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好敵手


 今でも目を閉じれば思い出す。容赦のない魔法の数々、逃げ場のない<威圧>。身動きとれない<拘束(バインド)>その空間の中、自分は確かに彼色に染まったと断言できる。アメとムチはもちろんの事、あの感覚を思い出す度に、よだれが止まらない。

 ある人は私にこういった。変態だと、またある人は私にこういった。マゾだと。


 しかし、私にとってそんなもの、言葉が違うだけで一種の忠義だと思う。


 口では否定しても、体が反応してしまう。そんな風に変わってしまったのだ。故に彼を主と認めてしまった。自分を満足させられる唯一の人。彼に求めるは快楽、彼に与えるは忠義。一種の主従関係なのだ。


 だから、認める訳にはいかない。

 アイツのブレスが気持ちいいなんて……


 【ララ。フィールド火山】


 灼熱の炎が皮膚を焼く、常人であれば一秒とて、我慢することはすら叶わないだろう。だが、ここにいる二人は元魔王。この程度の温度、皮膚を魔力で薄くコーティングすれば意味も成さない。


「よぉ、裏切り者」

「久しぶり、チャラ男」


 互いに憎まれ口を叩き合う。

 魔王の頃から、二人は犬猿の仲だった。理由なんて些細な事である。互いの性格が合わないから。


 一見、似たような性格だが、まるで違う。マミラという男は魔族にして、竜人。いろいろと半端な存在であるマミラをララはよく思わなかったし、逆にララという女はマミラにとってめんどくさい女という評価だ。のらりくらりという性格に、嫌いな人はとことん嫌いなララが何度イラついたことか。


「今日こそ決着をつけよう」

「えぇ、あちきもそう思っていたところよ」


 互いに魔法陣を展開する。


「竜人秘伝──<咆哮(ブレス)>」


 先制はマミラだった。アマサとは比較出来ないブレス。外見こそは魔族であるマミラのブレスは、まるで竜が如く、派手に放たれ、その豪炎は真っ直ぐとララに向かった。

 小さな顎から放たれているとは思えないほどのブレスに、ララは特に焦ることもなく、淡々と対処する。


「<闇穴(ブラック・ホール)>」


 闇を凝縮した黒。それがまるで空間にポカンと穴が開いたと言わんばかりに、顕現する。全てを引き寄せる無限の吸引力を持つ闇は、ブレスを瞬く間に吸引した。


「さすがに喰らわないわな! ──<鍵爪>ッ」


 遠距離は不得手と判断したマミラは、接近戦へ誘導する。その脚力は魔族のそれを超えていて、竜人というのを思い出せてくれる。

 マミラは魔族の容姿のまま、竜人の遺伝子を強制的に魔法で組み込まれた存在だ。これも、魔族が人間を滅ぼす為に開発した兵器といえる。しかしながら、マミラはこれに関してこれっぽちも恨みを魔族に抱く事は無かった。逆に、自分を開発した魔族にこう言った。


 ──強くしてくれてありがとう、と


 なんの努力せずして力を得る。確かにそれは、真に努力した者から見ると馬鹿にされたような話だ。だが、事実、それが一番楽である。

 不相応な力は自らを滅ぼす、しかしだ。確かに、楽して力を得た事で何の意味もないだろう。だが、マミラは敗北という言葉を知らない。それが意味するのは先程の「楽して得た力が何の意味もない」という言葉が弱者のものであるという事だ。


 なるほど、確かにそのとおりかもしれない。苦労して得た力に意味があり、楽して得たのに意味はない。しかしながら、それは勝者にこそ言えた言葉だ。

 弱者が幾ら正論を述べたところで、それは負け犬の遠吠えに他ならない。


「<闇纏い>」


 <鍵爪>を難なく受け止めるララ。


 この光景を見ると、互いが憎まれ口を叩く犬猿の仲という言葉よりも、好敵手という言葉が合うかもしれない。常に勝者であったマミラにとって、いつも引き分けるララは好敵手。つまり、ライバルだ。


「何を笑っているの?」


 だから、自然とマミラの口元に笑みが浮かぶのは仕方のないことで、


「そういうお前こそ」


 対し、ララにも笑みが浮んでいるというのも仕方のない事だ。


「さぁ、勝負を続けようぜ」


 そして、長い長い戦いを終焉付ける戦いが幕を開けた。

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