融合
──さぁ行こう。平和の為に
「ナノカ? 大丈夫なの?」
「うん。任せて、もう目が覚めた」
ネロはそう言う菜乃花の顔をみて笑みを漏らす。菜乃花の顔には迷いがなく、その目はファングを捉えていたからだ。
「なら、お願いしちゃおうかな」
ファングはその光景が不思議でならなかった。
先程までボコボコにされていた菜乃花のあの自信も、それを信用するネロも。別に優勢になった訳でもないのに、菜乃花の目には自分がハッキリと写っており、加えるとその先、自分に勝ったその先まで見ている。
しかし、ファングは不思議と思う反面、高揚感を抱いていた。
それは、これからが本当の戦いになることを期待しているからだ。
「でも剣はどうするの? 多分、普通の剣はアイツに効かないと思うけど」
「それなら、丁度いいのがあるから」
ネロは最初、その言葉の意味が分からなかったが、直ぐに察することが出来た。
「邪剣よ」
微かに呟かれた言葉から、その剣が菜乃花の手に顕現する。
その剣は禍々しく、クレアが持つ聖剣とは対を成す黒き剣。
あの時、邪剣の自我は葬ったが、その剣自体が消滅したというわけではなかった。当初はカエデの案により破壊する予定であったが、菜乃花たっての希望でそれは無くなった。
心の中で菜乃花はサクリファイスに何が通ずるものがあったのだろうか、はたまたサクリファイスを同情したのかは知らないが、菜乃花の強い要望によってカエデも折れたのだ。
「魔神が持っていた剣か·····。相手にとって不足はないな」
そして構える。
クレアとナチスの戦いを背後に二人はジリジリと間を空けつつ、探りを入れる。
先に動いたのはファングだった。
放つ拳は真っ直ぐと菜乃花を捉えている。魔王であったステータス故か、その拳は不可視と表現出来るほどに速い。常人であれば、目にも止まらないだろう。
だが、しかし。
「──ッ!」
ファングは驚愕した。
菜乃花がファングの拳を捉えたからだ。サクリファイスの柄でその拳を受け止め、がら空きな横腹に蹴りを放つ。
「グゥ!!」
あまりの衝撃にファングは顔をしかめながら、威力を殺すため後ろに飛んだ。
だが、菜乃花の追撃。
「やァ!」
掛け声と共に振り突き出された邪剣はファングの肩を突く。そして、貫いたところから真下へと振り下ろす。
しかし、そうなる前にファングの拳が菜乃花の腹部に直撃し、後ろへと吹き飛んだ。
「ふむ、なるほど」
この攻防を終えたファングは、今のやり取り振り返りながら、ある確信にへと辿り着いた。
瓦礫から立ち上がる菜乃花はファングの余裕そうな表情に、少し恐怖を覚えながらも、尚しっかりとサクリファイスを握る。
「ナノカのその目。それは覚悟を決めたのでなく、迷いが晴れただけ。恐らく、先程の魔法少女の言葉に心打たれたのか。〝殺す〟ことに抵抗が残っている」
ファングの〝魔法少女〟という言葉がネロを指しているということは分かっているが、菜乃花はそれ以外の事を想像してつい笑みが零れた。
「その笑み。余裕か?」
どうやら誤解を与えてしまっていたことに菜乃花はかぶりを振って否定する。
「違うよ。たまたま知っていた言葉と被っちゃっただけ」
「だが、戦闘中に笑みを零すなど余裕以外ないのだがな」
それもそうだろう。命の駆け引きをしている最中に笑っているのだ。戦闘狂以外、余裕を見せつけていると感じてしまうのは仕方がない。
まぁ、菜乃花の場合は命の駆け引きではなく、平和のための戦いである。
「私は平和の為に剣を取っているの。命を奪う為に握っているわけじゃない」
「だが、平和を成すためには我を殺さなければならないのだぞ?」
「んーん。違う。平和とは血なんて流れない。命なんて失われない。そんな世界なの」
「それは実現しないだろう」
血が流れない世界なんてない。命が失われない世界なんてない。誰かが傷つき、涙を流す。地球ですら、未だ到達出来ていない世界に、この世界が行けるわけが無い。
だが、菜乃花の目は至って真面目である。
「そんなことない。手を取り合って、協力すれば絆が生まれ、それは歳を重ねるごとに強固たるものに変わる! そんな世界にしてみせるのが、私たちだ!」
「·····そうか」
ファングは菜乃花の言葉に短く答える。
そして、踵を返した。
「何処へ·····」
「なら、貴様に見せてやる。それが無理だという事を」
ファングが向かうのはナチスの所。ナチスはファングを視認すると、クレアと間合いをとり、ファングを出迎えた。
「アレをするんですか?」
「あぁ、頼む」
菜乃花とクレアは何をするのか分からなかったが、ネロは突然と高まった二人の魔力を察知したらしい。急いで、菜乃花とクレアを呼び戻す。
「二人とも危ない!」
反射的に二人の体を支配して、ナチスとファングから離れる。
「急にどうしたんすか!?」
体は操られているもの、口だけは自由なのに気づいたクレアはネロに文句を言う。
「今の二人はやばい。ボクですら知らない魔法を放つつもりだ」
その数秒後、とてつもない光が背後から襲いかかる。
眩い閃光が終わると、ネロたちはゆっくりとその瞼を開く。
特に外傷のない体を不自然に感じながらも、三人はナチス達の方を向いた。
そして驚愕する。
「この魔法は秘伝なのであまり使いたくなかったんですけどね」
そこに立っていたのは長髪に変貌したナチス。目付きも鋭く、魔力なんて先程の二倍も三倍にも膨れ上がっている。
「〈融合〉」
何処か、ファングの面影を感じるナチスの変化に三人はようやく納得がいった。
ナチスが使ったのは闇系統の本質とも言える冥級魔法とはまた別の名付けるなら秘伝魔法。
その名も〈融合〉である。




