ニーナ、領主の正体を知る
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Oct-22-2020、一部修正。
ティム達がニーナ達に合流した。四人はキュリウス男爵に挨拶をした。
「僕達は国王陛下直轄の暗殺ギルド、牙に属する者です。」
「ほう。」
ティムがにこやかに告げると、キュリウス男爵のモノクルが妖しく光った。堂々と名乗るティムにニーナ達は驚いた様な表情を浮かべた。
「貴方達もどうです。充分に席は有りますす。そうです、トロンさんもお願いします。まだ、色々と話したいことが有りますからね。」
「喜んで。」
「色々と儲け話がありますからな。わても喜んで。」
途中、年少組が屋台で大きな肉串を手に入れて、食べながらキュリウス男爵の後ろを歩いて行った。
「夕食に誘われたのに大丈夫でっか?」
「お嬢達なら問題ないだろう。育ちざかりでよく食べる。特に動いた後はな。」
トロンは呆れた様な顔でニーナ達を見た。
家並みが変わり、ニーナ達は大きな屋敷が立ち並ぶ一角へと入った。他の屋敷と比べると一回り程、小さな屋敷にキュリウス男爵はニーナ達を案内した。
「貴族の屋敷にしては質素なのじゃ。妾の生まれた屋敷と変わらんのじゃ。」
「街は遥かに大きいが、ガブリエラ様の屋敷と変わらんな。畑仕事が懐かしいぜ。」
「あれから、半年近く。恋しくなるものだな。」
ニーナの言葉にギルスとエレンは故郷を思い出したか。キュリウス男爵の屋敷は、貴族が住むには質素過ぎた。
ニーナ達は食堂に案内され、キュリウス男爵が退出した。
すぐにキュリウス男爵が一人の女性と、ニーナと同年代の男の子を連れて現れた。
「お待たせして悪かった。妻のシエルーナと息子のアラニウスだ。」
エレンより少し低めの身長のスレンダーな女性と、少し緊張しているのか強張った表情の男の子が挨拶をした。
「側室を娶れと言われたがね、ヴァルナ聖教では一夫一婦を推奨しているからね。それに長男も生まれたしね、今の私は充分に幸せだよ。」
「領民の悩みを解決して頂いたとお聞きしました。ここは温泉の維持管理も大変ですが、治療院では貧しい方は無料にしているので、色々と物入りなのです。」
「領都は商業地区と治療院地区、温泉地区に分かれているようね。」
キキの質問にキュリウス男爵は簡単に街について説明した。温泉が西側に多く点在していて、東側に居住区と商業地区が有った。北側は領主や富裕層の居住区になっており、南に平民街があると説明した。
また、温泉の効能に疲労回復や血行促進に加え、魔力障害の回復もあるらしいことが判った。
「温泉に宿と治療院を併設すればいいのよ。骨折や筋肉痛などは治療と湯治が必要でしょ。魔力障害はマナの濃い場所での長期療養が必要よ。治療院と宿を併設すれば、長期療養が少ない移動で可能になるわ。宿や治療院が温泉を管理すれば、入浴料も取ることが出来るわね。」
「キキの言う通りなのじゃ。温泉に行って疲れが取れたが、宿まで歩くとまた、疲れるのじゃ。」
「おお、どうして今まで思いつかなかったのだろう。さっそく、皆を集めて会議せねば。」
キキの提案にキュリウス男爵は乗り気になった。キキは温泉と治療院の併設の他にも、食事が出来るように食堂も集めるように提案した。
「丁度、大教会がこの町の場所が中心になりそうね。」
「そうですね。他の教会も西から南に有ります。東側には二か所ですね。西側の住居は東に移動してもらいます。これは少し、大工事になりますな。でも、教会が潤えば孤児達も養うことが出来ます。」
食後のお茶を飲みながら、ニーナ達が話していると、ゼンがふらりと立ち上がった。
「ゼン、何処へ行くのじゃ。」
「用を足しにな。」
ゼンの返事にニーナ達の顔から血の気が引いた。そんなニーナ達をキュリウス男爵と男爵夫人は不思議そうに見ていた。
十分ぐらい経った頃、足音と何かがぶつかり合うような音が聞こえた。
「ギルス、エレン。抜かれた。」
ゼンの鋭い叫びに。ギルスとエレンは腰のナイフを抜いて、窓から庭に飛び出した。
壁を越えて数人の黒い人影が音も無く庭に着地し、ギルスとエレンに向かって走り出した。ギルスとエレンのナイフの突きを、頭上を越えて躱し窓から部屋に侵入した。
キュリウス男爵がテーブルの上を滑るように、侵入者に蹴りを放ち、キュリウス男爵夫人がテーブルで前転し踵落としを放った。踵落としを食らった侵入者は意識を刈り取られ、
キュリウス男爵の蹴りで再び庭に飛ばされた侵入者は、ギルスとエレンを躱して逃げに移った。音も無く立ちはだかったゼンをナイフで突いた。
ゼンはナイフを躱し侵入者の腕を取り、後ろ手に関節を決め背負い投げの要領で投げた。ボキッと音がして侵入者が頭から地面にたたき付けられる寸前、ゼンの蹴りが後頭部に炸裂した。
「何じゃ、今のは。」
「腕を決めて投げると同時に折り、蹴りで止めを刺したのよ。」
「あなた。」
「恐ろしい技ですな。」
侵入者が現れた事か、ゼンの技に驚いたのか、男爵夫人がキュリウス男爵を見た。キュリウス男爵は妻の肩を抱き寄せ呟いた。
「あら、貴方達も中々、やるものね。今のはシドゥリね。ギルガメッシュが使った伝説の武術。」
「ギルガメッシュは知りませんが、シドゥリです。マナを取り込み、オドを手足に乗せる技です。私達はヴァルナ聖教の聖戦士です。」
突然、ティム達が窓から入って来て剣を構え、トロンが静かに剣を抜いた。ニーナ達は何が起こったのか、判らず戸惑ったように顔を見合わせた。
「ヴァルナ聖法王国のスパイだったのですね。」
ティムが険しい顔で問う。やっと、状況を理解したのかギルスとエレンが剣に手を掛けた。見習ったようにララとロロも剣を抜こうとして、キキに優しく止められた。
「この狭い部屋でシドゥリ使い二人を相手にするのは無謀よ。」
「三人だ。」
キュリウス男爵夫妻の息子、アラニウスを見ながらゼンは、剣を収めるように手で制しながら言った。
「ゼン殿はお見通しか。この子の才能は私達を超えています。彼の言う通り、スパイではありません。逆に今のヴァルナ聖法王国を止めたいのです。」
ゼンとキキが椅子に座り、ギルス達に警戒を解く様にキキが眼で合図した。ギルスとエレンが警戒を解くと、キキはアラニウスを金色の眼で見詰めた。
「うにゅ、何やら難しい話になる予感なのじゃ。」
キ♀:シドゥリ。ギルガメッシュはそんなものを使ったの?
空♂:そんな話は知らない。此処は私の空想の中だから。
キ♀:妄想の中とも言う。
空♂:いいのだ。妄想でいいのだ。自分が面白ければそれでいいのだ。
キ♀:読んでいる人間がいるのよ。
空♂:うにゅ、それは分かっている。
キ♀:まあ、いいわ。伏線の回収が出来るのかしら。
空♂:頑張ります。
キ♀:期待しているわ。




