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皆で歩む道


 無慈悲にも展開された<偽造世界>に、クレアは後悔を覚える。


 思えば、この世界に召喚されて、日が浅い上、洗脳によって本人自身の戦闘経験はゼロに等しい。命を賭ける覚悟も出来ていなければ、奪う覚悟も未だ。

 それが招くものは、この現状。


「ウグっ」


 ナチスの拳が腹に入り、吐血する菜乃花。


「このっ」


 怒りに身を任せ、剣を振っても、そこにキレはなく虫すら殺せない、殺意の乗らない剣。当然、ナチスに効くはずもなく、遥か後方に吹き飛ばされる。


 <偽造世界>が展開されてから、まだ数十分も経っていない。

 しかしながら、菜乃花の体は瀕死に近しいものだ。顔も本来の整ったものから酷く変貌していえ、体にはダメージが蓄積されており、立っているのが奇跡である。


「お前の相手は私っす!」


 クレアが素早くフォローに回り、ネロが回復を施す。


「<治癒(ヒール)>」


 みるみると回復する顔やダメージ。しかし、


「愚かな……」


 ファングの攻撃がすかさず、飛来する。

 それを、ネロが止める。


「<絶対支配アブソルート・コントロール>」

「──ッ」


 急に体が言うことを聞かないと感じるファングは、その不自然さから一旦、動きを止めるが。しかし、それがネロの仕業と理解し、魔法陣の解読にかかった。それは、ものの数秒で完了し、ファングの攻撃は菜乃花に当たった。


「ナノカッ」

「クハハ、無駄だよ。モロに決まった。しばらくは動けまい。にしても、魔法が魔法を使うなんて真似、珍しい」

「ッ、そうかい」

「あぁ、珍しい。だが、欠点があるとするならば、貴様という存在が魔法ということであろう。魔法とは術者がいて、初めて、その本質を発揮する。貴様が今扱っている魔法は正直、三流だ」

「──ッ」


 ネロは苦虫を噛み潰した顔をする。

 事実、ネロは魔法であるが故に、魔法陣の複雑化は得意でない。加えて、相手が元魔王であることで、ほとんどの魔法が意味を成さないだろう。


「貴様の魂胆は分かる。大方、あの小娘──ナノカと言ったか? それと、あのエクスカリバーを使う小娘が共闘し、我らを相手取る……と言ったところか。戦闘経験がないとは言え、勇者である小娘と、エクスカリバーの使い手が力を合わせれば我らも無事とは行くまい。だが、計算外れだな。ナノカの方のメンタルが弱い」

「ッ」


 それは菜乃花の息を呑んだ音。

 体が不自由ながらも、立とうと力を入れていた矢先にファングの見解を聞いてしまった。そして、それが的を射ているが故に、菜乃花の動きは止まる。

 そこで、菜乃花は視界の端にて戦い続けるクレアを見る。


 自分と差ほど、年齢の変わらない子が剣を握り、戦う様は実に勇者と言っても過言でない。

 だが、反対に自分はどうであろうか。

 

 自分が、勇者というのは前々からネロたちによって聞いていた。

 そう、力があるのは菜乃花なのだ。


 だが、どうだろうか。勇者にしては不格好で無様な自分と、勇者の血筋とはいえ、勇者でない彼女の雄々しいまでの戦闘。

 他者と比べて、悲観になるつもりはなかった。


 しかし、メンタルが弱いとファングが指摘したとおり、今の菜乃花のメンタルというのは弱々しいものである。

 故に意識をしてしまう。


 ここに来た者たちは全員、カエデを愛している者たちだ。その形はどうであれ、カエデを大切に思っているからこそ、彼女たちは命を賭けてここに来た。

 そんな覚悟も持たない自分が、彼の隣に相応しいだろうか。彼と共に殺した者たちに出来ることを探せるだろうか。


 答えは否であろう。


 なら、せめて、自分の命だけでも──


「ナノカには確かに覚悟がないだろうね。命を賭ける覚悟、奪う覚悟。でもね、そんなもの必要ないんだよ」


 ネロの言葉が、悲観的な菜乃花の心を揺さぶった。


 ──覚悟がなくていい?


「平和に等しい世界から来たんだ。そんなもの、あるはずがない。命を奪うことに抵抗があり、そしてまた自分の命を守るのも分かる。だって、誰だって……この世界の人間ですらそうなんだから」


 ──この世界も……同じ?


 それは違うだろう。だとしたら、今ここで戦っているクレアも、他のルートで戦っている皆も覚悟があるから、この場にいるのだ。

 

「誰だって怖いさ。命は……。でも、それでも、誰かの為にと、立ち上がり、剣を握るのが〝勇気〟なんだ」


 ──勇気……。


「勇者ってのは、そんな勇気を持つ、一人の女性が立ち向かった際に世界中の皆が名づけた称号。勇者ってのはなにも一人じゃない。クレアだって、勇気を振り絞って戦っている。他の皆だってそうさ、勇気を出して、一歩前へ進んだ先に力があって、それが──」


 ──無限の力を与えてくれるんだ。


 菜乃花はようやく理解したのかもしれない。


「覚悟はなくても、勇気をもって立ち向かう。それが勇者……」


 確かに人を殺すことには覚悟がいる。でも、そんな覚悟はいらなくていい。だって、これから目指すのは、死んだ人たちに出来るのは──


 ──平和な世界にすること。


 命の覚悟なんて必要ない、平和な世界。それが一番だって、皆が知っている。願っている。

 だから、振り絞るんだ。


「クッ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」


 叫ぶ。

 

 菜乃花は力を、勇気を振り絞る。


「命は奪わない。それが甘い考えだって、知っている。この世界で生きるには仕方のないことなんだ。……だから、それを止める。仕方のないで済まさない世の中──平和な世界を!」


 それが殺した人たちに出来ること。


 ──ねぇ、楓。見つけたよ。これから、一緒に歩む道……ううん、皆で歩む道。


「私は戦う。平和な世界を目指して、勇気を振るうッ!」


 そして少女は立ち上がった。全ては、平和が為に。

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