決意すら湧いてきそうだ。


 他の三人は、ボクっ娘は平常運転で事の成り行きを面白そうに眺めている。

 対して、シズさんは微妙な表情だ。なまじ見知っているので、面白がってもいられないのだろうか。

 「はぁ」と小さくため息をついたのはハルカさんで、そのまま言葉を続けた。


「レイ博士。神官のハルカです。御用があってお訪ねしました」


「ん? んんー? 本当か?」


「悪魔は本当の事を言わないんでしょ」


 すかさずボクっ娘が茶々を入れる。


「た、確かに。別の知り合いの声まで真似るとは卑怯なり!」


「レナ、これ以上話をややこしくしないで」


「えーっ、しばらくスミレさんの罵倒を聞いていたいんだけどー」


「埒が明かないな」


 シズさんがボソリと言うと、小さな魔法陣が一つ浮かんで、小さな魔法の火の玉がレイ博士へとフワフワと飛んでいく。

 そして被っている毛布に火が付き、10秒もするとレイ博士が飛び上がって毛布を自ら剝ぎ取る。

 お約束のように、「火だっ!」と悲鳴まであげて飛び上がっている。


 『ダブル』は痛みは感じないが、ある程度まで熱は感じられる点を利用したものだ。しかし言葉からすると、火を目にして慌てたのかもしれない。


 そしてそのタイミングで、クロが部屋で顔を洗うために用意してあった小さな水瓶の水で火を消し止め、さらにその焦げた毛布を持って階下へと向かう。

 完全に火を消して、その後処分してしまうのだろう。できた執事だ。


 クロが部屋を出る頃には、レイ博士はかなり情けない姿でオレ達全員を順に凝視し終えていた。

 頭の上にクエスチョンマークが幾つか浮かんで回転している表情をしている。


 顔立ちは細く、目は糸目。あまり手入れしていない髪は、今は仕方ないとしても、多分普段もあまり変わりないと思われる。

 見た目の印象は、ステレオタイプのヒョロガリオタクだ。


 糸目とメガネといえば、アニメなどでは切れ者か腹黒キャラのトレードマークだけど、どこか妖怪漫画家のキャラを彷彿とさせるのは気のせいじゃないだろう。

 声はかなり甲高いが、ちゃんと話せばそこそこいい声なんじゃないだろうか。


「スミレ、それにハルカ君。それに自分はシズ君か? あとは見ない顔だな? 本当に自分らなのか?」


 半信半疑に、ヒョロガリオタクがコチラを見ている。

 仕方なくといった調子で、ハルカさんが話を誘導する。


「悪魔がこんな手の込んだ事しますか?」


「幻術ということも有りうる」


「思考や記憶を読む魔法なんてありませんよ」


「入念に吾輩の交友関係を調べた上での幻術という事も有りうる」


「幻術を見破るくらいの魔法はできるだろ。ホラ」


 ハルカさんのごもっともな言葉にも否定的なので、シズさんが持っていた予備の小さな杖を渡す。シズさんは、こういう事態を見越していたのだろうか。

 男性は、その杖をお手玉した上でなんとか受け取ると、すぐにも魔法陣が2つほど浮かび上がる。

 魔法の構築自体は、凄く手慣れていた。


「確かに、魔法は使われていないな。ジャミングもない。ということは本物なんだな」


「さっきからそう言ってるでしょう」


(あ、ハルカさんから丁寧語が消えた。ヒエラルキーが落とされた証拠だ)


 まあオレとしては、当面のお仲間、ヒエラルキーが低く、しかも同性という事で、少し親しみが湧きそうだ。


 そう思っていると、博士は寝ていたベッドの側にある台に置いてあったメガネと白衣を取ると、それをなるべくゆっくり、おそらく当人としては威厳を持って身につける。

 そしてメガネをかける時、わざわざ少し顔を下げてからかけて、そのままゆっくり顔を上げる。

 なかなかに演出好きの人のようだけど、最初の時点で台無しだ。


「動揺していたとは言え、見苦しいところをお見せした。私がゴーレムマスターの異名を持つドクター・レイだ。レイ博士と呼んでくれると嬉しい」


「元主人様、今更格好つけないでください。聞いているわたくしが恥ずかしくなります」


「ここまでとは思わなかったけど、こんな人よ」


 ハルカさんの再びのため息で、ようやく仕切り直しのようだ。



 そしてすぐに居間に降りて、クロとスミレさんが用意してくれたお茶を飲みながら、お互いの話をすることにした。

 もっとも博士は、この2日昏倒しっぱなしで何も食べていないので、ご飯に味噌汁ぶっかけて食べていた。

 ほんと、引き篭もりでないなら、大学や企業の研究室にでも籠ってそうな感じの人だ。


「経緯は分かった。というか、自分ら凄いな。いや、凄すぎないか? 吾輩、ここ数年あの辺りをゴーレム使って色々してきたが、次々に湧いてくる上に、意外にしぶとくてな。

 で、ゴーレムの目処が付いたから、全面的に討伐しようと思って偵察していたところを、予想外の連中に奇襲されたのだ。滅茶苦茶強かっただろ、あの魔物ども」


「他人事みたいに言わないで下さい。元主人様が楽観視しすぎたのも悪いのです。こんな様では、無為に犠牲になられた方々が不憫です」


 スミレさんの間髪入れない鋭いツッコミだけど、言っている事はごもっともと言える。


「仕方ないだろう。想定外の上級悪魔に地龍が複数だぞ。中型ゴーレムの部隊くらい出さないと、普通どうにもならんだろ」


「ノヴァの『S』は動かないんですか?」


「頼んだ事もあるが、この半年ほど忙しいらしくてな。ハルカ君らが最後に戦ったという上級悪魔みたいな連中が他にもいて、このところ大樹海の鎮定と開拓が遅々として進んどらんのだ」


「『S』って?」


 Sランクパーティーの事だろうか。オレが思いつくのはその程度だ。


「特殊作戦群のスペシャルの頭文字をとって『S』。ノヴァの市民軍の最精鋭部隊。Aランクないと入れない戦闘部隊の事よ。リーダーがSランクだから、Sって名前にしたって噂もあるけど」


「冒険者ギルドじゃないんだ」


「半分冒険者みたいなものだけど、一年の半分くらいはノヴァの街の軍務で、残り半分は訓練か魔力稼ぎばっかりしてるわね」


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