ニーナ、療養都市を発つ
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興味津々に手を伸ばして触ろうとしていた年少組は、びっくりした様に手を引っ込めた。トロンやティム達も固まって、キュリウス男爵は目を見開いたまま動かなくなった。ギルスやエレンは知っていたのか、そんなニーナ達を苦笑して眺めていた。
「ゼンさん、それはさすがにまずいだろ。」
「ゼン殿はそんなものを持っていたのですか。」
ティム達は価値を知って呆れていたが、トロンはぶつぶつと何かを呟きながら、指を折って何かを数えていた。
「うにゅ、ゼンよ。あのドラゴうにゃにゅにょにゃ。」
エレンがニーナの口元に静かに手を置いた。不思議そうに見るティム達にギルスとエレンがぎこちない笑顔を返した。
エレンに口を塞がれ暴れていたニーナがぐったりとなり、慌ててミリアンが回復魔法を掛けていた。
「私の聖具は風の刃を飛ばすことが出来ますが、せいぜい三人程度を攻撃するぐらいです。そんな恐ろしい力は有りません。妻の持つ槍はオリハルコンを貫きますが、一度に二人程度です。」
「わてのレフトエンドの攻撃は十メートル位なら飛ぶけど、数発で魔力が枯渇するがな。」
「これらの武器は使用者の魔力を吸って、その威力を発揮するの。エルフ族ぐらいの魔力量が無いと厳しいわね。それに数人を攻撃するなら、ギルスもエレンも出来るわ。魔力無でね。」
「ゼンさんは数百メートルは飛ばしていました。魔剣より強力な力でしたね。」
ティムが詳しく話すと、キュリウス男爵は口を開けて固まった。
ゼンはマジックバッグに武器を入れ、別の剣を取り出した。
「こっちは使い捨てよ。五発くらいなら上級魔法が放てるわ。使い捨ては沢山、持っているわよ。」
「ほえ、さっきのも凄いけど、これだけでもひと財産やで。」
「出す気はない。」
武器を収納しお茶を飲むゼンとキキ。残念そうに俯いたトロン。ほっと胸をなでおろすティム。
何かを言おうとして伸びて来たエレンの手を、デンプシーロールで避けるニーナがいた。
「十聖将の武器を危惧して王国は、皆さんの行方を捜していたのです。しかし、ゼンさんやキキさんの持っている武器の方が遥かに危険ですね。報告すると軍務卿が倒れるでしょうね。此処だけの話にしてくれませんか。今後の僕達の仕事も増えそうですから。」
「わても報告できんわ。飢えた商人どもが殺到するで。」
ゼンの所有する武器は、此処にいる者達の記憶の奥底に封印された。話は十聖将の話題に戻った。
興味を失くしたニーナはロロと部屋の隅へ移動して、手を打ち合わせて手遊びを始めた。横でアラニウスとミリアンも手遊びを始め、シエルーナ夫人は微笑を浮かべて眺めていた。
「では、元十聖将達は隠れて生活しているというわけですか。」
「そうです。今の聖法王国にとって亜人の血を宿した十聖将は、邪魔者以外の何者でもありません。時折、暗殺者を送ってきますが、今の十聖将が来ることは有りません。」
「何故ですか。どんな腕利きと言っても暗殺者では十聖将を討ち取ることは不可能でしょう。」
「そうですね。今の十聖将は国を離れることが出来ないのでしょう。あれは純人族の限界を超えています。恐らく、強化魔法だと思います。だから、術師から遠く離れることが出来ないのでしょう。私も戦ったことは無いのですよ。」
ティムは四人でこそこそと何かを話して、キュリウス男爵に向き直ろうとした。視界に入ったニーナ達を見て、神速で振り向いて確認した。
凄い速さで繰り出されるニーナの拳を、全てを手の平で受けるロロがいた。アラニウスの拳が風を斬る音を上げ始め、ミリアンの両腕が霞んで見えた。
ティム達は見なかったことにして、再びキュリウス男爵に向き直った。
「ゴホン、王国は貴方達、十聖将を保護します。実際、ナザレウス卿が十聖将ということは早い段階で判明していたのです。騎士爵からの陞爵前には判っていた事なのです。だから、異例の速さで男爵位へ陞爵したのです。そして、騎士団が与えられました、護衛を兼ねた騎士団ですがね。」
「そ、そうでしたか。どうりで騎士団の方々が優秀なはずです。シドゥリの基本とは言え魔力操作と、肉体の基礎鍛錬についてきましたからね。保護して頂けるのはうれしいですね。今、十聖将は王国に全員がいますよ。亜人差別が一番少ないのは、この国ぐらいですからね。」
