ニーナ、悪魔に遭遇する
予告なく修正することがあります。
Sep-19-2020、一部変更。
ゼンはアシャを睨み付けていた。キキは溜息を吐いてアシャに話しかけた。
「貴方達の怠慢よ。何故、最後まで説明しなかったの。」
「アシャ、何の事だ?」
キキの指摘に返事をしないアシャに、アーサーが身を乗り出して問い詰めた。
「魔人族は人間種よ。愛し家族を作り、人族と変わらない。でも、生まれつき、高い戦闘力と魔力を持っているから、他の種族から恐れられることもある。時には、差別を受けることも。」
アシャがポツリポツリと魔人族の事を、アーサーに話し始めた。
「魔人族は邪悪な連中もいるけど、善良な者も少なくないの。人族と何も変わらないの。でも時折、悪魔族に唆されて、暴走することが有るの。」
「何故、悪魔族が。」
「奴らは本来、実体を持たない思念体よ。負の感情をエネルギーとするわ。充分なエネルギーが集まると、実体化して更に負の感情を求めるの。負のエネルギーを集めるのに戦争は一番、効率のいい環境ということよ。」
アシャとキキの言葉を聞き、アーサーは何かを思い出したように言った。
「三人の悪魔族を逃がしてしまった。」
数日が経ち、ニーナ達は市場を巡り珍しい物を探していた。街の中央に位置する噴水広場で肉串を頬張っていると、広場にアーサーとアシャが慌てたように走って来た。
「何か来る?」
呟くララを横目で見るゼン。すると、広場の一角に魔法陣が出現した。光が収まると、異形の存在が立っていた。赤銅色の肌、感情の無い目、頭に獣の角が生え、厭らしく歪む口から牙が覗いていた。黒い鎧の背には蝙蝠のような羽があった。アーサーが叫んだ。
「バルドーザ!」
「久しぶりだな、勇者。遊びに来てやったぞ。」
恐怖で動けずにいたニーナとララをキキが優しく抱いた。ロロは歯を食いしばり、悪魔を睨んでいた。ギルスとエレンは頭を振って、剣に手を掛け腰を落として身構えた。
バルドーザと呼ばれた悪魔は面白そうにそれぞれの反応を見ながら、ニーナ達の前まで歩いて来て立ち止まった。
ほとんどの住人は恐怖に耐えきれず、立ち竦む者、座り込み泣き出す者、恐ろしい悪魔の姿を見て、逃げることすら出来ずにいた。
「お前の町だと聞いた。記念に住人を殺してやろう。」
「貴様!」
悪魔はゆっくりと剣を抜き、無造作に振りかぶった。振り抜かれるだろう剣の先には。ニーナ達がいた。
「ピキーィィィィィィィィィン」
ニーナ達も勇者であるアーサーも、もちろん住人達も何が起こったのか判らなかった。ドサッと音を立てて落ちたのはバルドーザの右腕だ。バルドーザは振り抜いたはずの腕を見た。そこに腕はなく、代わりに刀を振り下ろした体勢の、黒衣の剣士がいた。
「まだ、血が赤いのか?」
口を開こうとしたとき、立ち上がり様のゼンが下から回し蹴りを放った。顔を蹴られてバルドーザが錐揉みしながら、後ろに吹き飛ばされた。立ち上がったところにゼンが地を這うように迫る。グニャリとバルドーザの口が歪んだ。バルドーザの手前でゼンが止まり、右に半身ずれた。ゼンの左手に握られていたのは、後ろから飛んで来たバルドーザの剣を持った右腕だった。
「舐めるな。」
下から睨む真紅の眼が悪魔を貫いた。ゼンの顔に笑みが浮かぶと、バルドーザは顔を引き攣らせた。浮かび上がった表情は恐怖だろうか。剣を持った腕を握りつぶして、ゼンは立ち上がってバルドーザに近づいた。後ずさるバルドーザは歯をがちがちと鳴らした。
「馬鹿な!悪魔族が恐怖していると言うの。」
アシャがうめくように呟いた。ゼンの体が陽炎のように揺らめいて、九つの光がバルドーザの体を駆け抜けた。
「ピキーィィィィィィィィィン」
鍔鳴りが響くと同時に、ゼンは悪魔バルドーザに背を向けた。
「あの一瞬でか。」
「まだまだ遠い。」
「凄まじいものです。」
「おいらはやるよ。主様の様になる。」
「あたいも負けない。」
「九つの斬撃を叩き込んだのじゃ!」
ニーナ達は感心したように思いを口にした。その後ろでバルドーザが爆散した。
「あれが見えたと言うの?」
「ま、マジか、よ。」
動く者も言葉を発する者もいない静寂に、アシャとアーサーの呟きが聞こえた。
「凄い、凄いのじゃ。悪魔を、ゼンは悪魔を倒したのじゃ。」
「九連撃!おいらも出来るようになる。です。」
ニーナとロロが興奮した声を上げながら、ゼンに走り寄った。ギルスやエレンも後に続いた。
ギルス達を見ながらキキは、バルドーザが爆散した場所に手を広げて何かを掴む仕草をした。
ミリアンは横目でキキを見ると、ウィンクを返され慌てて視線を逸らした。
「嘘だろ。冒険者だろ。」
「あれがあの二人。悪魔を狩る者の称号を持つイレギュラー。」
アーサーの呟きも、アシャの驚きも聞く者はいなかった。悪魔が討伐されたことを、理解し始めたか住人達が喜びの声を上げ始めた。称賛の声が降る中を、ゼンはアーサーに近づいた。
「後、何体いる。」
「凄いな、君はあく」
「二体。」
アーサーに被せて、ゼンの問いにアシャが答えた。
「正確に説明しろ。悪魔討伐は勇者達の仕事だ。俺達の仕事じゃない。」
「下級とはいえ中々のものね。頂いておくわ。出会えば討伐するわ。でも、貴方達の仕事よ。」
アシャを睨み付けて踵を返したゼンの後ろで、キキがウィンクして小さな声で告げた。
恐怖の悪魔族は一人の冒険者によって一瞬で倒された。その事実は、冒険者ギルドの分室から王都の冒険者ギルド本部へ。そして、王宮に伝わった。
「一介の冒険者が悪魔を討伐しただと。」
「俄かには信じられん話だな。」
「しかし、冒険者ギルドの職員も、あの勇者本人もアシャ様も目撃しております。」
王宮の一室で密かに会話が交わされた。
「九斬烈破と言うのじゃ。技名を叫びながら出すのが恰好良いのじゃ。」
空♂:総合評価6ptになっていた。
キ♀:評価者数1人。\(≧(笑)≦)/
空♂:誰かが見ていたことに驚いた。更新順で見ても無かったのに、どうやって見つけたのか。
キ♀:そこなの?
空♂:これをクリックって偶然に近い確率だと思うがな。
キ♀:世の中は中々に不思議なのよ。




