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エルフ


 エルフ──昔々に滅んだと言われる種族。不死鳥と同じく、伝説と噂されるこの種族。この種族を説明するならば、魔族を超える魔法適性を持つ。今なお生き続ける種族であれば、最強種に間違いなく数えられ、竜種とも渡り合えただろう。そんな伝説の種族がこの場にいる。いや、目の前に立っているという事実にクルムは驚くしかない。加えて、先程の「創造の魔女」という言葉は一体……?


「まぁ、驚くのも無理はない。……ふむ、ここでアイツの株を落とすのも一興か。ならば、教えようか。私が創造の魔女と呼ばれ、エルフなのに魔族として魔王を名乗り、なぜカエデを恨んでいるのか……と言っても、恨んでいる理由なんて単純だが、……まずは順番に話そうか?」


 ウルク……改め、サクラは語りだす。


「我が一族エルフは、かつてこの地で最強として名を轟かせた。個々の魔法戦闘能力はずば抜けて高く。それでいて仲間意識が高いことから、難攻不落のエルフと恐れられたさ。その頃の人間と言えば、何の力も持たない矮小な一族であり、他の種族も我らエルフには勝てやしなかった。だが、我らの里は滅んだ。その元凶は何か……裏切り? 違う。人間? あんな矮小に滅ぼされない。魔王? 当時、魔王は存在しなかった。では答えは誰だろうか? 正解は──神さ」


 端正な顔を歪め、怒りを露わにする。拳び入る力は凄まじく、血が伝う。


「滅ぼした理由は──強すぎた、というだけだった。いずれ、神を超えるかもしれない種族。それがエルフ。神は己が身の安全が為に、私たちを、エルフを殺したんだ」


 瞼を閉じれば、今でも思い出せよう。


 仲間の絶叫も、神の理不尽なまでの力も、目や耳から、体験した全てを思い出せる。大地が血に染まり、仲間は次々と息絶え、残るは自分一人という時に、かろうじて生きていた仲間が転移の魔法陣でサクラを逃がした。


「私の使命は神を殺すこと──神殺しを成さんが為に、私は力を磨いた。唯一の固有能力である『創造』を手に……創造の力は、あるものを代償に、それと同価値のものを創造するスキル。これさえあれば、神殺しの魔法も、力も、何もかも手に入ると思った。変身の魔法を用いて、人間に化け、『創造の魔女』という二つ名を得て、国の信用を取り、神の文献や使用する魔法を調べた。全ては仲間の敵打ちの為に……」


 次の瞬間、彼女の怒りが爆発する。それは神に対する怒りよりも高く、憎しみも、殺意も全てがむき出しとなる。


「なのに、あの男が全てを奪った。私が五百年以上の時を魔法で寿命をごまかしながら得た情報も、唯一のスキルも、私の全てを!」


 魔力が荒れる。高密度の魔力の奔流が偽造世界を埋め尽くす。

 しかして、彼女は咳払いをし、冷静になる。


「事の発端は、彼が神殺しを成した事を風の噂でえ聞いた時よ。私たちエルフですら出来なかった神殺しを、たった一人で成し遂げた化物。それが当時のエヴァン──カエデだった。私はどうすればの探究心と、私が成し遂げたかった敵打ちをやってのけた事に対する怒りを内に秘め、彼に会いに行った」


 敵打ちを偶然とはいえやったカエデに嬉しさよりも怒りが湧いた。それもそうだろう。五百年以上の全てが無駄になったんだから。


「本当は会って、神をどう殺したか聞くだけだった。でも、会ってわかった。──この男の桁違いさに」


 彼女は本能的に、戦闘態勢をとった。それが間違いだったのだ。


「私の神系統は摸倣品。神に対抗する魔法が神の魔法しか思いつかなかったから──でも、彼は正面から神系統を()()()。その時、アイツが私に言った言葉ってなんだと思う?」


 全力の魔法の数々を防ぎ、神系統も意味を成さず、カエデのワンサイドゲームとなり始めた時、閉ざされた口が開いた。


 ──そんなものか?


「私の生涯を注いだ魔法に対する侮辱! その態度、その力ッ。全てが憎かった。私になく、アイツにあるもの。それがたまらなく欲しかった。でもね、負けたんだ」


 魔法による戦いの結末は実に呆気なかった。


「私の死因なんだと思う?」


 サクラからの問い。今まで、その凄まじさに圧倒され言葉もでないクルムが口を開く。


「分からない」


 そう、クルムには分からない。だが、


「なんで? あの男の性格を知っているでしょう? 傲慢で、クズで、残虐な男。いいわ、教えてあげる。アイツはね、私を<火球(ファイヤーボール)>で、よりによって下位魔法で止めをさした。それがどれほど屈辱的だった? どれほど惨めだったと思う!? しかも、それだけでなく、創造も、何もかも私から奪い去った。そんな男をなぜ憎めないでいられる!? 殺したい。でも、簡単には殺さない。アイツの目の前で、女を全員犯して、奪って、喪失感を、絶望感を、アイツの手足を奪いたい。アイツの全てを奪いたい」


 狂っている。クルムはそう感じせずにはいられなかった。

 確かにそうだ。サクラの話だけを聞けば、そうである。カエデは憎むべき相手で、復讐したいことも分かる。だが──


(あの男を知ってしまっている私には、彼が本当はサクラにどうしたかったのかがわかってしまう)


 ならば、自分がこれを終わらせるしかないだろう。

 あの時の貸しを返せるではないか。


「だからそんな私の復讐の為に<死んで>!!」


 言霊の強制力が働く、クルムは自分の頭部に己が手を近づけ、魔法を放つため魔力を高める。そして放たれた魔法が向かったのは──サクラの方だった。


「グッ、ハッ」


 血反吐を吐き出し、サクラはクルムを睨む。


「どうして効かない?」

「貴方が先程言ってたでしょう? カエデに神系統は効かなかった。ならば、貴方の神系統には何か欠点があると知ったのですよ。後は簡単です。相手の魔法に欠点があると知れたのなら、それを壊すのは彼の十八番ですので」


 脳裏に浮かぶのは初めてカエデと戦った時、己が魔法に欠点を指摘し、斬ったこと。それを自分ができる形で再現するなら、自分の十八番である滅系統魔法しかない。


「命名するなら、そうね。──<陣壊>ってところかしら? <破壊(ブレイク)>の他に魔法を破壊できる魔法が増えたことは嬉しいわ。ありがとう」

「クソがッ」


 先程までの気品さは消え、カエデやクルムに対する怒りで我を忘れているサクラ。


「今の貴方では、カエデはおろか私ですら殺せないわ。真の魔女がどんなのか教えてあげる」


 そして、『破壊の魔女』改め、『破滅の魔女』であるクルムが魔法を放つ。


「全てを無に──<崩滅>」

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