王女救出その後
王女であるサナを抱えながら、俺は<思念>を発動させる。
『クルム聞こえるか?』
『えぇ。<思念>が来た事はもう救出したのね』
『あぁ。これから王族、そして貴族、各学院の学院長を集めてくれ』
『貴方って、実は、というか確実にSでしょ。この鬼畜野郎っ』
『もうなんでもいいから。早く呼んどけよ? 俺らこれから歩いて王城に向かうから。王城に着く前に終わらせとけ』
『ちょ、それは本当に──』
『じゃ、任せた』
ブチッと強引に<思念>を切る。
後で、クルムに謝らないとな。
俺はこれから、ある事をする為にこんな事をお願いした。
まぁ、多分貴族やら王族がでしゃばってきそうだな、と。頭の中でこれから起こるめんどくさいことを想像しながら俺は歩き始めた。
あれから歩いていれば、可愛い唸り声が聞こえてくる。
まつ毛がふるふると震え、そして綺麗なサファイアのように青く、汚れ無き純粋なる瞳が露わになる。
「ふえ!?」
ぼひゅっと聞きなれない音が鳴る。
みるみると頬が紅潮していくのが目に見える。
「よぉ、起きたか?」
「カエデ様!?」
頭が理解に追いついてないな。
「どうだ? 落ち着いたか?」
近くにサナを降ろして、アイテムボックスから取り出した水を渡す。
「はい」
これから帰ったところでクルムに頼んだことは終わってないだろう。
ここらで休憩を入れた方がいいな。
「あの……カエデ様?」
思考にふけっていた俺に躊躇いがちにサナが訪ねてくる。
「なんだ?」
「あのぉ、もしかして魔族から助けてくれたのって……」
「俺だな」
「あうぅぅ」
どうしたんだ?
突然、伏せられた顔に俺は覗き込むように見る。
先ほどの頬の紅潮が顔全体に行き渡っており、羞恥心に支配されている事がわかった。
「別に気に負うことはないだろう?」
「でも、男性に寝顔を見られた挙句、お姫様抱っこまで……あうぅぅ」
あ、そっちだったのね。
「それは悪かった。配慮が足りなかったな」
「いえ、カエデ様が悪いのでなく、私なのですから」
そして静寂。
き、気まずいぞ。
最初は休憩にしようとしていたが、この話題があったせいで気まずいことこの上ない。
なにか、話題を変えようかと思ったが、この世界に来てからというもの、何かと忙しかったので知っているこの世界の情報は、昔の俺が魔王だった頃の話しかない。
それで話してもいいが、なにぶん魔王だったが為に、殺しの極意しか話せない。
──と、俺が内心プチパニックを起こしていると。
「あ、あの時カエデ様が私に聞きましたよね? 何故、帝国との婚約を壊してもらいたいのかと」
話の流れからしておかしい話題であったが、プチパニックを起こしていた俺は、その話題で話すことにした。
「そうだな」
「別に深い意味はないんです。ただ──」
「ただ?」
「好きな人と結婚したいなっと」
まぁ、何時の世もそういう事を考える姫はいるものだ。
「最初は勇者である貴方との婚約の話がありました」
おいッ! それ初耳だぞ。
「ですが、貴方が能なしだとわかった瞬間にその話は終わり、そして次は帝国との縁談の話が上がりました」
それは、分かる。
前にも言った通り、人間側の結束を高めることは大切だ。
「おかしくはないですか? 本人である私の意見を聞かず、私の将来の相手をこうも簡単にあっさりと決められるんですよ? まるで道具みたいに……」
「……」
俺も詳しくは知らないが、『姫』というのは最高の道具なのだということだけは知っている。
しかも、それがサナのように綺麗な女性であれば尚更ということも……
国と国を結ぶ架け橋となるのが姫、国の顔となるのが姫、己の国を発展するのに使うのが姫。
姫とは、女子が思い描くような、そんな良いものじゃない。
姫を一言で表すなら『道具』が一番あっているだろう。
だが──
「それでも姫なんだよ。お前は……」
ここで或いは、例えばラノベ等の主人公は十中八九「そんなことはない。僕は君のことを一人の女性としてみてるよ」と言うだろうが、地球で、しかも平和を謳っている日本で、たかが一五、一六しか生きてない顔だけいい奴がそんな事を言うなんて片腹痛いわ。
姫に自由や普通があるなんて幻想だ。
姫にはそんなもの一切ない。
なぜなら、国の道具に過ぎないから。
「……そうですよね」
サナの顔が先程までの赤面顔とは売って変わり、暗く、絶望が現れている。
「お前の意思なんて関係なく、お前の未来は決まっていく……だが、今回に限ってはそうとは限らないかもな」
「……え?」
ペタリと座り込んでいるサナに手を差し伸べ、俺は言う。
「アマサやユウキにも頼まれているし、お前も自分で言っていただろ? 『その婚約をどうか壊してはいただけませんか』ってよ」
「あっ·····」
姫が最高の道具って事は理解しているし、サナの言った「好きな人と結婚」なんて幻想に過ぎないことも、承知している。
が、そんなもの、魔王エヴァンいや佐藤 楓の足枷とはなりえない。
だからこそ、俺は王族並びに貴族にこう言う──
「サナ・アランは死んだ」
と――
後、少しで三章が終わります。




