ニーナ、町を造る
予告なく修正することがあります。
Sep-20-2020、一部変更。
翌日、ギルスがララとロロと一緒に子ども達を連れて、町に近い小高い丘へ茸狩に出掛けた。
エレンは仕掛けた罠を川に確認に、ニーナは体格の良い十五歳以上に剣術を教え、ミリアンは希望者を募って弓を教えた。
ゼンは老人達と料理の出来る子ども達に、焼く煮る以外の調理法を教えていた。
キキは錬成術で作られた高い台の上に立ち、巨大な魔法陣を地面に転写していた。
「キキ殿は何をしているのだ。何か上に浮いているぞ。」
「あれは魔道具の光で魔法陣を映し出しておるのじゃ。それを転写して大地に固定しているのじゃ。」
「何のためだ。」
「聞いたのはここまでじゃ。」
「とんでもない大きさの魔法陣だぞ。魔法師の集団詠唱が必要だろう。」
「うにゅにゅにゅ。」
キキが降りてくると、ゼンは台を粉々に破壊しヴァンゼルト子爵達を驚かせた。
キキは魔法陣の外周を歩き、所々で地面に何やら描き始めた。ニーナ達は何が始まるのか見守ることしかできなかった。
昼食を終えた頃、ティム達が野生の牛や豚を捕まえて来て、住人に預けると近くの村まで鶏の買い出しに向かった。
牛や豚を飼ったことのある老人達が、牛の乳の搾り方や豚の世話の方法を教えた。大工経験のある老人達が子ども達と一緒に柵を作り、飼う事にした牛と豚を柵の中に入れた。
「厩舎が必要ですな。」
「おう、儂がこの子達と建てよう。ゼン様が木を切って乾燥までしてくれた。大量にあるから色々と造れるぞ。」
「もう少しましな家も建てるようにしよう。子ども達が安全に暮らせるように。」
積極的になった住人達をヴァンゼルト子爵は、驚いたような顔で見詰めていた。ヴァンゼルト子爵の前を子ど達が笑顔で走り抜けて行く。向こうでは、米を取った藁を老婆が縒り紐を作って見せ、子ども達が沢山の藁縄を作って老婆を笑顔にした。
老婆が出来た藁縄を編んで草履を作って見せると、子ども達も真似をして草履を作り始めた。老人達が時折、間違いを指摘して、小さな草履が出来上がった。自分で作った草鞋を履き、子ども達に笑顔が広がった。
別の子ども達はヴァンゼルト子爵に獲れた魚を見せに来て、ヴァンゼルト子爵が褒めると笑顔で走って行った。
「充分な食事と仕事が皆を笑顔にした。」
「まだまだなのじゃ。ギルフォード卿、貴卿の屋敷はあのあたりに移す方が良かろう。騎士達も一緒に住むであろう。それに、メイドはあの老婆が教えてくれるそうじゃ。何人かを雇い入れるのじゃ。」
「お嬢、もう貴族じゃないし、相手はヴァンゼルト子爵殿だぞ。」
ギルスが慌ててニーナに駆け寄った。ヴァンゼルト子爵の護衛騎士達が険しい顔で近づいて来る。
「よい、ニーナを含め、エルノワールの面々には敬意をもって接しろ。それにニーナは国王にも、同じ口調だったと聞いた。王国の全軍と渡り合えるアダマンタイトの冒険者、相応しいと言うものだ。」
「感謝するのじゃ。貴卿の屋敷はゼンが造るそうじゃ。」
その日の夕暮、ゼンは地面に手を置き、キキの描いた巨大な魔法陣を起動させた。ドンと大きな音が響き渡り、魔法陣の外周に壁が出現した。
キキが金色に輝く酒樽程ある魔石を、ゼンの後ろに置いた。
町を囲むように次々に壁が出来上がって行った。背中の魔石が色を失い、粉々に砕け散った。キキは再び、魔石を取り出した。真っ赤に燃えるような色をした魔石だった。
「金色に真紅。しかも、あの大きさ。まさか、属性竜の魔石か。」
赤い魔石が砕け散って、壁はもう少しで繋がるかに見えた。
「マナトランスファー。」
キキが魔力譲渡の魔法を使い、ゼンの魔力を補充した。僅か数分で町の周囲が壁に囲まれた。
「ざっと、直径四キロ。十キロちょっと歩いたわ。あら、ゼン。それを飲むのね。」
ゼンは赤い液体を嚥下していた。
「枯渇寸前だ。」
未だ目の前で起こった事が理解出来のか、公爵もティム達も口を開けたまま動かなかった。トロンはへたり込んで、口をパクパクさせていた。住人達も口を開けたまま動かなかった。
「壁が出来た!」
「すげー!」
小さな子ども達が叫ぶと、住人達も我に返り都市壁が出来た事を喜んだ。
「当面、我が騎士団に入り口の警護させよう。王宮へ申請して近衛騎士を数人、回してもらう様にしなくては、これから忙しくなるぞ。」
ヴァンゼルト子爵は口を開けたままの騎士達に、都市門の警護を命じ成人していた男達に手伝いを頼んだ。
翌日、町の老人と子ども達を全員、都市壁の上へ登らせた。住人達は自分達の住む町の全体を見下ろすことが出来た。
「何ともみすぼらしい街並みだな。」
「然り。しかし、これからだ。お嬢ちゃん達が材木を沢山、作ってくれた。吹けば飛びそうな家を、頑丈な家に作り替えるぞ。」
「子ども達も手伝ってくれるはずだ。」
「うん、俺も手伝う。」
