初めての魔法
予告なく修正することがあります。
Sep-19-2020、一部変更。
あっという間の出来事であった。
「化け物か?十四人をあの一瞬で。」
ギルスは疲れたように呟いた。実際、疲れてもいたらしく兜を取ると、その場に座り込んだ。その頭に獣の耳がヒクヒクと動いている。
「おかげで助かった。それにしても、ゼンさんだったか。凄まじい強さだ。キキさんの方もあの剣技で魔術師とは、剣士と言われても納得する。」
兜を取ったエレンは綺麗なプラチナブロンドの髪から、獣の耳が突き出していた。もう一人の護衛、ベンの頭にも獣の耳があった。三人は獣人族だった。全員が座り込んでゼンを見て疑問を声にした。
「で、何をしているんだろうな?」
死体から鎧や武器を剥ぎ取るゼンがいた。時折、金袋を見つけ頷いている。嬉しいのだろう。一通り剥ぎ終わると、ゼンは死体を一か所に集めた。
「終わったよ。ねえ、魔法って分かる?」
「助けてくれて感謝なのじゃ。魔法なら火の魔法が使えるのじゃ。」
キキが怖がっていたニーナに問うと、自分も使えると答えが返って来た。
「魔法があるって。」
「ようこそ!剣と魔法のワンダーランドへ!ファンタジー万歳!くそったれ!」
ゼンの呟きはキキに届いたのか。ニーナ達は気付いていなかった。
「魔法を見せてくれる?」
キキはニーナにやさしい口調でたずねる。
「いいのじゃ。ミリアンは風と水の魔法を使えるのじゃ。治癒もできるのじゃ。」
ニーナは馬車から降りてきて、小さな杖を取り出す。
「炎よ!集え!我敵を撃ち抜け!ファイヤーボルト!」
すると、小さな火が飛んで行き近くの岩に当たり、小さな焦げ目を作る。
「詠唱があるわけね。消費魔力と魔方陣を見る限り、威力とスピードはあんなものね。」
キキの呟きにゼンが僅かに頷いた。
「死体は?」
時折、魔力の元である魔素が死体に作用し、ゾンビやグールが生まれることがある。
周りのマナ濃度を感じたか、ゼンが死体の処分方法を聞いた。
「燃やすのだが、油がない。バラバラにして埋めるしかないか。」
ギルスは嫌そうに顔をしかめた。
当然、十六人もの死体をバラバラにし、獣に荒らされぬように深い大きな穴を掘る事は重労働になる。
「キキ。」
「判ったわ。ファイヤーボール。」
キーワードを唱えると、突き出したキキの手の先に魔法陣が現れ、一メートルぐらいの火の玉が出現した。
火の玉は積み上げられた死体に向かって飛んで行った。
着弾すると火柱を上げながら炎が広がり、あっという間に死体は骨すら残さず燃やし尽くした。
「な、詠唱がないだと。」
「ファイヤーボールって初級魔法だろ。」
「それにあの大きさもおかしいだろ。」
「魔術師ではなく、魔法師だったのか。」
ギルスたちが口々に叫ぶ。誰もが驚く中、ミリアンは静かにキキを見詰めていた。
「この馬車は?」
道を塞いでいた馬車を、どう扱うかをゼンは聞いた。
「やつらが配置したものだろう。使っても問題はないだろう。」
それを聞くやゼンは剥ぎ取った鎧や剣、鞍にいたるまで積み込んだ。しかも、馬も十五頭を確保していた。
「どっちが野盗か判らんのじゃ。」
ゼ♂:剣と魔法のファンタジー。
キ♀:在り来たりの設定ね。
ゼ♂:設定が楽だからな。
空♂:そう思ったけど、甘かった。
キ♀:ファイト!