東方海洋共和国~料理大会
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時は戻って年末のある日の夕食での出来事。
メイドが来て夕食が出来た事を告げると、ニーナが先頭になって食堂に向かった。
いつものようにメイドに混じって天竜の四人が皿を並べ、エンジュの前に大量の鮪の刺身と山盛りの茹で蟹を置いた。
キキとシェリーナはエンジュを挟んで席に着いた。横にニーナとミリアンが座り、反対側にエレンとララが座った。
「あの三人の横に座ることが出来るのはあの四人だけだな。」
「どうして俺なんだ。言ったのはライ様だぞ。」
エレンが投げたナイフをギルスは、二本の指で挟んで止めた。
「ギルスとロロが対面に座るからだろ。レイとロイも対面に良く座れるものだ。」
「父上、エンジュ様は事あるごとにやって来て、新しい食材とか調理法が無いか訊きに来られます。それに最近、ロイは天竜様達とパーティーを組んで、ドラゴンハートと名乗っていますからね。」
「逞しくなったものだ。」
珍しくゼンが席に着くと、微笑んでいたエンジュが音頭を取って食事が始まった。
翌日、ニーナ達は町の様子を見て回ることにした。
エルドラゴニアとエルノエンジュは順調に建築が進み、商業施設が完成して住人達の家が徐々に建ち始めた。
「今年も残り僅かになって来たな。年が明けるとお嬢が旅立つと言いうかも知れないな。」
「旅立ってもここに戻って来るだろう。拠点も出来た。それに、ここにはお嬢の食欲を満たす条件が揃っているからな。私もゼンさんの美味しいは、楽しみにしているがな。」
ギルスとエレンは労働奴隷達を見張りながら、無邪気に子ども達と町造りを手伝うニーナ達を見ていた。ロイとリイが各ギルドのマスターを伴って、町を歩きながら話し合いをしていた。
「初打ち祭りはエルノエンジュで開催するのでしたね。」
「そうだ。それに新年祭も開催しなければならないだろ。俺達ドワーフは初打ち祭りをするが、他の種族は新年祭が必要だ。別々にするよりは一緒にした方が、良いと俺は思うのだがどうだろう。」
ジョウェンの言葉にリイは顎に手を当てて、考え込んだ様に俯いた。顔を上げるとゼンとキキを見てから、ジョウェンに向き直った。
「一緒にやろう。初打ち祭りはドワーフ族の重要な祭りだ。貴方達が打つ新作は騎士や冒険者、盗賊にすら人気がある。新年祭りはドワーフ族も祝うでしょう。初打ちと新年を同時に祝おう。」
「そりゃ、良い考えだ。各地で初打ち祭りが開かれる。俺達の殆どはシルバークラスの鍛冶師だ。ここの三つの町にはオリハルコンの鍛冶師がいることを知らしめてやろう。俺達が打つ武器は一味どころか二味以上に違う事を教えてやろう。」
「おやっさん。頼りにしているぞ。」
リイは笑顔になってエルノエンジュの町を歩き回った。各ギルドのマスターもリイと一緒に回り、ギルド会員や住人に説明をして回った。商人ギルドからレシピを買った店主達が集まって、話しをしている輪に出会った。事情を聞いたリイは、葉巻を咥えるゼンの前に立った。
「ゼンさんの屋台で食べた料理と、自分達が作る料理の味が劣ると思っています。何か違いがあると思って、話し合っていたそうです。実際、何か違いがあるのですか。」
「大して無い。」
「そうね。大差はないわ。でも、ゼンはその日の気温や、時間で微妙に味に変化を付けているのよ。」
「なるほど。聞いた通りだ。その辺りは経験なのだろう。精進するしかないみたいだ。」
キキの説明にゼンは宙を見ながら、ゆっくりと紫煙を吐き出した。
「そんな事をしておったのじゃ。さすが、ゼンなのじゃ。」
「そんな訳ないでしょ。彼の気分しだいよ。好みも違うから全員が同じ味を作ったら、そっちの方が驚きよ。それより、リイ。全員で一度、料理を作って味見をすればいいわ。そして、悪い所は直して、良い所は共有する。のじゃ姫達はいつもゼンの料理を食べているから、店主達が作った料理を評価してもらうと良いわね。」
「料理大会なのじゃ。審査員は妾がするのじゃ。」
「その話、私も乗りましてよ。」
反り返って宣言をしたニーナの後ろに、扇子で口元を隠したエンジュが立っていた。
料理大会の話が持ち上がっていたが、西方遺跡への調査などが重なり未だ実現していなかった。
使節団に随行した料理人達が、屋台の料理に只ならぬ興味を示しため、ライ辺境伯は料理大会を開こうと提案していた。
ニーナ達は食材を確保するクエストの中で、難易度の高い食材を集めに国境の森へ向かった。
充分な食材が確保され、慌ただしい年末の夕方に料理大会が開催された。
広場に多くの店主が集まった。商人ギルドのサンチョが前に出て、拡声の魔道具を持ってお辞儀した。
「これより、料理大会を開催します。審査にはエルノワールからニーナさんとキキさん。御領主代行のシェリーナ公爵夫人様とハート閣下にお願いします。そして、五人の料理評論家を加えて審査します。そして、特別料理人としてエルノワールのゼンさんが参加されます。」
「どうしてこうなった。」
ゼンの眼が細められ、眉間に皺が寄った。年少組が手伝うべく、エプロンを着けていた。
「ゼン、頑張るのじゃ。」
メニューは肉料理と魚料理の二品に加え、得意料理の一品を作って審査を待った。料理人達の料理が並び始めると、ニーナとエンジュが顔中を笑顔にして味見し始めた。キキとシェリーナは味見をしながら、料理人達とアドバイスや感想を話して回った。
全ての料理を確かめると、サンチョが前に出て恭しくお辞儀をした。
「それでは審査員長のシェリーナ大公夫人様より、結果発表をお願い致します。」
「一番を発表する前に皆さんにお伝えします。同じレシピを再現しても、それぞれの嗜好には差が生じます。それが差になって現れます。それは長所であり、短所でもあるのです。評論家の方々も意見が分かれました。それが一人一人の嗜好と言うものです。負けたからと言って嘆く必要はありません。皆さん料理はどれも美味しいと感じました。さて、最高点を出した方を発表します。」
その場にいた全員の喉が鳴る音が聞こえてきそう静寂が辺りに舞い降りた。
「最高得点はゼン、貴方です。しかし、これは私達がゼンの料理を食べ慣れたからだと思います。貴方達は彼とは違う好みを持っています。ある者は甘く、ある者は辛く、塩が勝っている者もいました。これからこの三つの町を訪れる者にも、独自の嗜好があります。好みに合った味を探し出す事でしょう。自分に合った店を見つける事も、美食を楽しむ事の醍醐味だと私は思います。貴方達は誰もが最高になれる可能性を持っているのです。」
店主達の顔に笑顔が浮かんだ。見ていた住人達の顔にも笑顔が浮かび、何処の店が美味しいと声が上がった。
「妾はゼンの料理が好きなのじゃ。」
キ♀:料理大会なのね。
空♂:本当は年末にする予定だった。
キ♀:リアル時間を反映させたからね。
空♂:無理矢理、ぶっこんだ皺寄せの影響が思ったより大きい。
キ♀:見直しをしないと、辻褄が合わない所もあるかもね。
空♂:うにゅ、します。




