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魔系統とは


「──そうして、一時期は和解に成功したってわけ」


 ネロが一区切りし、それぞれの反応を見る。


「王家にそのような話はなかったので初耳です」


 サナの言葉にネロが言う。


「言ったでしょ? 一時期なんだよ。和解が続いたのって、それは王家にとって負でしかないから」


 国民を一つに考えを一つにするには、何かを隠さないとならない。それは『サナの死』然りである。魔族とは人間にとって共通の敵という認識を持たさなければならない。新たな思想が生まれ、勢力が割れないようにするためだ。故に、王家には秘密というのが大量にある。


「その後はどうなったんすか? まだ肝心のカエデや、その……ネロちゃんのことも出てきてないんすけど」

「ネロちゃん……」


 呼びなれない言葉に瞳を煌めかせながら、咳を一つして、ごまかす。


「じゃあ続きね。その後、和解の証としてラシルは己が身をクロクルに捧げ、和解が本格的に成立。その後、マギナ大陸の端、人里少ないところに一軒家を建て、暮らした。まだ、魔族との和解が民に浸透したわけではないからね。そして、そんな二人に翌年、子供が出来た。双子の姉妹で、妹の名前がクリン。そして、姉が──」


 一拍置いて、ネロが話す。


「──ネロ。つまりボクってわけだ」

「ということは──」

「そう。魔系統のルーツはボク自身だよ。それも含めて話そうか」


 * * *


「生まれたか」

「えぇ。双子よ」


 ある一軒家に赤子の泣き声は響き渡る。


「そうか。可愛いな」

「ふふっ、貴方がそうやって笑うの久しぶり」

「……そう、だな。まだ受け入れてもらうには時間はかかるが、頑張るつもりだ」

「えぇ。貴方なら出来るわ。──ところで、名前は考えてくれたのかしら?」

「あぁ。任せとけ。妹がクリンで、姉がネロだ」

「いいわね。じゃあこれからもよろしくね? パパ」

「もちろんだ」


 仲睦まじい会話に挟まれ、双子は笑みを見せる。

 そして、そのまま幸せな道を辿るはずだった……。


「パパ、おかあしゃんは?」


 ネロとクリンが五つ……いや、その見た目に成長する時に、母であるラシルは死んだ。


「お母さんはね。空へ旅立ったのさ」


 ラシルの死因は、別に寿命を全うしたからでない。殺されたのだ。和解に反対する勢力から。しかし、クロクルは諦める訳にはいかなかった。その命を賭してまで、反対勢力に力を振るわず、最期まで話し合いを続けたラシルの事を思えば、そのような判断は出来なかったのだ。


「全ては我が悪かったんだ。だからお父さんは頑張るよ」

「「うん」」


 しかし、不幸は尚、彼らに降り注ぐ。


「おねぇちゃん! おねぇちゃん!!」


 クリン、ネロともに十歳の頃、ネロが病気で死亡。

 原因は黒魔病だった。


 黒魔病……魔力が生まれながらに黒い子に発病する病気。回復、治癒魔法ともに、その黒い魔力が許さず、死にへと至らしめる悪魔の病気。


 そこからだった。クリンの力が目覚め始めたのは……。


「クリン? 何を……」

「おねぇちゃん。今日ね。初めて最上級魔法を無詠唱で発動出来たんだよ?」


 暗い部屋の奥、かつてネロがよく使っていたベッドの近くで、会話が聞こえたクロクルは、目の前の光景に驚愕する。


「ネ、ロ……」


 そう、目の前には死んだあの日の姿のネロがいたのだ。しかし、クリンに返答はせず。虚空を眺めるだけだった。


「クリンこれは……」

「あっ、お父さん。ねぇねぇ、おねぇちゃんが帰ってきたんだよ!」


 死者が復活するのはありえない。ネロなら尚更だ。黒き魔力が邪魔して<蘇生>を許さなかったのだから。


「まさか……」


 クロクルの脳裏にはある言葉が浮かぶ。それは──


 冥級魔法。


 数ある系統の中で、冥級魔法が存在した系統は十一。冥級魔法とは魔法のルーツであり、起源だ。起源魔法とも言うこの魔法は、クロクルが己が人生を賭けて、編み出した概念。

 その本質とは想いにあり、圧倒的な魔力。才能それだけで冥級魔法は誕生しない。想い。それに対する想いが冥級魔法をこの世に誕生させる。


 クロクルが復讐心で冥級魔法を編み出したように、またクリンも家族を失った悲しみでネロを生み出した。


 これが魔系統の始まりである。


 それから、日が経ち、体が成長しようともクリンがネロを手離す事は無かった。

 しかし、クロクルも別にそれに対し、畏怖することも、軽蔑しようとも、ましてやネロという存在をクリンから引き剥がそうとも思わなかった。家族を失った悲しみは分かるから、最愛の妻を失った時と同じ感情を幼子に与えてしまったという罪悪感が、それを許したのだろう。

 

 そして、クロクルが待ち望んだ事が遂に現実になる日が来た。


 王国の王子と娘、クリンの結婚。そして孫の誕生だ。


「お父様……」

「あぁ、わかっている。よくやったクリン」


 ラシルが望んだ。己が望んだ悲願が遂に叶った。


「おぉ、お前がエヴァンか。可愛いな」

「お義父様……」

「おぉ、よく来た。ジング」


 ジング・アラン。アラン王国、王子にして、後に()と呼ばれる人である。


「今日は存分に楽しんでくれ」

「えぇ。楽しませていただきます」


 ニタァとした笑みに気づく者はいない。


「ではクリン。我は、材料を買ってくる」

「お父様。私が準備しますのに……」

「いや、今日は我に任せてくれ」

「それなら、甘えさせていただきます」

「ジングもゆっくりしてくれたまえ」

「えぇ。ありがとうございます」


 そして、クロクルが出かけた。




「あぁ、今日はなんていい日なのだろうか。ラシルと我が望んだ事がやっと……」


 その帰り道、クロクルはあるものを発見する。


「これは血?」


 次いで鼻腔を襲ってくる鉄の匂い。


「これは……もしかしてクリンやジングに──ッ!」


 そして駆けた先、小屋近くの森にてある光景を見る。


「クリン?」


 眼前に広がっていた光景は、倒れているクリン。否、死んだクリン。そして、その先に立っていたのは──剣を握ったジングだった。

次話で過去篇が終わる予定です。

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