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荒野


 時を同じくして──


「私たちは一斑として、正面からの突撃です。準備はいいですか?」

「「はい(ん)」」


 一斑であるサナ、アマサ、ユウキは正面入口から、ネロが予測したカエデの所在地までを突っ走る。道順はアマサのカエデに鍛えられた索敵で順調に行き、所在地の近くまで特に苦労することもなく進んできたが、ここであることにアマサが気づく。


「設置型の魔法を感知しました」


 <索敵(サーチ)>に魔力を感知したのだ。


「それはどういう類なのですか?」


 サナの問いにアマサが答えようとした瞬間、光が三人を包み込む。


「しま──」


 アマサの声と共に、魔王城から姿を消した。


「ここは?」


 目を開いた先に広がっていたのは、先程までの城内の景色ではなく、荒野。


 どうやら、アマサが一番最後に目を覚ましたらしく、辺りには既に戦闘態勢を整えた二人が居た。


「これは?」

「<偽造世界>犯人はあそこ」


 ユウキが指差した先に立つは魔族、否元魔王。三人にとっては話だけ聞いたことのある、ソアラ、カイト、ライの三人だった。


「どうやら俺らはハズレをひいちまったらしいな」


 カイトがそう呟く。

 以前までの自分たちなら或いは認めていたその事実を、否定する。


「そんなことはないですね」

「じゃあ、その身をもって味わうといいよ! 元魔王とそこらへんの雑魚の違いを」


 ソアラの言葉が開戦の合図となった。


「ライ! サポート頼む」

「はい、任せてください。カイトさん。もう同じ轍は踏みません」


 そして、彼女は構えた。

 それは、普段彼女が真の敵と判断した際に出す本気の構え。あの時は相手を舐めていたのが敗因の一つしてあった。彼女の強みといえばそこだろう。負ければ負けるほど、彼女はそれを修正し、自らの戦闘スタイルを再構築、最適化を繰り返し、彼女は魔王と呼ばれるに相応しい、冥級魔法を手に入れる事ができたのだ。如何に、それが無かったとしても、今まで積み上げてきた敗北という名のデータがある限り、アマサたちに負けることは無かった。


 しかし──


「<彗星>」


 見極められないように、複雑化し、或いはカエデさえも不可能かもしれない魔法構築された、改変魔法。従来の威力を大幅に超え、範囲も、発動に至るまでの時間さえも、カエデを上回るかもしれない、そのぐらいの可能性を秘めた<彗星>だが──


「摸倣──<魔道・一閃>」


 一振りそう、一振りだ。

 それはまるで、カエデが放つ一閃が如く、<彗星>を斬った。


「う、そ……」


 これにはライも開いた口が塞がらない。

 もともとカエデにリベンジするべく必死に考えた魔法だ。そう、簡単に見破られるはずがない。


 ライはもともと、この技を知っていた。カエデの技は今までの歴史と、戦った時に得たデータによりほぼ知っている。この<彗星>はこの<魔道・一閃>を封じる為に複雑化したと言っても過言でない。

 しかし、カエデにならまだしも、その教え子にすら通じないという現実は、ライの戦意を軽く失わせる程には十分過ぎるほどだった。


「この機は見逃さないです──エンチャント、<脚力強化>」


 すかさず、サナがエンチャントを自身に施し攻める。


「させるか! <炎の鎧(フレア・メイル)>」


 ライの体を炎が包み込む。


「ライしっかりしろ! まだ、始まったばっかだ!」

「ッ、は、はい!」


 この様子を見たカイトに不安がよぎる。

 

 ──こいつらの力は舐めると痛い目を喰らうのは、こちら側か、と──


 もともと、こいつら──アマサたちは眼中になかった。というのも、部下からの報告でも、自身が実際に向かった時も、出てくるのはカエデで、カエデが強い、それ以外は雑魚だと、そう思ってしまったからだ。ここに来たのが、或いはナチスなどだったら戦況はまた変わっていたのかもしれない。


