魔王の提案
「サナ・アランは死んだ」
サナを王城へ連れ帰り、クルムに案内された謁見の間にて、俺は王族並びに貴族、そして各学院の学院長にそう告げた。
「ど、どういうことなんだ!?」
トウタが声を荒げる。
まぁ、理解が追いつかない事はわかっている。
後ろに娘がいるのに、その娘はもう死んでいるって聞かされたら、誰だって驚く。
「まぁまぁ、これから詳しい説明をするから」
俺の物言いに貴族が「王に向かって……なんて野蛮なのでしょう」とか「あの無礼者……」とか聞こえてくるが、そんなもん全部<威圧>で黙らせる。
「まず、ここにいるサナは生きている安心しろ」
俺の言葉にトウタが幾分か落ち着きを取り戻したところで本題に入る。
「さて、サナ・アランが死んだという言葉だが、正確的には王族としてのサナが死んだという事だ」
俺の言葉に<威圧>で萎縮している貴族共以外に疑問符が浮かぶ。
「俺の部下に帝国について調べてもらったところ、帝国と魔族側が手を組んでいる、もしくは協力関係にあるという報告が来た」
俺の言葉に全員が目を見開く。
そんな中、一人ある男性が進み出る。
「一ついいか?」
「……誰?」
苦笑しながら、男性は答える。
「クリムゾン学院、学院長、ライト・キザンだ」
ライトが続けざまに言う。
「そして僕が言いたいのは、その部下が嘘をついている可能性だ」
ほう。まぁ考えなくはないが。
「それで、それに対するメリットは?」
「え?」
はぁ? コイツそんなもんも考えないで発言したのかよ。
「だから、メリットだ。分かる? 利益だよ?」
俺の小馬鹿にする言葉に羞恥心で顔を赤く染めながら、ふるふると震える。
「メリットって言葉は僕も知っている。だが、突然出てきた名も知らぬお前の言葉に信ぴょう性がないんだ!」
まぁ、一理あるな。
じゃあ、自己紹介をしようか。
「俺の名前は佐藤楓。詳しいことはそこにいる王様が知っているよ」
ね? と俺は視線をトウタに向ける。
すると、トウタが重い口を開く。
「私たちが召喚した勇者だ」
サナ以外が驚愕する。
「まぁ、最弱認定されて追い出されたけどな」
「それなら、知っている。召喚された勇者のステータスがあまりにも弱かったって話だ」
さっきのお返しか、笑いながらにライトが言う。
しかし、こうなることを予想したから、俺は学院長を集めさせたのだ。
俺は黙って、魔力を放つ。
それは、荒々しく、そして膨大。
「これを見て、自分との格の違いがわからん学院長はいないだろ?」
学院長をこの場に呼んだのは、専門的な知識のない、王族や貴族に俺の力を分からせるためだ。
「あ、な、なんだこれ……」
後ずさりながら、顔面を蒼白させるライト。
「実力はクルムとサナに聞いてくれ。さて、馬鹿共、これで俺の言葉に従うよな?」
最初からこいつらに拒否という選択肢はない。
つか、実際に帝国は魔族と関わりがある。
まず、サナと帝国の皇子の婚約が決まった時に魔族が来た。
人間を絶望、もっと言えばトウタを絶望させるのに一番効率がいいのがサナの死。絶望という感情は呪力に変換しやすいからな。
オールからこの報告が来た時は、合点がいった。
帝国とつながっておけば、サナの死も思うまま。さらに人間側の勢力も分断できる。
あのまま事が上手く進んでいれば、魔族側の勝利は確実だったが、俺というイレギュラーの登場。
だから、爺さんが出てきたんだ。
「帝国、魔族の狙いはサナの殺害だ。だからこそ、サナ・アランを死んだことにする」
先程も述べた通り、アイツらの目的はサナの死だが、厳密は呪力の入手。
しかし、それはトウタたちが生きていることを知っていればなんの支障もない。
国民には黙っていればいいしな。
要は、帝国にサナの死が伝わればいいんだ。
「トウタ判断をしろ。といっても一つしかないが……」
渋るトウタ。
そんなトウタにサナが歩み寄る。
「お父様。私は大丈夫です」
トウタが渋るのは、後継者の問題だ。
サナはトウタとネメスの元に生まれた一人の子供。
皇子との婚約で世継ぎの確保も理由としてあがっていたのだろう。
サナにはこのことを前もって伝えていた。
サナからの依頼である、婚約を壊すというのも、俺の提案には理由の一つとしてある。
「サナ・アランの死というのは、王権の剥奪と同意義。お父様が今も悩んでいるのもわかりますが──」
「違う」
サナの言葉に被せ、トウタが否定する。
俺もサナも予想外の言葉に、驚く。
「そんなことなんぞ心配いらん。問題はお前だよ……サナ」
トウタが弱々しく、サナを抱きしめる。
「私とアイツの中に生まれた唯一の子……心配するのは王以前、親として当たり前だろう」
どうやら、俺はまだ人間……いや、トウタ・アランの事を見くびっていたようだ。
俺もサナもトウタは、王として姫という道具を使っているのかと思っていた。
しかし──
「お、お父様……」
「サナ……」
今、トウタが流している涙は親が娘に抱く愛が故だろう。
決して、世継ぎなどの問題で流す涙でない。
「カエデよ。お主……実力を隠していたのか?」
十分に泣いたトウタが俺に問う。
「いや、勇者でないのは確かだ。あの時魔法陣が反応していたのは、俺の友人だった」
「……だが、先程の魔力……お主は、或いは勇者より魔力を保有していただろう?」
俺は静かに頷く。
「なら頼む。お主の正体なんぞよりも、ここで娘の安全を確約してくれ。さすれば、お主のその提案呑む」
王としてでない、一人の親として、父親としての願い。
不意に地球にいる。家族を思い出す。
父がいて、母がいる。妹がいて……前世での事が嘘みたいに楽しかった。
なら、俺もこの願いに真剣に答えなくてはならない。
「あぁ、任せてくれ。なにより、サナには心強い友人がいる。俺の自慢の奴らがな」
「……なら、安心だ。娘を頼んだよ?」
「あぁ」
「ならば、今ここで、アラン王国、国王としてこの場のものに言う。わが娘サナ・アランは死んだ。これをこの場にいる者だけが知る。国家機密とする」
こうして、サナ・アランは死んだ。そして、これからは──
「ただのサナだ」
俺の言葉に彼女は振り向き様、可憐な笑顔を浮かべたのだった。




