白龍
ここで、『竜』という種族について説明しよう。
この世界には、数多の種族が生息しているがその中で一番多いと言われるのが人間族である。頭脳が発達しており、近年では魔法のみならず、新たな技術『科学』というものも生まれた。
さて、そんな人間よりも、遥かに上に君臨する最強種と呼ばれる種族がある。
魔族、獣人族……そして竜族だ。
魔族は魔法に対する適正が高く、その上技術もずば抜けている。それは、『魔法の申し子』と呼ばれているのが何よりの証拠だ。とにかく、魔法に関してはスペシャリストであり、厄介な種族である。
次に、獣人族。これは、人間の次に人工が多く。その理由は獣人の中でも、更に多種多様な個体がいるからだ。そんな獣人だが、魔法の才は或いは人間よりも無い。だが、そのデメリットを上回る程の身体能力がある。兎族は脚力が、熊族は腕力が、などとそんな彼らの厄介さは魔族と張り合うぐらいだ。
最後に竜族。魔族を上回る程の魔力量。獣人を上回る身体能力。全てに置いて、竜族の右に出る者はいないぐらいの力を所持している最強種の中でも最強と名高い種族である。
しかし、その姿は見えない。否、居ない。原因は人間。魔王と、同等かそれ以上の力を秘める竜を人間は畏怖し、絶滅を図った。本来なら決して勝負にならない戦だが、結果人間側の勝利。竜のほとんどは息絶えた。竜は見誤ったのだ。人間の頭脳……いや、ずる賢さを。
罠に嵌め、鱗を引き裂き、翼をもぎ取った。その素材を身に纏い、それを用いて竜を殺した。そんな戦の中、竜は人間を恨み、その復讐心から進化を遂げた。それが、竜人の始まりだった。
「遊戯ですって……?」
ライは、思わず聞きなおす。
「そう。これから始まるのは一方的な蹂躙。私にとって遊戯に等しい時間そのもの……もっとも、それも御主人様の元へと急ぐために少々早めにケリを付けますけど」
その物言いは、ライの闘志に火をつけた。
「如何に竜、如何に竜人といえど、魔王であった私に適うはずもない。それに綺麗な毛並みが血で台無しですよ?」
竜化したといえど、その傷が全快することはない。むしろ、竜という巨大な図体を支えるために前足からは血が再度伝っていた。治癒したと思った前足がこの様。せっかく竜化しても、それでは自分には適わないと思ったのだろう。ライの顔には依然と余裕そうな笑みが浮かんでいた。
「<成長>」
ライは、再度種をまき、成長させ己が分身を作り出す。
「これは先ほどの倍の倍……いや、比較すらも出来ない程に強化を施しました。その手負いの竜の体でいつまで持つか、見ものです」
ライの額に汗が伝う。幾ら、手負いといえど眼前の竜は、あの竜なのだ。
「全ての竜の始祖だと呼ばれる白龍の力、存分に見せてくださいッ!」
強化に魔力をほとんど使った。もし、アマサがこの数百の分身体を突破したなら、自分の敗北は確実。だが、再三言うとおり、相手は手負い。
ライの言葉とともに、分身体が一斉に襲いかかる。
「ふん」
現実というのは残酷だ。
力の差が歴然となるのだから。
一発。足を振り下ろした。そう、振り落としただけだ。十体の分身体をプレスし、その風圧で百体以上を吹き飛ばす。
しかし、吹き飛ばしただけで、ダメージはない。これを知ったライは再度分身体に命令を下す。
──突撃、と……。
これが間違いと知るのに、時間はかからなかった。
「竜系統最上級魔法──<白龍ノ咆哮>」
それはそう。例えるなら光線。レーザーと言える高出力のビーム。
純白な光線が、無慈悲に分身体の全てを焼き切る。
そのあまりの威力に、<偽造世界>は震える。まるで、白龍の咆哮に恐怖しているが如く、地震が、地割れが起きた。
その一部始終を見たライは、ペタンと座り込むしか行動が取れなかった。
「なんなの、なんなのですか……」
目の前の化物に、縮こまり視界の全てを閉ざして彼女は問う。
「先程、貴方も言ってたではありませんか。白龍……全ての竜の始祖であると」
竜人の竜化というのは、本来の姿にへと戻ることだ。
アマサは、つまり、竜族の中でも最強と名高い白龍そのもの。しかし、アマサ自身に白龍だった頃の記憶はなく、アマサはアマサである。
ゆっくりと、竜化を解き、ライに近づく。
「元々、この力は封印していたものです。竜人にとって竜化というのはそう安安としていいものではないですから……」
竜人にとって、竜化というのは神聖な儀式である。故に、本来ならば竜化はしない。あるとするならば、祭典時のみだろう。
「でも、そんなしきたりも、どうでもいいと思えるぐらい、貴方は強かった。御主人様がそれほどまでに大切だった。ただ、それだけです」
ライは、あの時笑みを浮かべ、死んだソアラの事が不思議でならなかった。
だが、今ではわかるかもしれない。
「手負いの体なのに、そこまで彼を想うその心。その心の為すままに振るえる力……確かに、ソアラさんの心がわかった気がします」
自分にそんな自由はあっただろうか? 王として魔族の思え描く王の姿ばっかり考えていて、今までわからなかったのだ。本来の力の用途を……。
それは、自己中心的だ。自分の思う事を実行する。そのために力は存在する。目の前にたちはばかる壁を力持ってしてぶち壊し、己が描いた夢をつかむ。
これほどまでに楽しい事は、ワクワクする事はない。
それを最期に教えてくれた。
そうだ。確かに、これは負け戦だった。なぜなら──
「私はこんなにも空っぽだったのだから……」
想い、それだけは……いや、全てにおいて、自分たちはアマサたちより下だった。
自分の思い描いた夢をつかむだけに、全力を注ぐ。
自分はそんなことが出来ただろうか? いや、そんな事はもう何十年もしたことがなかった。
「そんな事はありません」
え?
「貴方は空っぽなんかじゃない。空っぽなら、貴方がここまで力を得られるわけない」
──そうか。確かに……あの頃は楽しかったな。
ソアラと、カイトと、そして自分は幼馴染で、そんな友人たちに負けたくないと、己の力を磨いた。充実していた。
それが、自分がつかみたかった夢。
楽しいあの頃がずっと続けばいいのに、と。かつて、満天の星空のもと願った、今は昔の記憶。
もし、『次』があるのならば、またあの続きを……。
「お願い、貴方の手で殺してください」
「……はい」
そして、アマサは指先に魔力を集めた。
放つは、先程の<白龍ノ咆哮>のミニサイズ。それは、アマサがライにできる最大限の厚意だった。
──できれば、この姿のままあの世へ送りたい。
そして放った。苦しませないように、一発。心臓めがけて。
そんなアマサの厚意に、ライは笑って返したのだった。




