元魔王と勇者 3
「もう無理っす·····」
四つん這いとなり激しく肩を上下させるクレア。
顔や拳にはモンスターの返り血が付き、体には傷が出来ている。
「なかなか頑張ったんじゃないか?」
無詠唱で<治癒>をかけてやる。
すると、瞬く間に傷が治っていく。
時は既に日が傾き、漆黒の闇が空を支配している夜。
幾多の星たちが夜空に散らばり、煌めく。
クレアの近くには修行の成果といえるモンスターの山。
もちろん全て死んでいる。
所々に上下が別れている死体は俺が切ったモンスターだ。
しかし、それも少数。やはり、クレアという人間はアルテガと引けを取らないぐらいの才能があるらしい。
もっともそれだけでは無いが。
「ぜぇ、はぁ、はぁ。もう動けないっす」
笑みだけは崩さずにクレアが両手を俺に向け差し出す。
「なんだこの手は?」
「えっ? 疲れたんで責任をって思ったんすけど?」
コイツ·····実は元気だろ。
まぁ、ここまでやってしまったのは俺の責任なので、クレアを背負い、おんぶをする。
モンスターは採取した牙や角だけを<アイテムボックス>にへとほおり込む。
これならクエストもクリアだろう。
「へへっカエデの背中大きいっすね」
「·····まぁ体格的には男は大きいもんだろ」
「そういうことじゃないんすけど。まぁ、そうっすね」
夜の森の中、クレアをおぶって歩く。
本当に魔王の頃だったら考えられないな。
「そう言えば、あれからどうだった?」
「へっ?」
「お前はあれからも『堕ちた勇者』なんて呼ばれてんのか?」
本当に今更ながら、俺はクレアに問う。
あの一件はロンの好感度が地に落ち、クレアの生活は幾分か楽になったのだろうが、本人の口から聞いてみたい。
「·····そうっすね。あれからしょっちゅう声をかけて頂けるようになったすよ」
コイツは生まれながらに『堕ちた勇者』というレッテルを貼られて生きているが故に、心の中では思うところがあるかもしれないと思ったが、少し顔を動かし、彼女の表情を見ればそれも杞憂だと思った。
凄く嬉しそうに微笑んでいたからだ。
前とは明らかに変わった。
なら彼女には、これからたくさんのことが起こるだろう。好きな奴が出来て、付き合って結婚して、子供を産んで自由に生きて欲しい。
それこそがアルテガの言っていた幸せなのだろう。
そんな幸せを彼女にも、今まで感じなかった分、存分に感じて生きて欲しい。
だから――
「クレア」
「ん? なんすか?」
「頑張れよ」
脈絡のない言葉に彼女は小首を傾げるが、今は分からなくていい。
クレアは望む未来に向かって頑張って欲しいから。
孤高の魔導王が聞いて呆れる。
それぐらい佐藤 楓として大切なものを作りすぎた。
たくさんの人間と知り合い、そして今も他人の幸せを願っている。
前世では考えられなかった。
俺を悪と決めつけ、殺しにかかる人間どもをあれほど憎んでいたはずなのに、あれほど殺してやりたいと思っていたはずなのに、アルテガと出逢い考えが変わった。
こんな人間がいるのだと気づいた。
憎み、殺意を向けても争いは終わらない。しかし、アルテガは俺に近づいた。憎しみを向けるのではなく、殺意を向けるのでなく、親しみと優しさを向けてくれたのだ。
だからかもしれない。
一筋の希望として俺は『転生』を使った。
そして菜乃花と知り合った。
アイツの温かさを知っている。俺はアルテガと菜乃花のおかげで今生きている。
人間は信用出来ない。
人間の指図では魔王を倒さない。
だけど、己の大切なものを守るために俺は力を振るう。
クレアの幸せを守るために戦う。
俺は、確認する。
己がこの佐藤 楓として触れ合った全てのものを守るために俺は生きるのだと。
だから、そんな大切を脅かす魔王をボコす。
そう決意し、俺は歩みを進めた。




