スティング、賭け闘技場をぶっ飛ばせ!~その3
予告なく修正することがあります。
May-4-2021、一部変更。
ロロは周囲の観客を見て、驚いた様な表情を浮かべて頷いた。
「皆、偶然だと思ってやがる。です。」
ギルスとエレンは溜息を吐いた。キキは口を押さえて笑っていた。ティアとヤヨイは眼を剥いたまま、声も無く固まっていた。
「えっ、その、まさか、ポール卿が負けた。あのスピードエッジが。あんな酔っぱらいに。えっ、その勝者、ジャック。ハンターウルフとポール卿を回収。つ、次だ。ロバート卿に出番だと告げろ。」
闘技場の真ん中で座り込んで、ゼンは肉串を片手に酒瓶を煽っていた。
「あれは本当にお酒ではないのじゃな。」
「少し、私も自信が無いわね。酔っぱらうと、ここの結界があっても死人が出るわね。」
「それって、ゼンさんの攻撃は戒呪を超えると言う事か。」
「勿論よ。その気になれば結界ごと斬ってしまうわ。」
ヤヨイだけが目を見開いて、ニーナ達は溜息を吐いた。ティアは肉串を頬張りながら、闘技場を見ていた。
「ん、出た。」
闘技場に槍を持った騎士が現れた。身長はポールと変わらなかったが、明らかにがっしりとした体格が鎧の上からでも見て取れた。ゼンは横になって葉巻を吹かしていた。
「第二戦はロバート・アビ・ブルフォード卿の登場です。」
客席から大きな歓声が上がった。胴元に向かったキキ達が戻って、満面の笑みを浮かべていた。
「全員があの槍騎士よ。私達が受けると言ったら、上積みする人間が殆どだったわ。これで金貨二千枚。」
「ひっひっひ、金貨十枚は確実。」
不気味に笑うヤヨイを、ニーナ達は残念そうに眺めた。
そして、二回戦が始まった。相変わらず千鳥足のゼンは、槍の騎士に向かって歩き出した。
ロバートは目にも止まらぬ速さで、槍の連続突きを放った。千鳥足のゼンはふらふらと揺らめきながら、全ての突きを紙一重で躱して見せた。
再び、槍を構え直してロバートは、足元の覚束ないまま酒瓶を煽るゼンを見た。兜の中から歯ぎしりが聞こえた。
「ギルス。今のは無理だ。」
「俺だって不可能だ。ミリ単位まで見切るなんて、なんて反応速度をしている。」
ギルスとエレンは瞬きすら忘れて、ゼンの動きを見詰めていた。ティアとヤヨイは声すら発することが出来ずにいた。
「うにゅう、槍だけを見ていては、避けきれないのじゃ。」
「多分、主様は騎士の全身を見ている。です。全体を見ていれば、予測することが出来る筈。です。」
「ふふ、ロロ。正解よ。でも、それだけではフェイントに引っ掛る。ゼンは解剖学や心理学、物理学等を応用して、対人戦ならもはや未来予知と言っていいレベルで読み切る。」
ニーナ達は呆けた様に口を開けて、キキの話を聞いていた。
ロバートが裂帛の気合いと共に突きを繰り出すと、ふら付いたゼンの持っていた酒瓶が音を立てて砕けた。驚いた様な表情浮かべ、鋭い視線をロバートに向けた。
「何て事しやがる。まだ、入っていたのに。ああ、勿体ない。」
「うにゅ、やる気になったのじゃ。」
「後、一人だから傷だらけになって、ぎりぎりの勝利を演出するのよ。ほら。魔物も出て来たわ。」
キキの言葉に闘技場を見たニーナ達は、巨大な蟷螂の様な魔物を見た。
「アサシンエッジ。」
客席から声が上がった。悲壮な表情を浮かべる観客が多かった。
静かに近づくアサシンエッジに気付いているのかいないのか、ゼンは近くに落ちていた剣を拾ってふら付きながら構えた。観客から失笑が起こった。
「結界を解け。ここからは真剣勝負と行こう。」
