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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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128「主従契約(1)」

 目が覚めると、テントの中だった。


 昨日はウルズ近郊の神殿でそのまま泊ったからだ。

 アクセルさんの国が持ち込んだ同じテントの中には、男ばかり6人が寝ている。

 全員オレと同じ『ダブル』で、ジョージさん、レンさんも側で寝ている。


 こっちに来て男同士で寝るのは初めてなので、寝るまで馬鹿話に興じたのも、こうしてヤローの寝顔を見るのも新鮮だった。

 それ以前の問題として、現実でも男同士で泊まった経験は中学の部活や修学旅行くらいだし、キャンプのような環境での寝泊りは、ハルカさん以外だと初めてだった。


 外はすでにそれなりに明るいが、高緯度地方の夏を舐めてはいけない。夜中の3時でもかなり明るかったりする。

 しかし、こちらでは早起きが習慣づいているので、まだ夜の時間帯だとなんとなく分かっていた。


 そしてこっちで二度寝という習慣もないので、みんなを起こさないように静かに外へと出る。


 案の定、まだ野営地全体は夜の時間帯で、少し離れたこの村に元々あった出入り口に警備の門番がいるくらいだ。

 神殿近くの建物はある程度屋根などが再建されていて、そこは仮の司令部とアクセルさんの宿泊所になっているが、そちらはまだ静かだ。


 とりあえず、寝ている間にバキバキになっていた体をほぐしていると、神殿の方から人影が出てくるのが見えた。


 神殿には、神殿関係者と女の子たちが寝ている。

 女性全員が『ダブル』で、オレたちとマリアさんたち以外にもう2人いるので、全部で7人になると多少手狭だと言っていた。

 しかし誰が出てきたのかは、オレには一目瞭然だ。

 小柄のショートカットでボーイッシュな格好といえば、ボクっ娘しかいない。


 向こうもこっちに気づいたようで、いつものように気軽に手を振ってくる。


「おはよう」


「おはよー、早いね」


「そっちもな。ヴァイスのところか?」


「そーだよー。朝の挨拶しないとねー」


 そこでちょっとオレは言葉に詰まってし待ったのもあり、なんとなくボクっ娘に付いて行くことにした。


「何?」


「……えーっと、昨日いや向こうではゴメン。軽率だった」


「なんだ、別に気にしないでいいよ。ボクには影響なかったし」


 自然体な言葉だった。


「けど、これからはもっと気をつける」


 そこまで言うと、ボクっ娘がこちらに顔を向けてきた。

 視線もかなり真剣だ。


「むしろ、時々つっついてみてよ。随分前に、シズさんにも似たような事してもらったけど、昨日みたいな事は無かったから」


「けど、治ったらレナは消えるんだろ」


「ボク的には一つに、いや一人に戻るって感覚なんだけどね」


「そうなのか」


「ウン。天沢玲奈もレナ、ボクもレナではあるんだけど、やっぱり一人に戻らないと。それにねー、シズさんやハルカさんの事を思うと、ボクももう一人の天沢さんも甘えすぎてるなーって。

 ……あ、ヤメヤメ。このままだと自分語りしそう。とりあえず忘れて」


 そう言うと照れたように笑いつつ、小走りで神殿裏手にいるヴァイスの方に先に行ってしまった。

 おかげで、それ以上はボクっ娘と天沢の二重人格についての話はできなかったが、結局は自分自身で解決することなのかもと思い直し、レナから話を振ってこない限り触れないようにしようと思った。

 そしてレナには悪いが、その後ばたついた事もあり、二重人格の話は少し忘れてしまうことになる。




「ねえ、シズ、レナ、私と主従の魔法契約する気はある?」


 朝食が済んで、ハーブティーで食後の一服というところで、ハルカさんが切り出した。


「やはりその話になるか。私は全く問題ない。むしろ、こちらから話そうと思っていた」


「ボクもオーケーだよ。ハルカさんには返せないほどの恩があるからね」


「ありがとう。じゃあ、今日ここでの儀式治癒の前に済ませてしまうわ。ただ、これだけ人がいてこっそり仮契約ってわけにもいかないから、アクセルを立会人、ここの神官たちを見届け人にするから正式契約になるんだけど、それでもいい?」


