閑話 princess heart
私の名前は、サナ・アラン。
王族……いや、元王族の姫だった者です。
カエデ様が提案した、サナ・アランの死というのは実行され、国民には隠しているもの、あの場にいなかった、王宮騎士団や王宮魔道士にはこの情報を伝え、数日後には帝国にも伝わりました。
帝国の判断としては、私の死に対する冥福の言葉と花束が送られてきました。
カエデ様の言っていた通りの展開となり、一応は帝国からの脅威から逃れることに成功しました。
学院にはクルム様を通して、退学という形で私が消えた事を伝えました。
同時期にカエデ様とアマサが講師契約の期限と体験入学の終了により、退学。
ここ最近はバタバタと忙しく休む暇もありませんが、私としては胸が高まっています。
今は昔、お母様が健在だった頃、お母様が言っていた事が現実に起こりそうなのですから。
昔から、姫としての振る舞いや、姿勢、マナーなどうるさく躾けられ、時には房中術なども……
·····き、気を取り直して、そんな厳しい生活の中、心の支えとなっていたのはお母様の話でした。
病弱という事もあり、一日のほとんどをベッドの上で過ごしていました。
ですが、お母様はそれを気にも止めず、部屋にくる私を快く出迎えてくれました。
平民だったが故に、お母様が話してくれる話は、王宮で過ごしていた、私には新鮮で面白く、そして何より羨ましかったです。
学院のみんなには、「お姫様って羨ましい」とよく言われましたが、姫というのはそんな良いものじゃあないのです。
だからこそ、奇想天外な日々の話は私の心を掴んだのです。
そして、お母様が話す話といえば、やはり、あの恋の話です。
お父様と出逢った時の事。傘を貸してもらった時の事。
口を開いたら、もう一言目にはお父様の事を話していました。
ですが、そのような話も、私には羨ましいものでした。姫という立場で生まれてきた私に、自由な恋愛はないのですから……。
だからこそ、私は房中術を学ばされたのです。
国にとって利益になる、高貴な方を落とす為に……
嫌だった。
誰が、好きでない相手に自分の初めてを捧げなければならないのでしょう。
初めてぐらい自分で選びたい。結婚する人ぐらい自分で選びたい。
好きな人とキスをしたい。
そんな欲が私の心を支配したんです。
ですが、姫としての私がそれを許さない。
「貴方はもしかしたら隣国の王子さまとじゃなくて、サナが惚れた男の人と結婚できるかもしれないわよ」
お母様のこの言葉。
私の中から消えることは無かった。
姫の自分にそんな自由なんてあるわけないってわかっているはずなのに、こんな言葉にすらすがってしまう。夢を見てしまう。
自分は道具だって事は理解している。
だけど、それが我慢出来なかった。
いつの間にか、私の心にあるものを彼に話していた。
自分は道具だと。自由な恋愛は出来ないと。だけど、そんな恋愛をしてみたいと。
こんな事を話して、何があるのだろうか。
でも、もしかしたら、彼なら慰めてくれるかもと……
「それでも姫なんだよ。お前は……」
返って来た言葉がコレだった。
私は何を期待していたのだろう。
そうだ。私は姫なのだ。私がどう否定しようとも、お母様がいくら夢を見せようとも私は姫。
自由が許されない女──
「お前の意思なんて関係なく、お前の未来は決まって行く……だが、今回に限ってはそうとは限らないかもな」
……え?
彼は座り込んだ私に手を差し伸べる。
「アマサやユウキにも頼まれてるし、お前も自分で言っていただろ? 『その婚約をどうか壊してはもらえませんか』ってよ」
あっ……
彼は私の賭けにも似た事を本気で叶えてくれるのか……
その時の彼の顔は決して魔王と呼ばれた者とは思えない程に輝いていた。
私の鼓動が早くなる。
これって……お母様が言っていたモノ……
『恋ってね。難しそうに思えて、実はそうじゃないのよ。本当に偶然で、でも必然な瞬間。その瞬間に恋は芽生える。私がトウタさんと出逢ったのが、偶然でなく必然であるように、サナの恋も突然に必然と始まるものよ』
これだったのか。
この瞬間。この時点で、私は彼に恋をした。
それは、偶然にも思えるけど必然で……
私は彼に恋をする為に姫として生まれてきた。
だから、役目を終えた姫はもうおしまい。
「ならば、今ここで、アラン王国、国王としてこの場のものに言う。わが娘サナ・アランは死んだ。これをこの場の者だけが知る。国家機密とする」
そしてこれからは──
「ただのサナだ」
振り向き様に彼に最大の笑顔を見せる。
お母様、お伝いする事があります。
私ことサナは、恋をしました。
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