ロバートは後ろから斬りかかったアサシンエッジを、振り向かずに切り捨て大声で宣言した。同時に結界を維持していた石柱の光が消えた。
「ふふ、自ら命を捨てた。さあ、ゼンのオッズを上げる踏み台になった貰いましょう。」
キキの金色の眼が妖しい光を放った。ニーナ達は喉を鳴らして、闘技場に目をやった。
ふら付きながら剣を振り回すゼンを見て、ヤヨイが何かを思い出したように手の平を打った。
「思い出した。大陸から来た武芸者が使っていた技やわ。確か、酔拳て言うてはったかしら。酔った振りして敵を油断させるとか。」
「そうね。でも、ゼンの酔拳は違う。酔って理性が無くなっても、無意識で敵を倒せる技。無意識でも技が出せるように、繰り返し技を練習するの。見えなくても気配を察知して、敵を倒す事が出来る。」
後ろから忍び寄ったアサシンエッジが、ふら付いたゼンの剣に刺されて倒れた。
ロバートの槍がゼンを襲うと、ゼンはアサシンエッジの死体に躓いた。仰向けに倒れるゼンの上を、槍が通り過ぎた。
地面と平行になった所で踏み留まったゼンは、剣を無造作に振り上げてロバートに斬りかかった。
ロバートはゼンの攻撃を簡単に躱すと、槍を巧みに操って反撃に転じた。
ゼンは紙一重で躱したが、ぼろ布の様な服を切り裂いた。ゼンの上半身が顕になった。
「刺青なのじゃ。」
「あの背中の刺青、少し怖いな。」
「何かの呪印のようだ。」
ニーナ達の会話に、キキは笑みを浮かべるだけだった。
ゼンの身体に傷が増えて行った。観客にはゼンが押されている様に見えていただろう。
ロバートの兜の下を見ることが出来れば、その考えが間違いだったと悟っただろう。
ゼンはふら付きながら、ロバートの攻撃を辛うじて躱している様に見えた。
足を滑らせたゼンに、ロバートの槍が迫った。仰向けに倒れたゼンのすぐ横に、ロバートの槍が通り過ぎた。
倒れ込んだゼンの肘が、落ちていた剣の切先を上に向けた。次の瞬間、鋼の剣がロバートの鎧を貫いた。
「あれって鋼の剣だろ。どうやったら、オリハルコンの鎧を貫ける。」
「私が知る訳ないだろう。でも、ゼンさんは木刀で鋼の鎧を斬ったこともあったな。」
「主様、普通の木で鉄の鎧を斬ったこともあった。です。」
「あの一瞬で使ったのよ。劣った武器で優れた防具を貫く。闘神天、神穿。御業よ。」
ニーナ達が納得した様に頷いていると、ヤヨイは驚きの声を上げた。
「御業やて。しかも、神天級の業を使いますの?もはや、人とは呼べませんわ。」
「ふふ、彼は人ではないわ。私のガーディアン。守護神よ。でも、まだ幸運の素人を続けるのかしら。」
闘技場でゼンはボロシャツを着て、落ちていたロバートの槍を拾い上げた。
「うにゅう、まだ客は幸運の男だと思っているのじゃ。」
キ♀:二人目も偶然を装って、倒したのね。
空♂:ふっふっふ、その通り。そして、ゼンは殺していない。
キ♀:そうなの。それは少し進歩したのかしら。それで、何を企んでいるの。
空♂:うにゅ、そんな人を悪人みたいに言わないで欲しいものだ。
キ♀:どうせ、大した事ない考えでしょ。
空♂:うにゃ、私としては結構、考えた内容なのだが。
キ♀:まあいいわ。所詮、ありふれた物語でしょ。それに貴方は出たとこ勝負。
空♂:うにゅにゅ、何と言われても進むのだ。俺はなる。海賊王に俺はなる。
キ♀:だから、どうして海賊王なのよ。
空♂:つい、勢いで。(。-人-。)
キ♀:小説王も駄目。なろう王も駄目。○○王は全部、禁止。
空♂:Σ(゜Д゜|||)
キ♀:(-""-;)




