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そして、お嬢様は旅に出る。~ニーナの大冒険~  作者: 沢山空蔵
オリオポース皇国~武闘大会編
217/461

エルノワールを狙うと言う事

予告なく修正することがあります。

May-3-2021、一部変更。

 少し遅めの出発をしたニーナ達は、途中でハンターウルフの群れを狩って小さな自由都市に到着した。

 町の入り口に大きな看板にプリアポスと書かれていた。アポロニアやヘーパートスと同様に門番が立っているだけで、誰もが自由に出入りすることが出来た。

 二軒ある宿屋は満室だったため、空き地でテントを張ることにした。冒険者ギルドにも宿泊施設が有ったが、ギルスとエレンが敬遠した。余計なトラブルを避けるためだったのだろう。


「ほんに貴方達との旅は快適ですなあ。不寝番不要に温かいご飯、綺麗な厠に便利な湯浴みまで。そうそう、この町は北部自由都市プリアポス。漁業も盛んやけど、チーズと果物が有名です。」


 ニーナ達との野営を経験したヤヨイは、その快適さを満喫していた。特にトイレから出てきた時には、涙を流して全身で感動していた。

 タイミングよくニーナの腹が鳴り、高級そうなレストランに入った。


「あのう、失礼ですが冒険者の方ですか?当店は少しお高い価格になっております。」

「うにゅ、このプレートが目に入らぬのか。頭が高い、控えるのじゃ。」


 金を持っているのか不安になったのか、ニーナ達を見て店員が薄笑いを浮かべて言った。ニーナがアダマンタイトのギルドプレートを、背伸びしながら突き出した。


「あ、アダマンタイトのギルドプレート。これは失礼しました。こちらへどうぞ。」


 ニーナ達は奥の広いテーブルに案内されて、魚と海老のどちらにするか聞かれ海老を選んだ。白身魚のカルパッチョ、貝のスープ、海老のアクアパッツア、ステーキと続き、香りのいいお茶が出された。


「うにゅ、ゼンのお茶が真っ黒なのじゃ。」

「有ったのね。コーヒーが。ここではカッヒと呼ぶらしいわ。お茶はダージリンに似た香りと味が多いけど、コーヒーはどうなの。」

「癖のない味だ。苦味も酸味も程よい。」


 食後、ニーナ達は冒険者ギルドに向かい、途中で狩ったハンターウルフを納品した。数十頭のハンターウルフの納品を見て、ギルドにいた全員が眼を剥いた。

騒がしくなったギルドを出てニーナ達は市場へ向かった。途中でゼンがいなくなった。


「うにゅ、ゼンが消えたのじゃ。皇国に来てからゼンが消える回数が増えておるのじゃ。」


 ニーナの言う通り、オリオポース皇国に来てから、ゼンは何度か単独行動をしていた。時には数日、行方不明になることもあった。


「用を足しに行った?」

「ギルス、余り不吉な事を言わない方がいい。」

「なんで用を足すのが不吉ですの?」

「うにゅ、ヤヨイ。それはな・・・。」


 ニーナは事情を知らないヤヨイに、ゼンが消えると必ず死人が出ることを説明した。


「ほな、ゼンさんが消えると、必ず死人が出ると。それは暗殺者や野盗をニーナさん達に知られずに、処分していると言う事やな。」

「しかし、最近は死体が出ないのじゃ。」

「あっ、それは死体まで完全に処分しているからよ。超特殊なスライムがいるのよ。専用の箱に入れて収納できる様にしてあるの。何でも食べて、特殊な薬液を精製するの。」


 ニーナ達はキキの説明を、口を開けて聞いた。


「うにゃ、と言う事は、この瞬間にゼンは誰かを殺して、死体も残さず処理していると言う事なのじゃ。」

「そうなるな。」


 ニーナとギルスは大きな溜息を吐いた。横でティアも大きな溜息を吐いていた。

 突然、姿を現したティアにニーナ達は、驚きの表情を浮かべた。


「うにょ、何時の間に現れたのじゃ。」

「ん、たった今。」

「うにゅにゅ、姿を消して付いて来ていたのじゃな。姿を現したのは何か用があったと言う事なのじゃ。」

「ん、正解。」

「うにゅう、一応、聞くのじゃ。一応な。」

「危険。注意。」

「うにゅう、やっぱり判らないのじゃ。」


 全員の視線が一斉に同じ方向を向き、視線の先にいたキキが肩を竦めた。


「のじゃ姫達が狙われているから、気を付けてと言う事ね。」

「ん、正解。」


 ティアの説明によると、ニーナ達は何者かに狙われていると言う事だった。

 何者かは複数のグループが存在していて、ティアがその内の一つを排除した事が判った。そして、暗殺者であるティアにすら、悟られないグループがゼンによって排除されていた。

