掃討準備
予告なく修正することがあります。
ギャビンは町の様子を細かく語った。
ゴールマン伯爵は王国の法が決めた税率以上に課税してため、商人達は疲弊しきっていた。住人の多くは高騰した物価に、貧困に喘いでいた。更に、優遇されていた無法者達が複数のグループに別れ、伯爵が居なくなっても我が物顔で君臨して住人達を怯えさせていた。そして、無法者達が海賊達と手を結んで、禁制品を流通させていることを語った。
話を黙って聞いていたレイは溜息を吐いた。
「すでに無法都市になっていますね。どこから手を付けたものか。」
「それにしてもレイ君。どうやってあの利己主義ギルドの協力を取り付けたのだ。」
「えっ、そ、それは真摯な話し合いと言いますか、ねっ、ニーナ。」
「うにゃ、突然、振っては駄目なのじゃ。うにゅ、どっちを選ぶかなのじゃ。良い町か、悪い町かなのじゃ。」
ギャビンの問いにレイは複雑な表情でニーナに振ると、ニーナは挙動不審になって蛸口を作った。
「ん?」
「な。」
「めっ!」
「むう。」
「ん。」
「ん。」
話を聞いていたティアはゼンと短い会話を交わした。二人を見て全員が首を傾げて、クスクスと笑うキキを見た。ティナさえも困惑の表情を浮かべてキキを見た。
「もはや、テレパシーと言うべきかしら。ティアはどうやってと聞いたのよ。脅してとゼンが答えて、それは駄目よとティアが戒めて、ゼンが面倒だと言ったの。ティアは取り合えずご苦労様と言って、ゼンが有り難うと答えたのよ。」
「うにゅ、そんな意味があったのじゃ。一文字に沢山の意味があったのじゃ。」
「そんな訳あるかっ!」
キキの説明に納得するニーナの横で全員が突っ込んだ。
「ん。」
「ん?」
「わかんないね。」
「全然、わかんないや。です。」
「そりゃ、そうだろ!」
ララとロロの会話に、ギルスが突っ込んだ。
気を取り直したレイは少し考えて、混乱しているニーナを見た。
「ゼンさんに依頼すると人口が急激に減りそうですね。ニーナ、何かいい方法はありますか?」
「うにゅっにゅっ、妾も判る様に練習を・・・。うにゃ、なるべく殺さずに取り締まるのじゃ。ゼンとキキはすぐに殺そうとするから、殺さないように捕まえるのじゃ。」
ニーナはゼンを見詰めた。ゼンが溜息を吐いて一枚の黒い板を出した。
「ゼン、それはやり過ぎだと思うけど、それに入れられたら矯正どころか精神が破壊されるわ。」
「何じゃ、その黒い板は?」
「あれはアビスプリズン。中は真の闇。アイテムボックスの人間版よ。アイテムボックスやマジックバッグは生物は入れらないけど、空間拡張と代謝調整の魔法が掛けられているの。お腹は減らないけど、光りも音もない無の世界。自分の声すら聞こえない世界よ。試してみる?どんな屈強な者でも五分以上は耐えられないの。」
キキの説明を聞いてギャビンがニヤニヤしながら立候補した。中に入れられ五つ数えて外へ出た。
「これは無理だ。こんな中に入れられたらすぐに発狂するぞ。」
「お嬢、これは極悪の拷問具だ。俺は何分も入って気になった。五つでこれだ。一分も入れられれば気が狂うぞ。」
「快適だ。」
「ゼンはこの中で三年ぐらい眠っていたわ。」
「却下なのじゃ。」
ゼンとキキの言葉に、全員のゼンを見る目付きが変わった。キキがクスクスと笑い、ゼンに合図を送った。ゼンは数枚の板が挟まった別の箱を出した。
「無限牢獄。エンドレスプリズンね。これなら数日は大丈夫よ。収容人数は百万人だから、充分ね。とりあえず全員、収容してから用途を考えればいいのではないかしら。ギルス、入ってみる?」
再度、ギャビンとギルスが入れられて、五分後に出された。
「あの暗闇と比べるとこっちはましだな。光もあるし音も聞こえる。しかし、ギルスを見つけたから近づこうとしたが、どれだけ歩いても近づかない。どうなっているのだ。」
「俺もギャビンに向かって行ったが、距離が全く縮まらなかった。」