 二人とも二言なしと言わんばかりに大きく頷く。

 けどオレは、『ちょっと待ってほしい』という心境だ。


「なあ、オレってまだ仮だよな。そういう話なら、オレも同じにして欲しいんだけど」


 そう言うと、ハルカさんは少し難しい顔をする。


「問題があるのか?」


「大あり。ここでもう一回契約を交わすことはできるけど、ショウとは一回目のやり直しじゃなくて二回目の契約になるの。この魔法にやり直しはないのよ。しかも二回目は、一回目の二人と違ってよっぽどの事がないと解除できなくなるわよ。それにつながりも深まるんだけど」


「どんな風に?」


「そうね、二人にも聞いてほしいから軽く説明すると、高位の神官との主従契約は三回できるの」


「それは魔導師でも同じだな。魔導師とは違うのか?」


 シズさんの言葉は意外だけど、言われてみれば使い魔とか何かを従えると言えば、神官よりも魔法使いの方がしっくりくる。


「だいたいは同じ。神官の場合は、一回目は魔力、二回目は生命力、三回目は一切合切の融通が楽になるのよ。あと、両者にとってのメリットは、魔法の効きが良くなる事ね」


「確かに便利だねよね。それで一切合切って?」


「文字通り。しかも契約の主となる神官、この場合私の優位が回数を重ねるごとに強くなるし、契約解除が難しくなるの。ぶっちゃけ三回目まで交わすと、従う側は生殺与奪を握られるようなものよ」


「主人の命令への強制力はないのか? 魔導士だとその場合もあるが」


 シズさんが右手を、操り人形を操作するような仕草を見せる。魔法使いにとって、従えるとはそういうものなのだろう。


「神殿は等しく神々に仕えてるって建前だから、それはないわね。命令や強制は別の魔法よ。魔導士みたいに、意思疎通の念話もできないし。だからでしょうけど、主従契約結んでいる人はこっちの人でも少ないわね。命令系統的には、あんまりメリットないから」


「仮と本ちゃんの違いは?」


「内容は一緒。けど、私とショウの最初の契約は、第三者がいなかったでしょ。だから仮契約で、お互いの合意と承諾のみで契約と解除ができるの。本契約は、立会人、見届け人とも魔法を交わして簡単に解除できなくするのよ」


「その辺も魔導師と似ているな。魔導師の場合、人以外との主従契約も似たような感じだ。それに最初から念話ができるが、こっちの方がメインだな」


「召喚師だと、あくまで1対1の主従関係だけだね」


 そんな話をしていると、周りのテーブルからの視線を集めていた。どうやら『ダブル』の間では珍しい話をしていたようだ。

 同じテーブルで食事をしていたマリアさんたちも、もの珍しげにハルカさんの話を聞いていた。


「私も一時期ハルカと主従契約していたことあるのよ。利便性だけ考えると便利よね」


「マリアさんもしてたんですか。他の人も?」


「いいえ、それなりに覚悟は必要だもの。私も仮契約で短期間だったし」


「覚悟ですか。ハルカさん、魔力移譲とかで主人のメリットは分かるけど、従者の側のデメリットってなんなんだ?」


 今までデメリットを感じた事は無いので、念のためと言った雰囲気を込めて聞いてみた。

 しかしハルカさんは、オレが思っているより真剣というか深刻そうだ。


「魔法掛けてもらいやすい以外のメリットがない上に、基本従者は吸われる一方ね。あと主の側は、従者の側がどの方向に居るのか分かるってのがあるわ。二回目以後だと、従者の側も主の居場所が分かるようになるけどね」


「それでも癒しや護りをしてもらいやすいってのは、結構でかいよな」


「だいたいは、従者に主人を守らせる為のものだからね」


「ショウは、するのか? 二回目の契約」


「そりゃまあ当然でしょ」


 「覚悟完了しすぎだろ」とか言われているが、オレにとっては今更感がある。けど、なんでこのタイミングなんだろう。

 他の人たちも同じように思ったらしく、マリアさんの「どうして今なの?』という質問と共に、視線がハルカさんに集まる。


「えっと、今、契約しようっていうのは、今からする治癒の儀式魔法を沢山の魔力使って一気にしようというのが当面の目的ね。長期的には、私と契約していたら、どこの神殿だろうとみんなを部下や従者にするのに文句言われないからなの」


「魔法による主従契約は、我々の世界では重要だからな」


 シズさんの言葉に、周りも納得だと頷く。『ダブル』ではなく、こっちの世界の獣人として見られているからだろう。

 そしてその言葉で、儀式を始めようと言う雰囲気になり、せっかくだから神殿で尚かつみんなの前ですることになる。

 こっちの世界の人たちにとっても珍しい事だし、何よりかなり尊い事でもあるらしい。


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