創造の魔女
「あははッ、<止まれ>」
「ッ」
この場面を一言で言うならば蹂躙。あの破壊の魔女という異名を持つクルムが、一方的に、ただ一方的に劣勢だった。この場面を作り出しているのは、ひとえにウルクの神系統魔法──言霊が原因だった。
言葉一つで、相手の体の主導権を無慈悲に奪い取る神が使いし、魔法。
「<滅竜」
苦し紛れに魔法を放つ。だが──
「<消えなさい>」
それはカエデが使う魔法陣破壊とはまた違う。カエデのそれが魔法陣の破壊だとしたら、ウルクは言霊により、魔法陣の主導権を奪ったというのが正しい。言霊の力が有効なのは、先程からの攻防で、万物であることが分かる。そして、最も恐ろしいのは魔力を使用しないこと。いや、不必要な魔力を使用しているという表現が正しい。
ウルクはその身に宿る膨大な魔力は、恐らくカエデやクロクルを超える。そんな圧倒的な魔力量が、その小さな身に収まる訳が無い。故に魔力が常時漏れ出ている。しかし、漏れ出た魔力もウルクの魔力に変わりない。故に言霊に宿る魔力はその漏れ出た魔力であり、魔力切れなどと言うことが起きることはまずないだろう。
これにはクルムも思わず──笑みをこぼした。
不敵な笑みとは、また違う笑み。ただ戦いに楽しんでいる──狂っている笑みだった。言うならば、戦闘狂。
「ふん。何その笑み。玩具になったことをまだ自覚してないようね」
続く「跪け」という言霊が働き、クルムは跪く。だが──
「ヒッ!?」
ウルクは恐れた。その瞬間、言霊の強制力が薄れる。その隙を見逃す魔女ではない。
「<滅神>」
出現した黒炎が、瞬時に巨大化する。黒炎と、ウルクの距離は数センチ。不可避な攻撃に、ウルクは咄嗟に言霊を発動するが──
「消えない?」
そう、消えなかったのだ。その理由は単純明快。恐怖という感情が、言霊の力を落としているからだ。神が使用するこの言霊は、恐怖を抱く対象には発動されない。故に、直撃だった。焼き切るまで燃え続ける地獄の炎。これには、さすがのウルクも断末魔の叫びを上げる。
「アアァァァァァアアアッ!!!」
燃える体。皮膚が、髪が、眼球、臓器──彼女を構成する器官が燃える。
「勝った……」
思わずクルムが呟く。
そう。本来ならこれで終わるはずなのだ。はず──
「まだだァァ」
燃え続ける炎から手が伸びる。そして──一言。
「<消えろ>」
消え去った。炎も、そしてウルクの体も──否、消え去った炎が変貌する。人型のシルエットまで変化したそれは、ウルクを一瞬で作り出す。
そんなウルクはニコッと。
「ありがとう」
感謝を述べる。
「貴方が殺してくれたお陰で、頭が冴えた。だから本気で行く。もう貴方を侮らない。下なんて評価しない。貴方は人の身で、魔王と──魔神に近い私と渡り合った。賞賛する」
一歩、また一歩とウルクは近づいてくる。
「でも、もうあんな奇跡は起こらない。私には果たさなければならない事があるから──手始めに貴方。本当は玩具となった貴方を彼に見せようとしたのだけれど……仕方ない。死体となった貴方を彼に送るわ」
クルムには何の話か、わからなかったが、彼女の浮かべる笑みから察した。
「カエデ……?」
「そう、確か今世だとそんな名前だったわ。私がクロクル様に冥級魔法を渡したのも、全てはカエデを殺すため。私から『創造』を奪った彼は許されない。故に、貴方には私の本当の名と姿をお見せするわ──」
すると、クルムには意味の分からない呪文を言い始める。徐々に魔法陣が広がり、そこから鎖が出現した。それは、ウルクに巻き付かれており、込められた魔力も尋常じゃない。そんな鎖が、解き放たれる。
「そ、その姿は──!?」
現れたのは少女ではなく、女性の姿の化物。内包する魔力も然ることながら、問題は彼女の容姿にあった。翡翠色の髪は魔力の風により翻り、前髪から覗く端正な顔。澄んだ蒼穹のような双眸。小ぶりな鼻と、小さい笑みが浮かんだ口元。そして何より、その尖った耳は、正しく──
「エルフ」
昔、それこそ魔王や勇者が誕生する前、とうに滅亡した種族。それがエルフだった。
「そう。私の種族はエルフ。まぁ、今は魔族なんだけど、その残った魔力からこうして生前のエルフの姿になれるの。そんなエルフであったころの真の名は、サクラ。貴方にもわかりやすく私の紹介するなら、そうね──」
一瞬の迷いの果て、彼女は言う。
「創造の魔女かしらね」




