不死鳥の炎
「ライも、ソアラも死んだか……」
そうカイトは独りごちる。
その言葉に、悲しみは含まれなかった。それは、まるで最初からわかっていたような口ぶりで、それを発すカイトも落ち着いていて、それに対する怒りも悲しみも、涙すらもカイトは表に出さない。否、出ない。
なぜなら、それは真実で、現実なのだから……。
そんなカイトの前に二人の少女が立っていた。
「アマサの仕事も完了したようです。次は私たちの番ですね」
カイトがライの助太刀に行けないように、今の今まで足止めをしていたのだ。
「ん。速攻で勝つ」
二人が今まで戦わなかったのは、混戦を防ぐためだ。
<惑わしの砂>は何度も言うが、その場に砂を作り出し、幻影を見せ、相手の視界を妨害する魔法。アマサからは<竜化>の事を前もって教えてもらっていた。その威力も……故に、下手に動かず、アマサたちの戦いが終わるまで、足止めに専念していたのだ。
「ふん、小娘が言うじゃねぇか。言っとくけどな、ライもソアラも弱かったから、お前らは勝てたんだ。俺はアイツらよりも、数倍……いや、数百倍つえぇぞ?」
それはハッタリではなく、事実なのだろう。
カイトから放たれる魔力は、確かにあの二人を超えていた。
「冥級魔法がなくとも、魔王だった身。そこらへんの雑魚共に負けるかよ」
そして、カイトは魔力を高める。
「既存の火系統に加えて、オリジナルで編み出した火系統魔法。その真髄を見せてやる」
瞬間、魔力が爆発的に高まった。
「<制御装置解除>」
その一言が聞こえた瞬間、カイトの姿は消える。
「──ッ」
気づいたのはユウキだった。
いつの間にか、足元まで迫っていたカイトに後ずさりながら、腰に差した妖刀に手をかける。
「おせぇ」
しかし、気づくのが遅かった。
腹部めがけた爆発。
「ふぐッ」
あまりの衝撃に、ユウキは思わず吐き出す。
後方に吹き飛び、ユウキの姿は舞った砂煙により、見えなくなる。
「ユウキッ──」
サナが安否を確かめる為、声を上げるが、カイトの攻撃がそれを許さない。
「おいおい、俺を前にして余裕ぶこっくなよ」
「<脚力強化>──エンチャント」
反射的に、エンチャントを施し、難を逃れたが、依然ピンチに変わりない。
「ごほ、ごほっ」
砂煙の中、現れたユウキも腹部に火傷や裂傷があり、今すぐにでも治療しなくてはならない。
だが──
「おいおい、これは遊びか? 戦いにそんな呑気によお。いつまでも学生気分なんかでやってんじゃねよ」
カイトが足で地面を踏む。すると、そこから炎でできた線が、ユウキたちを瞬く間に囲った。
「ここはもう死の闘技場だ。どちらかが殺されない限り、この円からは出ることを許さない。いい加減気づけ、ここは甘い学院でもなんでもない。今ここで覚悟を決めろ──無論、死の覚悟をな」
両手に炎を顕現させる。
「手始めだ──<火球>」
数百の火球がカイトの両手から出現し、それは瞬く間にサナたちに飛来する。
「<全身強化>──エンチャント」
サナは咄嗟に、ユウキと自分にエンチャントをかけ、火球を避け、時に迎撃を始める。ユウキも同様だ。<魔道・一閃>で火球を次々とかき消していく。
「さすがに、これは凌ぐか」
カイトは火球の生成を止め、近接戦闘に移った。狙うはサナ。見る限り付加魔術師であるサナを倒す事が、先決だと悟ったのだろう。
しかし──
「王族武術──<陥没拳>」
サナの強みはそこだ。圧倒的後方支援型であるサナに、本来なら近接戦闘は扱えない。そも、そういう発想に至らないのだ。しかし、サナは、近接戦闘型として、名を轟かせた。
前衛職ならば、だからなんだと気にもしないだろう。しかし、戦闘において意表を突くという一点においては、サナの拳は十分過ぎる程だった。
故に、カイトの顔面にサナの拳が当たるのは確実だった。
「な──ッ」
如何に女の拳といえど、扱う武術は『王族武術』
非力な王族が、最悪の場合の護身術として何百年も前から、存在する武術。その技は柔を基本とし、剛とは違う、しかし、その威力は計り知れないものである。そんな拳は、カイトに大きなダメージを与えたのだった。
「不覚だった。付加魔術師を舐めていた──いや、おの小娘を舐めていただけか」
カイトの頬はサナの拳により陥没し、鼻血や、歯などが折れ、整っていた顔は無残なものとなっていた。
「使いたくなかったが──<不死鳥の炎>」
しかし、カイトは特に痛がる素振りも見せず、淡々と頬に炎を当てた。
<不死鳥の炎>、かつて伝説として語られていた幻の鳥。不老不死と語られ、その炎は『癒しの炎』とまで呼ばれるものだ。
そんな炎は、カイトの頬を一秒もかからず回復させた。
「俺のこの炎は魔力によるものでない。自然のものだ」
カイトは、サナたちの戦意を消失させるためか、語る。
「かつて、この手で冥級魔法を手にした時、ついでに喰らった炎。それがコイツだ。この炎はそれから使えるようになった。故の不老不死。故の強さ。お前たちには使いたくなかったが、仕方ない。しかし、これでわかったろう? 俺があの二人よりも強い理由が……お前たちには絶対勝てないということが……」
そう、確かにそのとおりだ。
幾らやっても、キリがない。魔力切れも関係ない。だが、何故か、二人の戦意は未だ保たれていたままだった。
そんな時、サナが何かを思いつく。
『ユウキ、時間を稼いでくれませんか?』
『どうして?』
『あの炎の攻略の方法が分かりました』
こうして、彼女たちに反撃が始まる。