大工経験のある老人達の言葉に、多くの子ども達が手を挙げて口々に手伝いを名乗り出た。
そんな光景を微笑みながら見て、キキはヴァンゼルト子爵のボロ屋敷に向かった。そして、キキはヴァンゼルト子爵のアパートの様な屋敷を魔法で浮かし、下に酒樽の半分ぐらいの箱を滑り込ませた。
箱が独りでに開き展開し、屋敷の下に広がって行った。
屋敷の下全体に広がると、キキは屋敷を静かに下し、足元に現れたボタンを押した。すると、屋敷が折りたたまれ、元の箱に戻った。
「屋敷が消えたのじゃ。」
ゼンはマジックバックより銅や鉄等の金属を出し、小さな一軒家並みに積み上げた。
都市壁の上にギルスとエレンがやって来て、ニーナ達に合流した。
「お嬢、茸を山ほど採って来たが、子ども達も食べられる茸を見分けることが出来るようになった。」
「川に罠を仕掛けて鰻が大漁だ。そうだ、増水した時の対策も要るって、ゼンさんに言わないと。」
「大丈夫なのじゃ。ゼンが策を考えておる。それより、鰻はどれほど獲れたのじゃ。」
「みんなで食べても余るほどだ。」
「楽しみなのじゃ。」
金属の山を築いたゼンが都市壁で囲まれた中心に立ち、地面に両手を付くと魔法陣が展開した。
大人の頭ほどのある真紅の魔石を四つだし、ゼンは魔法陣に魔力を流し込んだ。ゼンを中心に地面が泡立ち、徐々に周りへと広がって行った。
ゼンの姿が立ち上る土煙で見えなくなった。更に激しく地面が土煙を上げ時折、大きな岩が跳ね上がり、大きな音を立てて地面に落ちた。
ゼンがいた場所から真紅の光が迸った。
土煙が都市壁へと近づいて来ると、ゴウッという音に何か硬い物が、ぶつかる音が混じる。
再度、中心で真紅の光が迸った。
五メートル程の高い都市壁の上まで、土や岩が跳ね上がる。
中心で三度目の真紅の光がボウッと光った。
徐々に激しく舞っていた土煙が弱くなって行った。立ち込める土煙の中に、重たい物が倒れるよう音が鳴り響いた。
「この後のゼンはよく食べるから、食材は足りるかしら。鰻は大丈夫。彼、嫌いだから。」
「キキ様。ジャイアントブルを四体、アングリーボアが八体、兎は百以上です。」
「足りるかしら。」
「ゼンは胃袋もアダマンタイトランクなのじゃ。」
土煙が収まって行くとまた、真紅の光が迸り、魔石が崩れていくのが見えた。
「あれは魔石。しかし、あの大きさ、あの輝き。やはり、竜種の魔石か。一体、いくつ持っている?」
「沢山。ギルドには内緒よ。あれは真竜の魔石よ。」
キキは静かに微笑んでゼンのいる方向を眺めていた。
土煙が収まるとゼンの立つ場所に大きな広場が出来ていた。広場を中心に放射線状に馬車が充分に、擦れ違える程の石畳の道が八方に広がり、同心円状に馬車が辛うじて擦れ違える程の石畳の道が現れた。
粗末な小屋は跡形も無く消え、きれいに区分けされた地面が広がっていた。
「凄いのじゃ。町の元が出来上がったのじゃ。」
「これが錬成魔法の成せる業なのか。ローラ、どうした。」
ヴァンゼルト子爵にローラと呼ばれた女性は、青白い顔でガクガクと震えていた。
「竜種の魔石から魔力を得ることは出来ます。しかし、我々エルフでも下級竜の魔石でオーバーフローします。トゥルードラゴンの魔石なら、肉体が物理的に吹き飛びます。一体、どれほどの魔力量を持っているのでしょう。それにあの錬成術。エルフが千人いても、十日以上かかりますよ。」
「さ、降りて行きましょ。下水設備の出来上がりね。ゼンは暫く動けないでしょうから。」
町の中央でゼンは腰に手を当て、ポーションを飲んでいた。
「疲れた。後は任せる。」
「のじゃ姫。」
ゼンの言葉にキキが続けた。ニーナは吊気味の眼を細めて、胸を張り腰に手を当てて仁王立ちになった。
「ギルフォード卿、領都の名を宣言するのじゃ。」
「エルノヴァン。エルノワールに助けられた私の領都。」
「妾達の名前が入ったのじゃ。」
「お嬢、王宮に登録されるのだぞ。」
「ふっはっはっは、国王もびっくりなのじゃ。」
「お嬢様!」
ヴァンゼルト子爵の名付けに、踏ん反り返って笑うニーナは、ミリアンに怒られてゼンの後ろに隠れた。
「ところで、ゼン。今日の晩御飯は何なのじゃ?」
キ♀:タイトルはのじゃ姫になっているけど、ゼンがやっちゃったわね。
空♂:のじゃ姫がリーダーだから。
キ♀:そういう事にしといて上げる。魔石も沢山、使ったわ。本来なら大赤字よ。
空♂:赤い魔石は竜種。金色が悪魔族。妖精族は青。妖精族と言っても可愛い羽の生えたのではなく、妖怪の類だね。
キ♀:そうね。無色は精霊族。大精霊を倒すとドロップする。
空♂:ソフトボール程度の大きさが、害獣クラス。厄獣がハンドボール~バレーボール、禍獣はバスケットボール~酒樽。凶獣クラスになると人間ぐらいの大きさになる。
キ♀:どうして、今ここで。設定の方に書けばいいのに。
空♂:はっ、そうだった。いずれここも変更しよう。
キ♀:・・・・・。