 だが、それは舐めていたらの話であり、実際の実力なら負けるはずがない。

 だからこそ、カイトはよぎる不安を押し殺し、努めて冷静に、状況を見て判断を下す。


 そして、ある答えに行き着く。


「アイツがいない?」


 三人の中で、実力順に並べたのならユウキが一番と考えるが、実際は竜人であるアマサだ。というのも、元来竜人とは、力を押さえ込んでる訳で、人間より身体能力が高いのは、もれでた竜の力のお陰である。そんなアマサの姿がないことに気づくには、カイトは遅すぎた。


「きゃ」


 カイトの耳に、声が届く。


「ソアラ?」


 呼びかけても、返事が来ない。

 ここは荒野、隠れるところはない。しかし、ソアラの姿が見えない。それはライも同様だ。


「摸倣──<惑わしの砂>」


 原因はユウキの魔法にあった。この魔法は砂が視界を塞ぎ、モンスターを分断または、自分が逃走する際に使用する極めて簡単な魔法だ。

 しかし、荒野という荒れた地が舞台となった今回の戦いにおいては、そんなお手軽魔法も脅威となりうる。足元には砂。これを利用し、風と複合した<惑わしの砂>なら、簡単に相手を分断することができる。


「ライ? カイト?」


 ソアラが必死に呼びかけても返事がない。

 先程、砂が目を遅い、小さく叫んだソアラは砂を取り除いた視界に戸惑いを見せる。


 だが、この魔法は先程も言ったとおり、お手軽で魔法使いなら……いや、子供でさえも悪戯に使用する魔法。 

 そんな魔法が、元とはいえ魔王に通用するというわけでなく──


「見え見えよ」


 ソアラが控えめに上体を反らす。反らしたところを通過するは、ナイフ。


「殺気が隠れてないわ、おバカさん」


 ソアラが振り向いた先には、ナイフを両手に備えたアマサの姿。


「<惑わしの砂>で視界を悪くし、奇襲。元魔王にまとまって来られると分が悪いからという理由でかしら?」

「……」


 無言を貫くアマサ。


「そ、まぁ、その作戦は今、途絶えた。それに、分断したところで無駄よ? 一体一じゃあ元魔王に勝てやしない。まぁ、私に砂でも少しダメージを与えたのは賞賛できるわ。おめでとう」


 ソアラの言った言葉に間違いはない。むしろそのとおりだ。

 だが、アマサは無言無表情を貫き、ソアラの言葉に動じない。


 そんなアマサが再度ナイフを投げる。


「だから、通じないって──」


 グサッと本来聞こえるはずのない音が聞こえる。

 瞬間、ソアラは血反吐を吐き出す。


「ど、うして……」


 振り返った先に立つのはアマサ。

 しかし、依然と、ソアラの前には無言無表情のアマサが立ち続けている。


「簡単なことです。貴方が先程自信満々に答えた作戦では半分正解でしょうか?」


 <惑わしの砂>で元魔王の三人を分断させるところまではあっていた。しかし、その先に間違いがあった。


「一体一でも私たちは負ける、それは、貴方の言うとおりです。ですので、最初からそのつもりはございません」


 分断したのは、何も一体一に持ち込むわけではない。三体一を作り出す為に<惑わしの砂>を発動させた。


「サナがユウキに変身の魔法をエンチャント。そして、私としてユウキが近づき、その隙を突いての奇襲。これが作戦です」


 これに、ソアラは笑いかけるが、己の命が残り少ない事を察して、アマサに語りかける。


「でも、それを私に話してしまっていいの? もう同じ作戦は通用しないわよ?」


 ソアラが残り少ない力で首を動かし、目線で見つけたのはライ。


「大丈夫です。元より、これは貴方だけに使う予定でした作戦ですので」


 そして、次なる獲物に不敵な笑みを浮かべる三人の少女たちをみて、不意にカエデを連想させた。


「なんだ、最初から、負け戦をしていたのは私たちか……」


 カエデに挑んで負けたように、また、この三人に挑んだ時点で自分たちの負けは確定していた。


「でも、不思議。気分がいいわ」


 そして、笑顔なままソアラは死んだ。

最終章は今回のように、三人称でヒロインたちの戦いが序盤ではメインとなっています。ちゃんとカエデの出番は用意しているので、それまで成長した彼女たちをご覧下さい。

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