大工少女
予告なく修正することがあります。
驚いて固まったレイを放置して、ニーナ達が銀色の地面に落書きをして回った。
「お嬢様、そこは通路にしなくては真っ直ぐ進めません。」
「うにゅ、ならば。ロロ、そこは妾が花壇を作るのじゃ。」
「もう、修練場を描いちゃった。です。」
「お嬢様、花壇は通路を挟んで作ると綺麗です。」
「お嬢、レイ君の希望も聞く。」
エレンの一言で年少組が止まって一斉にレイを見た。レイは全く理解出来ずニーナ達の視線に射竦められ、状況を理解出来ずに呆然と立ち竦んでいた。
「説明が先よ。銀色の場所に絵を描くと描かれた物が出てくるのよ。素材やデザインは決まっているけど、配置は自由自在なのよ。あの子達に任せたら迷宮庭園が出来上がるわよ。」
「便利な物ですね。これは一体、何でしょうか?」
「インスタントハウスよ。一度、設置すると動かせないけど、その代りカスタマイズがしたい放題。庭も家の中もね。」
キキの説明でレイは理解したのか、ゼンに使えるデザインや素材を聞くと、面倒になったのかゼンがサンプルをホログラムで出した。沢山の素材を年少組が飛び上がって喜んだ。
「レイ、屋敷はこの辺りにするのじゃ。」
「後ろが崖になっているから、少し放して設置する方がいいでしょう。」
「崖に近づけて設置が良いわね。崖に色々と細工をするから、北面の採光は捨てましょう。その代りを用意してあげる。」
ゼンが崖の岩面に両手を当てると、崖に数個の穴を開けた。キキが穴の中に入り出て来ると、ゼンが穴に入って行った。キキは崖の側面に大きな魔法陣を転写した。
「うにゅ、大きな魔力が発動したのじゃ。」
「この岩山全体が一つの大きなアイテムに変わっています。
「崖の固定化が終わったわ。地震やドラゴンのブレスでも破壊できないわよ。それに通路やら部屋やらはゼンが変えたから、閉じ込められる心配も無いわ。一応、転移魔法陣を設置しておきましょ。」
穴から出たゼンは屋敷のホログラムを出して、屋敷内のカスタマイズが出来るように用意していた。
「間取りは一般的な配置になっているから、広さや部屋数を変更できるわ。その模型を触って変更すれば可能よ。」
レイはキキから説明を聞いて、屋敷の中をレイアウトし始めた。
「レイ、食堂は大きめするのじゃ。お客さんが来ても座れるようにするのじゃ。」
「そうですね。小さめの食堂と、大人数でも対応できる部屋は必要ですね。舞踏会は開くには少し、無理がありますね。」
「あら、そんなことないわ。空間拡張の術式を展開した部屋を用意すればいいのよ。魔法陣なら描いてあげる。ゼンから魔力維持用の魔力タンクを貰うといいわ。」
「そんな高価な物を貰えませんよ。」
「レイ、この屋敷はもう動かせんのじゃ。これに比べたら魔力タンクなど、安い物なのじゃ。」
「カスタマイズに夢中で、これの価値を考えていなかったのね。こんな物、白金貨数十枚でしょうけど、使わなければ唯のガラクタよ。ほんと、ガラクタばかりが増えて行くのよ。」
キキの視線を感じたゼンは、椅子に座って葉巻に火を着けた。そんなゼンを見て年少組が肩を震わせ、エレンがギルスを見て溜息を吐いた。
「よし、庭を造るのじゃ。」
屋敷の位置が決まると、年少組は庭のレイアウトを始めた。噴水や花壇を運んで設置して回った。途中、我慢できなくなったのかエレンが参戦し、試行錯誤を繰り返してレイアウトを決めた。
「普通はシンメトリーに配置するのだけど、これはこれで味があるのかしら。」
「カオスだ。」
少し呆れ気味のキキの感想に、ゼンが短く答えた。
庭の中心に噴水が置かれ、門から玄関まではS字の道が敷かれた。花壇の横に修練場が作られ、反対側に狭いながらの厩舎が置かれた。門の横には門番用の小さな家が置かれた。反対側にレイの希望で畑が置かれた。ララとロロはジャガイモやキャベツ、トマト等の野菜を植えた。
「ジャガは絶対に必要なのじゃ。」
「お嬢様、キャベツやレタス、トマトにブロッコリー等も必要です。」
「うにゅ、ブロッコリーもか。鶏も必要なのじゃ。卵が無いとマヨ将軍が出来ないとゼンが言っておったのじゃ。大豆と言ったか、あの豆も必要なのじゃ。醤油とか味噌はあの豆から出来るそうなのじゃ。ゼン、他に必要な物を教えて欲しいのじゃ。」
「焼き肉。」
「おおっ、大切な物を忘れていたのじゃ。ロロ、その屋根をこの辺りに置くのじゃ。焼き肉をする場所は絶対に必要なのじゃ。」
ニーナの言葉にララとロロが東屋を小路の傍らに置いた。所々に苗木が植えられ花壇や畑以外には芝の種をララとロロが蒔いた。
「レイ君、これでいいかしら?」
キキから確認を受けたレイが頷くのを見て、ゼンは中央に置かれた箱のボタンを押した。
大きな屋敷が組み上がり、設置したレイアウト通りに噴水やら花壇が出来上がった。ゼンがレイを伴って、屋敷に入り暫く出て来なかった。
ロックが歌い成長を促進させた。まるで、早送り映像のごとく木々が成長し、枝を伸ばし、葉をつけた。花壇では花が咲き、噴水から水が吹き上がった。ゼンとレイが出てきた時には、立派な庭園が出来上がっていた。
「凄い物ですね。これが高難易度ダンジョンのドロップ品ですか。父が見ると欲しがりますね。いや、ダンジョンに潜りかねません。ミレーナ様が来られても問題ありませんね。」
「警備が必要なのじゃ。ゼン、人形が良いのじゃ。」
ゼンは溜息を吐いて、四体の人形を出した。幾つかの設定をして起動し、警備に当たらせた。
「ゼン殿、これはゴーレムですか。稼働時間はどれぐらいなのでしょう?」
「連続で十日。」
「ふふ、連続で十日は動くけど、毎日、交代で魔力を補充する方がいいわね。ステータスはゼンに近いから、影人族でも察知出来るわ。これと模擬戦をするときは、魔力を込めて額の魔法石に手をかざすのよ。貴方の魔力波動を登録してあるから、レイ君しかモード変更できないわ。キーワードは「練習」よ。」
キキが柵や扉、窓に防犯用の魔法を付与して一段落した。東屋でお茶を飲み始めた。
年少組が夕食のメニューをあれこれと話している横で、レイはギルスと町の治安回復について話し合った。
「うにゅ、難しい話をしているのじゃ。妾は晩ご飯が気になるのじゃ。」
キ♀:家を建てて終わったのね。
空♂:面目ない。
キ♀:無法者との戦いはどうなったの?
空♂:次回になるかと・・・思います。多分。
キ♀:戦いと言うより一方的な蹂躙になる予感ね。
空♂:確かにレディ・テンペストって登場させたけど、嵐はのじゃ姫の方だからな。
キ♀:響きは良かったのにね。
空♂:うにゅ、何処かでテンペストになる。・・・はず。
キ♀:期待しているわ。