 ニーナ達は溜息を吐くと、宿がわりの空き地に戻ることにした。途中の屋台で売っていた魚を、キキが買って空き地に戻った。そこには赤い着物を着た、エンジュが立っていた。


「うにゃ、エンジュ様なのじゃ。」

「暫く、会っていなかったので心配になりましたの。」

「一昨日、同じことを言ってカレーライスを、大量に食べて帰ったのじゃ。」

「うっ、チビ姫は暫く見ない内に、大きくなりましたのね。」

「いくら育ち盛りでもミリも変わらないわ。」


 苦しい言い訳をするエンジュの後ろに数人の男が近づいた。男達の一人がエンジュの首にナイフを突きつけた。


「妙な真似するなよ。この美人に傷を付けたくないだろ。俺もこんな美人を傷物にしたくは無い。」

「うにゃ、あれは手遅れなのじゃ。助ける事は不可能なのじゃ。」


 ニーナ達は男達に背を向けると、テントを張って野営の準備を始めた。

 男達を全く無視して、テントを張り終えてニーナ達は椅子を出して座った。

 関心の欠片すら示さないニーナ達に、男達は戸惑いを浮かべながらも言葉を続けた。


「おい、お前等。この女がどうなってもいいのか?大人しく俺達に着いて来い。」


 男の声が聞こえないのか、ミリアンはニーナ達にお茶を淹れた。

 ニーナ達は静かにお茶を飲み始めた。


「まっ、少しは私の心配をしたらどうですの。」

「ようし、俺達が本気だと判らせてやる。すまんな、恨みは無いが死ね。」


 エンジュの言葉に少しは男達も気の毒に思ったのかも知れない。エンジュが消えるまでは。

 男達は捕まえていた人質が消え、慌てて辺りを見渡していた。男達の頭上に影がおちて、空を見上げた男達は固まった様に動かなくなった。


「ど、ドラゴンだと。」

「人間種が私を殺そうとしますの。お前達に私を殺すことは不可能ですの。」


 長い身体でとぐろを巻いて、男の目の前に牙を剥いた顔を見せた。

 そこには男達と変わらない大きな牙が並んでいた。燃えるような赤毛が口の周りにびっしりと生え、見上げると大きな血よりも紅い眼が男達を睨んでいた。枝分かれした立派な太い角を持ち、ルビーのような鱗が太陽の光を反射していた。


「嘘、だろ?」

「私を殺すと言いましたの。この私を、殺すと・・・お前達、儂を殺すと言うのかえ?」

「うにゃ、エンジュ様の口調が変わったのじゃ。」


 目撃した住人達はエンジュの姿を見て、地面に膝を付いて拝み始めた。

 エンジュの大きな口に光が灯った。キキが無言でエンジュと男達を結界で覆った。


「エンジュ、もういい。」


 何時の間にか戻って来たゼンが短く告げると、エンジュは人型に戻って溜息を吐いた。

 男達は全員、気を失って倒れていた。ゼンは男達を縛り上げると、気絶したままニーナ達が見えないところまで引き摺って行った。


「ゼンは何をしていますの。あんな者達を連れて行っても仕方が無いのですわ。」

「あれは尋問とかじゃないな。キキさんは趣味って言っていたが。野盗は根こそぎ奪われる。」


 ギルスの言葉にエンジュは首を傾げ、ゼンの消えた方向を見詰めた。暫くすると、エンジュの眼が大きく見開かれた。驚いた様に見えた顔は、少し逸らしながらおぞましいものを見る表情に変わった。


「ゼンは何をしていますの。野盗を殺して・・・まさか、野盗の盗んだ物を盗ったのですわ。」

「いつもの事なのじゃ。野盗の命を助ける代わりに、根こそぎ持ち帰るのじゃ。」

「俺、一度、聞いてみた。どうして、皆殺しにしないのかって。ゼンさんはすぐに殺すだろ。野盗なら殺されても文句は言えない。」


 ニーナ達は複雑な表情を浮かべたギルスを見た。興味があるのかティアとヤヨイも、ギルスに向き直って身を乗り出した。


「返って来たのは、野盗を全部、殺すと減る。何人か生かしておくと、再び野盗を組み、人を襲う。溜めこんだところで、ゼンさんが狩るって訳だ。戦利品が増えるそうだ。」

「悪魔の思考ですの。」


 エンジュは眉をひそめて、野盗のアジトから戦利品を根こそぎ回収したゼンを見た。

 鍔広のトラベラーズハットで表情は見えないが、ゼンの口元には邪悪な笑みが浮かんでいた。

 帰って来たゼンは何も無かったように、葉巻を咥えながら空き地の大木に向かった。

 根本に腰を下ろしてトラベラーズハット目深に被り直すと、葉巻を地面に押し付け目を閉じて眠りに就いた。


「ヤヨイも判ったと思うが、あれが二人の理不尽なのじゃ。」

キ♀:エンジュを人質にするなんて、不運としか言いようがないわね。

空♂:今回の襲撃は単なる野盗だった。

キ♀:ティアとゼンが複数の暗殺者ギルドを潰したのでしょ。

空♂:皇帝暗殺計画が有るから、多くの暗殺者ギルドが関わっている。

キ♀:まだ、のじゃ姫達が狙われるのね。

空♂:そうなる。

キ♀:エンジュを人質にするより厄介だと思うけど。

空♂:はは、同感です。

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