「そうだったのですか。忙しくなりそうです。今夜はこれで失礼します。」
充分に情報を得ることが出来たのか、ティム達はキュリウス男爵邸を後にした。
引き攣った笑顔のキュリウス男爵と、満面の笑みを浮かべたシエルーナ夫人とアラニウスに見送られ、ニーナ達も宿替わりの教会に戻った。
ニーナ達が教会に戻ると、ゼンが三種類の武器を出した。効果を映像の魔道具で写すと、ニーナ達は腹を抱えて転げまわった。
「やっぱり、有ったのじゃ。」
数日の間、治療院や薬師も常駐した温泉宿を計画し、キュリウス男爵と商人ギルドを交えて打ち合わせをした。
「よく、そんな事が思いつくものじゃ。」
「そうですね。私には思いもつきませんでした。」
「ナザレウス卿はもう少し、考えた方がいいのじゃ。領主であろう。」
「面目ない。」
「お嬢、大物だな。」
教会都市の改造計画が出来上がり、キュリウス男爵は忙しく動き回った。ティム達は何処かへ行ったのか、姿は無かった。トロンも商人ギルドに入ったきり出て来なかった。
教会の孤児達のホットドッグやジャガイモ料理が順調に売れていた。
更に数日、ニーナ達は教会で剣の扱いを教えたり、新作メニューの味見をして過ごした。
教会の子ども達に出発を告げると、子ども達はニーナ達に抱き着いて泣き出した。宥めるニーナ達の目にも光るものが溢れて来た。
子ども達にすぐに戻ると約束して、ニーナ達は冒険者ギルドに向かった。
「妾達は明日、出発するのじゃ。次はバリアントに向かうのじゃ。」
「郵便クエストが三件です。バリアントのギルドまでお願いします。護衛クエストが有りますが、どうされますか。引っ越す家族の護衛なので冒険者ギルドに回って来たのです。五人家族で娘さんもいるので、エルノワールの皆様に受けて貰えると助かりますが、報酬の方がちょっと。」
「ついでの護衛じゃな。うにゅう。」
返事をしそうになったニーナがゼンを見ると小さく頷き、キキもニーナの肩に手を置いて頷いた。ニーナは笑顔を浮かべて受付嬢に向き直った。
「ついでのクエストじゃ。報酬は気にしないのじゃ。エルノワールが受けたのじゃ。」
「ギルド初のアダマンタイトクラスが護衛なら依頼者も安心ですね。でも、気を付けてください。商人ギルドからの情報ですが、バリアントの伯爵様が何か企んでいるようです。大抵は辺境伯領への嫌がらせなのですが、今回は多くの物資が流れています。暗殺者ギルドが動いた情報も入っています。いつもの嫌がらせの域を超えていると思われます。」
「辺境伯と言うことはロイのところなのじゃ。」
受付の女性から情報を聞いて、護衛対象に待ち合わせの時間と場所を伝えて貰うように依頼した。
夕方、教会に戻ると中庭にのぼりが立っていた。其処には「また来てね。」と書かれていた。大量の料理が用意され、全員が席に着くと司祭が祈りの文句を唱えた。そして、全員がニーナを見た。
「宴会なのじゃ!頂きますなのじゃ。」
「頂きます!」
ニーナの掛け声で食事が始まると、ゼンは一振りの剣を出して振った。すると、何処からとも音楽が聞こえ、小さな妖精が宙で舞った。子ども達は眼を輝かせて、妖精の踊りと料理を楽しんだ。
「宴会の剣。凄いのじゃ。」
翌日、依頼人と待ち合わせ、簡単な打ち合わせと、いくつかの指示を伝えた。
「アダマンタイトの冒険者が護衛なんて凄いです。私はコルノです。妻のジェーンに長女のリーザ、長男のコナンに次女のソフィーです。よろしくお願いします。」
「ギルスとエレンが先頭、次がコルノさん一家なのじゃ。ララが御者をするのじゃ。その後ろに妾達の馬車じゃ。ゼンとキキは後ろをお願いするのじゃ。」
「よく出来ました。」
練習通りのセリフをニーナが伝え、キキに褒めらててニヨニヨしながら馬車に乗って出発した。日が昇り切ってから教会都市を出て、魔物に遭遇することもなく小さな村に到着した。
「また、ゼンが消えたのじゃ。」
キ♀:あら、教会都市の完成は待たずに出発するのね。
空♂:区画整理から始まって時間がかかるからね。
キ♀:そうね。毎回、ゼンが土木工事するわけにもいかないわね。
空♂:まぁ、何はともあれまだまだ旅は続きます。




