神槍《グングニル》
ちょっと長いです。
暴走──魔力のリミットが完全に外れた状態の事を指す。生命は知らずの内に、己にリミットをかける。それは、己が体を守るためだ。それが外れれば、四肢が引き裂かれ、体が力についていけなくなる。
故に、今のカイトの状態は危険なものだった。
「完全に暴走してるよ。どうするの? ゆーちゃん」
『サナがまだ時間かかりそう、私たちでどうにかするしかない』
吹き荒れる魔力。カイトの顔は苦痛にまみれており、放たれる声は荒れ狂っていた。しかし、どうにかしようとも、魔力とともに放たれている炎がそれを許さず、仮に一撃を与えても<不死鳥の炎>が、それを即座に回復してしまう。
そんな時、聞こえてくるサナの声。
『聞いてください、魔法が完成しました。次の段階に進んでください』
『時間かかりそうだったけど、大丈夫なの?』
『その喋り方はまーちゃんですね。はい、本来ならもう少し複雑化した方がいいのですが、どうやら、そっちが危険そうだったので、急ごしらえでなんとかってところです。でも気にせず、次の段階に進んで大丈夫です。後は私に任せてください』
ここまで言うのだ。サナの言葉を信じるしかない。そう悟ったユウキは体の所有権を引き継ぎ、妖刀・政宗を構えた。
ここで、前もって考えていた作戦を話しておこう。
<不死鳥の炎>は伝説で語られる不死鳥。実際、かの不死鳥はこの世界に居たという伝承がある。しかし、カイトは火の冥級魔法を手に入れた時、ついでに喰らったと言っていた。火の冥級魔法が存在するは『地獄』つまり、不死鳥は何らかの理由で地獄に居たという事だ。
その考えで行くならば、最も確率が高いのは封印。それに懸けたサナの考えとは、<不死鳥の炎>を封印するという至極単純な作戦。
それを実行するにあたり、まず必要なのは封印魔法と、どうやって封印するかの二つだった。封印魔法はかつて、王宮の図書館に立ち入った時に見た魔道書を元にしてサナが作り出すとして、もう一つのどうやって封印するかがポイントだった。
そして考えた結果、<不死鳥の炎>を使わせ、そのタイミングで封印するという作戦にへと至ったというわけだ。
『ゆーちゃん、この一発絶対に外せないよ?』
「ん。わかってる」
今、彼女たちの不安にあるのは失敗したら一巻の終わりだという事実。高密度の魔力を打ち破ってユウキの一発が決まらなければ、封印魔法はもちろん出来ないし、逆に、ユウキの一発が決まっても、高出力の魔力に、サナの封印魔法がかき消されても駄目だ。
チャンスは一回。ぶっつけ本番の作戦。自然とユウキの体は緊張で強ばっていた。額には汗がにじみ出て、妖刀・政宗を構えるその腕は震えていた。
そも、農村の子だったユウキにとって、戦闘というのは縁のないものだった。しかし、魔眼やクルムとの出会いによって、その人生は変わり、今では元魔王と対決するところまで来た。寿命も人間のそれを遥かに超え、もはや人間と形容していいのかも分からない。だが、そんな彼女が緊張している。
それはひとえに、自分が失敗したら──という、ネガティブな発想が頭に浮かんでいるからだ。今までは、犠牲になるのは自分一人だった。失敗してもクルムがいて、安心をしていた。だが、今、この場は違う。失敗したら、アマサもサナも危険に陥ってしまう。その思考で頭がいっぱいになった時、ふと、声が聞こえてきた。
『──ちゃん。ゆーちゃん』
それはまーちゃんの声。
「何?」
『ふふ、緊張してるでしょ?』
「!?」
ユウキはなぜそれをと言わんばかりの普段の無表情が崩れた、驚愕の顔になった。
『それぐらいわかるよ。だって、私の体でもあるんだもん』
まーちゃんの陽気な声がユウキの早まった鼓動を落ち着かせた。
『大丈夫。安心して? 貴方は一人じゃない。私がいるよ? だから、ね』
──一緒に戦お?
