魔王の証 1
「なんで爺さんが……」
俺の育ての親で、師匠でもある──クロクル・ファースト。
俺が魔王と呼ばれ始めてから会って無かったが、まさか爺さんも魔王だったなんて……
「何をそんなに驚いている? カエデ」
「爺さんは我の敵か?」
暫しの沈黙。
数秒の時を要して爺さんが一言。
「……そうだ」
「そうか……」
何もおかしいことじゃない。
戦に置いて、親愛な者が敵だなんてなんの支障もない。
眼前に立つ男は敵なのだから……
──だけど、『違う』って言って欲しかった……な……。
「なら、倒す」
「殺る気満々だな。なら、そんなカエデにさらに殺る気になる言葉を送ろう」
やはり、爺さんが……
「「王国に喧嘩を売ったのはわし(お前)だ(ろう?)」」
俺と爺さんの言葉が重なる。
「ありゃ、知ってたのか?」
「いや、流れ的にそうだろ?」
「クハハッ! 面白いな。やはり、カエデといるのは楽しい」
チッ……そうかよ! なら──
「なんで敵なんだよ」
「……人間が愚かだからだ」
そんなもん知ってる。
「カエデ……お前も経験しただろう? 人間の愚かさを、卑しさを、醜さを……」
自分よりも強い奴に媚び、危機が訪れると命惜しさに逃げ、強すぎた力に畏怖し、容姿の違う者を差別する。
人間とは価値のない生き物だ。
「そんな人間に罰を下すんだ」
恐らく、あるいは前世までの俺ならそれに賛同しただろう。
だが、アルテガと出会って、菜乃花と出逢って、そんな人間ばかりでないと知った。
だからこそ、この世界に来た時、直ぐに帰らず、アルテガの言葉を信じてみたのだ。
そして、出逢った。
クレアに、アマサに、サナに、オールに、クルムに、ユウキに、ラナに2組の奴らに……
全てが大切で失いたくない。
アイツらには笑顔でいて欲しい。
だから──
「なら、そんなお前を倒すまでだ」
《状態変化》魔道・神楽、大剣モード。
「君たちは下がってろ」
「「「はい」」」
こいつら、爺さんの仲間か……
「まとめて倒す」
「久しぶりに相手をしてやろう」
爺さんは魔法を発動する気はないな。
なら、先手を打たせてもらおう。
「魔道・不知火」
予測不能の太刀筋。これなら、一撃ぐらい入るだろう。
「小賢しいな」
爺さんは右手を突き出した。
だが、この剣は消える。
もらった。
「──は?」
確かに俺は……
「お前が斬ったのは影だ」
グハッ!
俺の顔面が衝撃に襲われる。
「爺さん……お前はいつ魔法を?」
俺の問いに真顔で返す。
「最初から」
──ッ!
あれは、影人形の魔力じゃなかったぞ。
……いや、これは……
眼前に立つ爺さんの魔力は先ほどよりも強いだと?
「爺さんどんな魔力してんだよ」
「お前も対して変わんないぞ?」
当たり前だ。
この魔王装束を維持するのに魔力切れなんてしたくないから、魔力量をずっと鍛えたんだぞ。
そんな俺と同等か。
面白ぇ。
「七つの罪に裁かれよ──<七つの大罪>」
六人の分身が出現し、爺さんを切りつけようとしたが──
「<七つの大罪>が消えた……だと?」
コイツは魔法と剣技の合わせ技だ。
魔法陣解除されないはず。
「カエデの技でわしの罪を裁けると思うなよ」
……なんだよ、それ。
これ以上の魔法なんて……いや、まだある。
光の極み……アルテガの考案した剣技──
「奥ノ型<天翔破月>」
これなら──
「ほう、あの小娘と同じ技か」
今なんて──キィィィン!!
俺の問いは目の前の事態により、停止する。
「おいおい爺さん。アンタ……」
「今のお前には負けんよ」
チッ、それに、
「爺さん。お前、クレアと戦ったのか?」
「あぁ、お前が王女様を無防備に置いていたからな。その時に突っかかってきた小娘が一人。アイツがクレアというのか」
今回の戦、俺の負けっぽいなコレ·····
なら、早くサナのところに──って訳にもいかないな。
「これはキツイ·····」
今の俺は手詰まりだ。
後ろで黙って見ている元魔王どもならまだ希望はあるが、爺さんは化物だ。
俺の技を防いだ時から思っていたが……爺さん、あんたは──
「何者なんだ?」
今まで魔法使いの老人だと思っていたが、俺の師匠だけあり、俺の魔法の知識は爺さんから教えてもらったものだ。
だが、よくよく考えれば、普通の魔法使いにしては知りすぎだ。
それが、魔王であるという理由だけならいいのだが、それでもこの異常なほどの力。決してただの魔王じゃない。
「わしの正体は──始まりの魔王、またの名を·····『魔神』」
なんだ·····それ?
「ふっ、今は分からぬともそのうちわかるさ。が、とりあえず、お前も拘束するとしようか」
爺さんが両手をかざす。
「時系統冥級魔法──<時の狭間>」
クッ、俺の動きが鈍く。
「拘束」
ガチッ、と体が固まり動かない。
やっちまった。恐らく魔法のせいで口も頭の回転も遅い。
これでは、魔法の発動が……
畜生……
しくじった……
『情けないね……ボクの主様は』
突如として、少女が姿を現す。
辺りは固まったかのように動かない。
そんな中、一人、俺に歩みを進める。
漆黒の髪に赤眼に端正な顔立ち、褐色にも似た肌。黒色の簡素なワンピースをまとった、裸足の少女。
お前は一体……
『しょうがないな。ボクもアイツの元に帰る気はないからね』
そして、彼女が俺の顔に触れた瞬間。
俺の体内にとてつもない魔力が流れ込んできた……