「そうね、見えても距離は無限よ。近づけないの。他は見えても一人。使い方次第で大規模な軍隊を、高速で移動させることも可能よ。ただ、収容した人間が死ぬと、出す方法が無くなるのが難点ね。これを見つけた時、中には大量のミイラが出て来たわ。」
「悪夢なのじゃ。」
収容する場所が決まり、無法者達を取り締まる事になった。
ニーナはゼンに極力、動かないように言った。ニーナ達は傭兵ギルドと協力して、一日で百人程度の無法者達を無限牢獄に収容した。
傭兵達の手に余るグループにはギルス達で対処し、いくつかのグループは敵わないと悟ったのか町から出て行った。
「うにゅ、ゼンが居ないのじゃ。」
ニーナの言葉にギルス達の顔色が青ざめた。すぐに戻って来たゼンに、ニーナが飛び付いた。
「何処にいっておったのじゃ。まさか。」
「暗殺者だ。」
「殺したの?」
「収容した。」
そして、ゼンはアビスプリズンを出した。中から、八人の男達が出てきたが、全員が虚ろな目をして口から涎を垂らしていた。
「どれくらい入れていたの?」
「一時間。」
ニーナ達は大きな溜息を吐いた。その光景を見ていた拘束された無法者達が、跪いて助命を懇願した。
「生きている。」
「生きてはいるけど、廃人になっているわね。どうするの?強制労働に参加させる?」
「こいつ等、動けるのか?」
「死霊魔法を使えば問題ないわ。ただ、充分な食事を与えなければ、共食いし始めるの。食事の質は最低でも大丈夫。腐っているとお腹を壊したり、病気になるから普通の人間と同じよ。」
「キキさん、お願いします。」
八人の暗殺者はキキに魔法陣を刻印されると、フラフラと立ち上がり虚ろな目で空を見上げた。ゼンが屑野菜や干し肉を出して地面に放り投げると、八人は座り込んで貪った。
「ゼンさん、どうしてあんな物を収納しているのだ?」
「ダンジョンや魔物の近くで捨てると、臭いで魔物を誘き寄せるから収納したのよ。そして、忘れ去った。彼等はあの程度の食事で、命令すればずっと働くわ。ただ、排泄が垂れ流しになるから、その辺りは命令しておく必要があるわ。管理者が必要ね。」
食べ物が無くなると八人の暗殺者は、地面に座り虚ろな目を空に向けた。その光景を捕えられた無法者達は声も無く、固唾を飲んで見詰めていた。
「さて、こっちはどうするのかしら。廃人にして強制労働させるか、犯罪奴隷になって強制労働させるか。」
「あれでは生きていると言えないのじゃ。レイ、奴らは奴隷落ちは確実なのじゃ。」
「そうですね。しかし、あのゾンビの様な状態は不憫ですね。取り敢えず、奴隷になってもらいましょう。君達もそれでいいですね。」
レイの言葉にに無法者達は激しく頷いた。レイが頷くとキキは筆を出して、無法者達の首にインクを付けた。インクは勝手に広がり、首を一周する模様を作った。
「奴隷紋の上位版よ。逃げれば首が落ちる。命令を拒めば息が止まる。全員に施しましょう。それから、ゆっくりと罪状を聞いて行けばいいわ。さっ、みんな手伝ってね。筆とインク自体が魔道具だから、僅かな魔力で使えるわ。レイ、インクに貴方の唾を入れて。主人は貴方よ。」
手分けして百人近くの無法者達の首に刺青を施した。夕暮れ前に狩りに出掛けるゼンとティアに、キュイ達が着いて行き夕食には多すぎる食材を狩って来た。
新しくなった屋敷でニーナ達はゼンの作った夕食を摂った。
「今日は頑張ったのじゃ。しかし、ゼンもキキも明日は廃人も禁止にするのじゃ。」
空♂:77万中、3500番は上位だよな。しかも、ブクマが増えている。
キ♀:感謝しなさい。素人同然の妄想物語を読んでくれるのよ。
空♂:当然、感謝してますよ。本当に感謝しています。これからも頑張ります。
キ♀:ならいいわ。それにしても、まだ準備なの?
空♂:じ、次回は掃討作戦を派手に実行する・・・はず。多分・・・恐らく・・・きっと。
キ♀:希望なの?
空♂:物語とは時に作者の手を離れて進むことがあるのだ。
キ♀:何となく格好良く聞こえるわね、でも、判るような気がするわね。
空♂:とにかく、頑張ります。




