魔王城 1
「大きいね……」
菜乃花の声が、魔王城に響き渡る。
門番らしき兵も、当たり前だがメイドなどの使用人もいない無人の城。しかし、漂う緊張感などはさすが魔王城と言えるところだろう。
「気をつけとけ、もうここはアイツのテリトリーだ」
一応注意をかけ、俺らは魔王城を突き進む。
見掛け倒しなのか、一個も罠がない。
常に、気配感知や索敵を発動させているが、それらしき気配もトラップも見当たらない。
「主様……」
「あぁ、わかってる。これは誘われているな」
ここまで進んできたが、実のところスムーズに進めている。あまりに広大で巨大な城故に迷う事は確実。いくら俺でもこんな城を迷わずに歩くなんて事は難しい。しかし、だ。
行き止まりすらもなく、俺らはある場所に招かれているかのように進んでいる。
そして、その答えはすぐにわかった。
「ナチス……」
ある扉を開けた先にいたのはナチス。
「お待ちしておりました。カエデ様」
妙にかしこまるナチスに疑問符を浮かべながらも、俺はナチスのもとへ歩いた。
「ナノカ様たちはすみませんが、ここにてお待ちください」
そして、指図された通りに動けば……
「ッ! これはッ!」
ネロの声にハッとなり、菜乃花たちの方を向く。
「菜乃花ッ」
あれは転移系の魔法陣。
「<転移>」
一つの言葉とともに、その魔法は起動され、青白い粒子を放ち始める。
「菜乃花、ネロ!」
俺の言葉を無視して、魔法陣は完全に発動され、瞬く間に姿が見えなくなった。
こんな芸当ができるのは、俺を除いてただ一人。
「爺さん」
「よく来たな……カエデ」
纏う雰囲気、放つ圧。装いもだが、全て王城の頃とかけ離れたものとなっていた。
「イメチェンでもしたのか?」
「まぁな、カエデとは本気でやり合いたいからな。我の装備は新調した」
一人称まで……どうやら、俺の知ってるクロクル・ファーストとやらはここにはいないらしい。
魔神と恐れられた、最初の魔王クロクル。
「顕現せよ──《魔王装束》」
なら、俺も最初から本気だ。
「<偽造世界>」
ナチスの言葉とともに、それは展開し始め、出現したフィールドはアラン草原。
「安心しろ。あの女共は魔王城の外……確か、終わりの迷宮の近くに転移させただけだ」
俺とクロクルが二人っきりになったところで、クロクルが言う。
「……そうか。まぁ、そこらへんは何の心配もしてねぇよ。お前の事は少しぐらい信用しているからな」
「フッ……そうか。ならば良し。始めようか?」
「あぁ……」
先に仕掛けたのはクロクルだ。
あの魔法陣は<火竜咆哮炎>か。
「<水流五月雨>」
クロクルの魔法と俺の魔法が同時に放たれる。
少しの均衡の末、魔法は消える。
「どうやら、魔力量はさほど差はないみたいだな」
ならば、試されるのは戦闘能力。
「<武具顕現>」
俺は自身の手に魔道・神楽を顕現させる。
「魔道・不知火」
揺らめく火が如く、俺の剣筋を予測させないように……
「闇系統冥級魔法──<常世の闇>」
「──ッ! なんだこれ」
闇が俺の体にまとわりつく。
「黄泉の国に存在する悪の塊よ。生者を許さぬ、屍どもだ」
チッめんどくさい。
「<太陽>」
圧倒的な光で、闇を祓う。
よし、これで──ッ。
「それの弱点を知らずに、よく使ってくれた」
いつの間にッ!
クロクルの手には剣。それは、魔道・神楽よりも数段劣る安物の剣。だが、この状態では俺の命を刈り取るには十分過ぎる程だ。
「だが──<影潜り>」
これなら──しまった。
<太陽>邪魔して影がない。……こういうことか。
「<蘇生>」
剣に突かれ、絶命した俺は、<蘇生>により復活する。
「カエデ……貴様の残り魔力も少ないだろう?」
「……」
やはりバレてるか。
今までは余裕だった魔力も連戦により消耗。恐らく後一回<蘇生>が使えるか使えないかぐらいだ。
「貴様にとって<蘇生>に使用する魔力量もはしたものだが、やはり、ナノカとやらと対決したのが大きな原因となったか」
この《魔王装束》一つでも馬鹿みたいな魔力を消耗する。
転生前ならまだしも、エヴァンの体ではないカエデの体なら保有出来る魔力量もたかが知れている。だが、そうだとしてもやはりクロクルが強いことに変わりない。
「魔力なんて回復する。関係ない」
時間が経てば、魔力は回復する。
しかし、今は戦いの最中。そんな時間はない。
が──
「クロクル……いや爺さん。ネロから全て聞いたぞ?」
「ほう。時間稼ぎか?」
露骨過ぎる時間稼ぎだが、俺の聞きたいことでもあったことだ。
「俺の祖父に当たる人物が爺さんだってことはな!」
俺の言葉に爺さんの眉がピクリと動く。
「時間稼ぎでも構わん。いつかは話すべきだと言うことは理解している。ならば、語るしかあるまいよ」
俺とネロの関係。そして爺さんの物語。
「我の事を……」
ようやく、ネロと楓、更にクロクルの話が書けます。
では次話をお待ちください。