友人と呼べる存在はいなかったのはユウキとて同じだった。サナやアマサと仲良くなっても、前述した人間離れしている自分とは……と、一線置いた関係を保っていた。
だからだろうか、まーちゃんに友人という条件を提示されたとき、嬉しかった。こんな自分を選んでくれた事も、まーちゃん、ゆーちゃんという呼び名も考えてくれた事も……全てが嬉しかった。そんな関係を築いてから、サナやアマサとの距離感も縮まり、ユウキにとって世界が広がった瞬間だった。
そんな友人が、そんな友達が一緒に戦ってくれる。これほど心強いことがあるだろうか。
ユウキは、深呼吸を数回する。息を吐き出し、適度に力を抜く。そして、再度構える。それは、先程までのぎこちない構えとは売って違って、綺麗な精錬された構えだった。
『準備できました。ユウキ、お願いします』
サナの合図が聞こえた。
そして、ユウキは駆ける。
「<縮地>」
刹那、驚異のスピードで距離を詰める。
「一緒に、お願い」
『うん』
体が一つしかない彼女たちが共闘するなど、無理な話だ。しかし、そんなつまらない考えも、彼女たちの絆の前では関係ない話だった。
まーちゃんの返事とともに、青白い魔力粒子が放出され、それは人型に形成された。それは<七つの大罪>にも似た分身の技。ユウキそっくり、しかし、その身体にはまーちゃんの人格が宿る。
「私たちの技──」
『──その身をもって喰らいなさい!』
彼女たちが今まで使ってきたのは摸倣──つまり、コピーだった。しかし、これは彼女たちの技。つまり、オリジナルだった。
「『──<神槍《グングニル》>ッツ!!』」
それは突きだった。
そう、突き。それ以上でもそれ以下でもない。しかし、放たれる突きの威力は、まるで神が放つ槍の如く真っ直ぐとカイトの心臓めがけて向かった。混ざり合う、二人の魔力。それが、この奇跡を生み出した。
荒れ狂う炎も、吹き荒れる魔力も、<神槍《グングニル》>が飲み込み、巨大な一つの槍が形成された。体を守る魔力がなくなったカイトは、それに直撃する。
そのダメージは酷く、腕が吹き飛び、全身の皮膚が剥がれ、顔も無残となる。本来なら、この場で決着がつくのだが、予定通り<不死鳥の炎>が出現し、回復を始めた。
「後はお願い」
「任せてください」
後は、サナの仕事。
「顕現せよ、我の思うままに、束縛せよ、眼前に立つ敵に悪魔の悪戯を、祝福せよ、我が同胞に天使の加護よ──<天使と悪魔の囁き>」
己にバフをカイトにデバフをエンチャント。相手の抵抗力が下がったところで、サナは放つ。
「顕現せよ、森羅万象、全てを封印する神の力よ、眼前に存在する邪悪なる力、今此処にその全てを封印す──<無限封印>」
出現する広大な魔法陣。その全てを解読するのは、恐らく不可能ではないかと思われる複雑さ。しかし、封印魔法にとって、これは当たり前。むしろ不可能でないと話にならない。それは封印が解かれる可能性があるからだ。故に、この複雑化では少々至らない部分もあった。
<不死鳥の炎>が、封印魔法の魔法陣に入ったかと、思えばその魔法陣に亀裂が入る。巨大な<不死鳥の炎>に魔法陣が耐えれなくなったのだ。
徐々に広がる亀裂にサナの顔は、緊張に包まれる。風が、魔力が吹き荒れる中、遂に魔法陣が壊れる瞬間──
「<白龍ノ咆哮>」
<不死鳥の炎>と同等か、それ以上の光線が魔法陣から漏れ出始めた炎を押し返す。
「アマサ……」
そうもちろん、やっているのはアマサだ。しかし、それでも、<不死鳥の炎>の封印は解かれていく一方だ。
これを確認したサナは急遽作戦を変更する。
「アマサ、ユウキ、これではもう封印は無理です。私が抑えているうちに、破壊をお願いできますか?」
あれだけの大口を叩いて、この結果。サナの顔は苦虫を噛み潰したものへと変貌していた。しかし、サナが言ったことは事実、なら──
「任せて」
「了解です」
やるしかない。
早速、ユウキが動いた。
「天まで貫け──<神槍>」
渾身の<神槍>。
それを見たアマサが、ユウキの意図していることに気づく。
「全身全霊の咆哮です──<白龍ノ咆哮>」
<神槍>の特性は吸収。あたりの魔力を飲み込んで、それは巨大に、そして強力になる。それを瞬時に見極めたアマサは、己の咆哮をわざと<神槍>に向け放ち、その威力を上げさせた。
その目論見は成功し、二つの技は重なり、巨大な一つの槍が飛来する。神々しいまでの輝きは、凄まじいスピードで封印魔法を貫いた。
そして──
「やった?」
一拍。魔法陣とともに、<不死鳥の炎>も砕け散る。
その光景は綺麗だった。魔法陣が崩壊したことにより、青白い粒子が空に散らばり、<不死鳥の炎>が分散され、飛来しながら、消えてゆく。それは、例えるなら花火。何もない、荒野の空で花火が咲いた。
その一部始終をカイトはおぼろげな意識の中眺める。
「綺麗だ」
それは本心だった。
そんなカイトから、一筋の涙が伝う。
「ライも、ソアラも見てるかな……」
カイトは血も涙もない魔族ではない。ライが死んだときも、ソアラが死んだときも、悲しみが心を埋め尽くした。ぽっかりと穴が空いた消失感があった。それを表に出さなかっただけだ。戦いとはそんなもんだ。失ってばかりで、何も手に入らない。手に入れたものがあっても、心に空いた穴は塞がらない。しかし、そうせざるを得なかった。
故郷を勇者に滅ぼされ、その怒りから三人は冥級魔法を求めた。
人間に憎悪と、怒りを抱きながら、ずっと生きてきた。だけど、カイトたちが望んだのはそうじゃない。
「俺らは楽しく過ごしたかったんだ……」
一番幸せなこと。と、聞かれたら、なんと答えるだろうか。少なくとも、カイトたちは日常と答える。何の変哲のない日常。普通の人生。それは狙って手に入れるものではない。生活をしていれば、自然と得られる地球人からしてみれば、当たり前のことだろう。
しかし、それが手に入らなかった。その最たる原因は間違いなく戦いだろう。
「ははっ、俺も頭がおかしくなったか? 負けたってのに、妙に気分がいい」
ライもソアラも感じたであろうこの気持ちをカイトは噛み締めながら──
「殺してくれ」
そう言ったのだった。
どうだったでしょうか。アマサたちの戦いは、書きたいことが多すぎて困りましたが、個人的には良かったと思います。次は、クルムたちの視点です。楽しみに待っててくれるとありがたいです。
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