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竜化


 ライは眼前に広がる事実に目を疑うが、しかしここは戦場。情に流されていれば己の命が危うくなる。事実、ライの目の前にはアマサたちが揃っているし、カイトは<惑わしの砂>のせいか、この場にいない。

 三体一というこの場面において、最優先するべきは己の命と、カイトとの合流。


「<彗星>」


 魔法陣より出現した、彗星はアマサたちの方に向かわず、ライの足元に飛来する。一見失敗のように見えるこの行動は、カイトに居場所を伝えるためである。

 <惑わしの砂>は<偽造世界>のように別次元を生み出す魔法でなく、砂による幻覚及び妨害の魔法。よって、この場所にカイトはいる。ならば、あえて<彗星>を暴発させ、居場所を伝えるのが一番だと考えたのだろう。後は、カイトが来るまで持ちこたえるだけだ、そうライは考えていた。


「ん、じゃあ後は任せた」

「お願いしますね」

「了解」


 そんなライに立ち向かうは、アマサ一人。


「もしかして、お一人ですか?」

「はい。貴方なら私だけで十分です」


 これも作戦の一つである。


 今回、アマサたちの前にたちはばかったのは、火、水、木の魔王。そして、系統にはそれぞれの強みがり、それぞれの弱みが存在している。

 火は木に強く、水に弱いなどが例である。


 よって、今回ライの相手はアマサとなったのだ。しかし、三人で一斉にアマサをメインに戦わせたらいいのでないかと思うかもしれないが、カイトがいる今、そちらの相手もしなくてはならない。そもそも、この<惑わしの砂>はソアラを倒す為だけに発動した魔法だ。言い換えるならば、この場において真っ先に消すべきはソアラだと判断した。


 その場、その場の取捨選択は「終わりの迷宮」での修行の成果とも言える。

 その場の判断、その場の機転を働かせるのは戦闘において重要となってくる。ララとオールが真っ先にアマサたちに教えた事だ。


「では参りましょうか」

「一人なら、こちらに利があります。いくら弱点属性といえども工夫を凝らせば、負けるはずがない」

「なら、打ち破ってみるといいですよ。竜人秘伝の極意みせてあげます」


 両者が、脳内に魔法陣を描く。先手を打ったのはライだった。


「木属性中級魔法<創造豆(クリエイト・ビーンズ)>」


 魔力の凝縮させた豆を散らばせる。


「<成長グロウ>」


 その一言により、豆は成長を始める。

 それはツル。だんだんと人の形を形成していくそのツルはものの数秒で変貌と遂げた。


「行きなさい」


 マスターであるライの命令とともに、ツルは行進し始め、アマサを標的と見定める。

 一斉に襲いかかってくるツルたちに、アマサは特に動じる事なく、魔法を放つ。

 

「火系統、竜人秘伝<咆哮(ブレス)>」


 口元に魔法陣が描かれ、アマサは己の顎を開く、「カァッ!」という声とともにブレスは吐き出され、ツルの兵士たちを焼き尽くす。

 爆炎が荒野に広がる中、ライの姿が消えたことを視認するアマサ。


「<索敵(サーチ)>」


 反応があったのは、アマサの真後ろ。

 驚き、振り返ってもライの姿はない。否、砂煙の中ライはその姿を現す。


「チッ、<鍵爪>」


 小さい舌打ちとともに、右手を振るいライの体を引き裂く。


「これは……ツル?」


 しかし、それは先程のツルによる分身体。じゃあ本物はとアマサが見渡せば、砂煙の中、分身体が一斉に襲いかかてくる。


「面倒な! <咆哮(ブレス)>」


 吐いても、吐いても、一向に減る気配のない分身たちにアマサの魔力はどんどん持ってかれる。


「これで何百体目?」


 辺りには無数のツル。肩を上下に揺らし、息を整えるアマサの元に一つの黒い影が襲う。


「ッ!」


 やや遅れて気づいたアマサが、咄嗟に避けるも右肩を切られた。かろうじてくっついてはいるもの、深く、止めどなく血が溢れでる。


「惜しいですね。後少しでしたのに」


 ライの姿が見え、今の一連はライによるものだと判断する。

 魔力が尽きる、もしくは疲労までまって攻めを始めるライの戦法は、もちろんカエデ対策に組まれているものだ。


「にしても粘りましたね。私の分身体は最初の兵士の何倍にも強化しているのですが……それを一撃を焼き切る貴方の火力には驚きました」


 アマサが己の肩を治癒している時に、話しだしたライを見て、苦虫を噛み潰したような顔をするアマサ。これは強者が弱者に見せる余裕。かつて、人間にもこのような態度をとったなと、過去を思い出す。


 里を滅ぼした人間。仲間を売り飛ばした人間に、復讐せんと有志を募り、反乱を起こした。その時、許しを乞う人間に対し、余裕を見せた。

 そんな自分が、今では同じ事をされている。


 これほど、醜い事があるか。


 しかし、同時にまだまだな実力を身をもって知らされたアマサには笑みが浮かんでいた。


「何を笑って……」


 ライの驚きもアマサの耳には届かない。


「御主人様を助けるまで死ねない。御主人様とともにこの世界を生きたい。そのために貴方を、今ここで倒す」

「ふ、何を言い出すかと思えば……」


 カエデに《魔王装束》があるように、竜人にも似た能力がある。


「<竜化>」


 竜人のルーツは竜にあり、先祖に立つ竜に己が身を変貌させる固有能力。

 竜とは、生態系最強種であり、世界の支配者とも恐れられる種族の一つ。その力は絶対なる力、その容姿は神々しいさを感じさせ、プライドは王族の如く気高い。


「その角……まさか竜人!?」


 魔族にとって、竜人の里の滅亡は大きなニュースとなり、知らぬ者はいない。竜人秘伝も人間が里からその技術を盗み出し、実際に<火炎の息(フレアブレス)>を生み出した。

 そんな、竜人が目の前にいることに驚きを隠せないライは、息を呑みながら変貌する様をただ見つめることしか出来なかった。


 十秒という時間を要し、<竜化>は終わる。 

 そして、顕現するは──


「白龍……」


 白く、純白な毛並み。その双翼で一度ばたつかせただけで一帯の砂煙が晴れる。

 神々しさを感じさせるただずまいに、ライは無意識に後ずさる。


「今まで封印していた力……御主人様のもとへ急ぐために解放した。さぁ遊戯を始めようか」

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