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疑問


 生きるとはなんだろう。

 

 少年がその考えに至ったのは、死んでから一年経った時だった。そして、その考えの答えが見つかる前に、また新たな疑問が浮かぶ。

 

 死ぬとはなんだろう。


 この二つの疑問が浮かぶきっかけは、些細なことだった。自分が死んで、彷徨って、彷徨って、ようやく自我が確立し、記憶のままに人里に降りた。

 その先にあったのは、己の記憶とかけ離れた村。子供たちが走り回り、大人たちは酒や、会話に花咲かせる。そのどれもにあるのは〝笑顔〟だった。


 そこで初めて少年は己が容姿を見る。


 どこか時代遅れな服装に、半透明な体。湖を覗けば、水面に写るはどこか見覚えのある顔。目立った特徴もなく、別に整っているわけでも、崩れているわけでもない〝平凡〟な顔と言えばいいのか。

 そして、ある事実に行き着く。


 ──僕って一体何なんだろう? と。


 生きているのか? それにしては半透明だし、村の子供だちと服装も何もかも違い過ぎている。では死んでいるのか? だが、なぜ自我があるのだろうか。なぜ、半透明ながらも、体を所有しているのか。

 そこである疑問──そう、前述した「生きるとはなんだろう」「死ぬとはなんだろう」という疑問に行き着いたわけだ。


 それを解決するには、自分が実に無知で幼いのだろうか、という事に気づいた少年は、知識と力を得る為に世界を回った。

  

 魔法を使用せずとも、浮く体。己の体内にある魔力の有無。そして、時が経つ度にどんどんと頭の中から知らない知識が浮かんでくるという事に気づいた時。少年は〝理解〟する。


 ──僕は幽霊なんだ、と。


 それを理解した時、思考がナニカに染まっていく気がした。 

 

 ナニカ曰く……


 ──殺せ、と。


 ナニカ曰く……


 ──蹂躙しろ、と。


 ナニカ曰く……


 ──奪え、と。

 

 曰く、曰く、曰く……。


 それはある生き物への憎悪と言えばいいのか。特定された者への怒りが憎しみが最高潮に達した時。少年は決意した。


 ──人間を殺そう。蹂躙しよう。人間のモノを奪ってやろう、と。


 それはもう固く。なぜ、人間を恨むのか。なぜ、人間を憎むのか。少年にとって、そんな疑問など、「生と死とはなにか」という疑問の前には些細なことだ。ただ、その疑問を解消したいから、人間を殺すと決めた。そうすれば、分かるかもしれないから。この疑問が──



 だから、だから、だから──ッ。

 

 こんなハズじゃなかった。なぜ、この痣が、見覚えがありすぎるこの痣が自分にあるのか。物理で出来た痣ではない。なぜなら、物理攻撃は自分に意味を成さないから。

 ではこの痣は間違いなく──呪い。


「なんでだァァァァァッ」


 そこで少年──もといカミュは叫ぶ。

 気だるさなどない。普段の様子と絶対的にかけ離れている叫びに、オールはしめたと、呪術を完成させる。呪力が、魔力が、完全に混ざり合った時、その呪術にも似た魔法が発動される。


「<怨殺>」


 それは呪術であり、呪術ではなく、或いは魔法であり、魔法でないモノ。

  

 魔法とは如何様に生まれたものか、知っているだろうか。


 それは願いだ。願望だ。


 かつてクロクルが願い、〝冥級魔法〟が生まれたように。

 一番最初に誕生した魔法とは、願いから、願望から生まれた。それはいつしか広がっていき、今では誰もが扱えるモノと認識されるまで発展した。オールは別に新たな系統を願ったわけではない。ただ、呪力と魔力を同時に発動しただけのこと。


 カミュの意識を阻害させるのに、魔法を使った。阻害したまま、呪いを発動させた。故に混ざり合った。足に絡みついたカミュの怨霊はいつしか離れていき、真っ直ぐとカミュの元に向かった。


「なんでお前らが僕を襲うんだ!?」


 カミュの叫びに、オールは乱れた髪を整わせながらに答える。


「カミュ様の痣に反応しているのです」

「!?」


 カミュは怨霊たちを振り払いながら、問う。


「どういうこと?」


 カミュの問いは未知への恐怖から出た言葉だろうか。そんなカミュにやはり人間なのだと、幽霊になっても、元が人間なら、今も人間なのだと理解したオールは答えた。


「その痣は呪いです。さて、突然に話は変わりますが、カミュ様は幽霊と怨霊の違いは分かるでしょうか」


 幽霊が未練があり、この世に存在し続けるモノなら、怨霊とは──? 

 カミュはこの問いに即答する。


「幽霊は未練。怨霊は恨み、嫉妬、などの黒い感情があって、それが未練となりこの世に存在し続けるモノってのは常識だよぉ」


 カミュの言葉使いが平常に戻った。それが意味するのは未知が既知へと変わった証拠であり、疑問が解消した証である。わかり易すぎる癖に、オールは苦笑するが、しかし。一応、気づかないフリをして、隙を作るため、そのまま続けることにした。


「正解です。ではもう答えはわかりますよね?」


 カミュをイラつかせないように、だが、それでいて相手に焦りを与えるように、さながら子供に対する口調で言葉を選ぶ。


「カミュ様の未練は人間への恨みと聞きましたので、怨霊の類です。故に呪いを発動させた次第です」

「怨霊たちが持つ恨み、強いては僕の人間に対する恨みを利用した呪術。それが何らかの形で、魔力と合わさり合い、呪術とも魔法ともとれる──さながら、呪系統。というわけかぁ」


 どうやら、会話の最中で怨霊たちをさばききったようだ。多少の汗が額を伝っているのが視認できるぐらい、相手の体力が消耗したのがわかる。

 

「まぁ、器用貧乏な君にしてはよく頑張った方じゃないぃ?」


 オールはカエデと同じく、全属性、系統を操ることができる。カエデと違う点があるとするならば、〝万能〟か〝器用貧乏〟かの違いだけ。しかし、この違いが実にデカイ。


「だけど、種明かししたのが失敗かなぁ。そこらへんは経験不足だよぉ?」

 

 この言葉にオールはほくそ笑む。


 ──かかった、と言わんばかりの小さな笑みだ。


「そうですか。まるで〝子供〟のように未知なるものに対して知りたがっているようでしたので」

「──!」


 そう、カミュは〝子供〟なのだ、成長半ばで死んだ事も相まって、見た目でなく中身が。わかりやすく言うならば、精神が子供と言えばいいのか。

 だから、未知に対して解説もしたし、イラつかせないように言葉を選んだ。全てはカミュに自覚させるため。そして、自らの失敗を知った時、〝子供〟はどのような行動をとるだろうか。


 答えは簡単だ──


「この僕を馬鹿にしたのか!?」


 ──癇癪を起こす。


 癇癪を起こした子供は実に単調な行動──つまり、手を打ってくる。なら、後はもう簡単だ。

 単調な動きを見切り、少し挑発をすればいい。相手は更に冷静さを欠いて、攻めてくる。そこを突けばいい。簡単だ。実に簡単で遊戯に等しい。


 さぁ──


「遊戯を始めましょうか」

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